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“ん?婚約破棄をするじゃなくて、婚約を終わりにしたい……?うーん、ララさんをいじめたりしなかったし、レオン様との仲は良好だったからマイルドになったのかしら?
まぁ、どっちにしろこのような場で言うことではないわよね……”
会場も、しーんと静まり返っていた。
オリビアが口を開こうとした瞬間、レオンハルトがオリビアの前に跪き、オリビアの手を取った。
「え……?レ、レオン様!?」
「オリビアお願いだ、もうこれ以上我慢出来ない!学園生活が楽しそうなのはわかっている……だが、どうか私と一緒に卒業して、今すぐ結婚して欲しい!」
“…………え?……え?……どええええええええええー!?なななな、どう言うことー!?”
貼り付けた微笑みのまま固まったオリビアだったが、内心動揺しまくりで、頭の花もパニックになって謎の動きをしていた。
「え?え?待ってください、ララさんは?」
「ララ……?ララがどうかしたのか?」
全く意味がわからないとばかりに、眉間に皺を刻み、レオンハルトは首をかしげた。
「あ、あの、その、ララさんがレオン様の研究室に入っていくのを何度か見かけて……」
「ああ、ララには研究を手伝ってもらっていたからな。もしかして焼きもちやいていたのか?くく、ララならギルと恋人同士だよ?」
レオンハルトが嬉しそうに目を細めて教えてくれた。
「え?ギル……?あっ!」
“わ、忘れてたー!完全に脳筋の存在を忘れていたわ!
え?いた?いつも一緒にいたの?ランチでも?”
頭の花も動揺して、チラチラとララの隣にいる脳筋を見てはクエスチョンマークを浮かべていた。
「姉上……ギルの事、完全に忘れていたでしょう?」
エリックにジト目で尋ねられた。
「な、なに言ってるのよ!ほほほほほ、忘れるなんて、そんなわけないでしょう?」
頭の花は冷や汗だらだらで誤魔化し笑いを浮かべていた。
「はあ……まぁ、ギルは姉上の半径3m以内接近禁止でしたしね。声もかけるな聞かせるな、存在も認識させるな視界に入るなって……本当横暴すぎるんだよな……」
「ええ!誰がそんな……!」
“それ横暴と言うか酷すぎじゃない!?何その命令!?だから全くと言っていいほど認識出来なかったのね……あの大きな身体に赤い髪で、よく私の視界に入らないように出来たわよね……ある意味すごいわ”
頭の花も驚愕に目を見開いてギルバートを見ていた。
「ん゛ん゛ん、初めて会った茶会の時に暴言を吐いたギルの事なんてどうでもいいだろう?今は返事を聞かせて……?」
跪いたまま、上目遣いでレオンハルトがオリビアに聞いた。
“お前が犯人だったのかー!?”と会場中の生徒が思ったが、オリビアは至近距離でのキラキライケメン上目遣いに、思考が吹っ飛んだ。
“か、可愛すぎるー!あざとい!絶対分かっててこの顔してるでしょー?う……断るなんて無理!”
「あ、あの……私でよければ……慎んでお受けします」
その瞬間、レオンハルトは立ち上がり、オリビアをきつく抱き締めた。
「「「わ~!おめでとうございます!」」」
「「「きゃ~、物語みたいで素敵!」」」
会場中が大盛り上がりで2人の結婚を祝福した。
「オリビア、この指輪を結婚の記念に受け取って欲しい……守りの術が組み込んであるから、私と一緒の時以外はずっとつけていて欲しい」
そう言って、レオンハルトは自分の瞳と同じ色のエメラルドの指輪をオリビアの指にはめた。
その瞬間、オリビアの頭上で小躍りしていた花が完全に見えなくなった……
「ありがとうございます……あら?この宝石……レオン様の腕輪についていたエメラルドですよ……ね……?え……?」
視線を上げたオリビアの目に、レオンハルトの頭上で少し寂しげに、でも嬉しさで揺れている花が飛び込んで来た。
“は?な、何この花……え?え?うわ、みんなの頭上にも花が……は?え?な、なんでー!?”
その日から、オリビアの世界は色とりどりなものとなった。すぐに花が感情を反映していると気付いたオリビアは、誰にも報告しなかった。
“はぁ……今日もレオン様の花は可愛らしいわ。私の一挙一動にこんなに反応して……ふふふ
ぶふっ!ダメ、顔に出してはダメよ……!”
と予想外に腹筋を鍛えることになったオリビアであった。
オリビアのように結婚のために卒業を前倒しする生徒も珍しく無く、近場で言ったらシンシアもオリビアと同時に卒業して結婚した。
レオンハルトの希望で卒業後3ヶ月でオリビアとレオンハルトは結婚した。
王妃様との約束の期限のデビュタントからすぐのことだった。
王太子の溺愛は国民に広く知れ渡り、2人の結婚は国中に祝福された。
卒業式の後は、魔術科のみんなも研究が終わったようで、以前のように会いに来てくれるようになった。
もちろん、ララとギルバートも一緒だ。オリビアは認識していなかったが、いつもララの隣にはギルバートがいて、学園では公認のカップルだったらしい。
でも、ギルバートは騎士団長の息子で伯爵家嫡男、ララは魔力が高く珍しい光魔法が使えるが、普通の平民。
婚約はすんなりとは認められなかったらしい。そこで、レオンハルトの研究を手伝って、功績を上げよと言うことだったのだとか。
まぁ、元々はララに一目惚れしたギルバートが、無理矢理仲間に入れたらしいのだが……
ララの功績は無事王家に認められ、2人は婚約した。
オリビアは、入浴前に指輪を外し、朝着替える時に指輪をはめる。なので、レオンハルトは今でもオリビアの花を毎日見ることが出来た。
それと同時に、レオンハルトは知らないが、オリビアも指輪をはめると花が見えるので、毎日レオンハルトの花を見ることが出来た。
おかげで、2人はいつまでも大変仲睦まじく、歴史に残るおしどり夫婦となった。
「お母さま~」
レオンハルトによく似た息子が駆け寄ってくる。その頭には、犬の尻尾のようにふりふりと揺れる愛らしい花が……
“ああ、今日もなんて幸せなのかしら!”
本編完結です。
この後、番外編としてララ視点等書きたいと思います。
つたない文章ですが、読んでくださりありがとうございました。




