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秋になり、今日はグレースとエミリーの結婚式当日だ。晴れ渡る青空の、秋にしては暖かい日だった。
あの後、オリビアは約束通り週に2回レオンハルトの研究室で2人でランチするようになった。
それ以外の日は、オリビアは信号機令嬢達といつも一緒で、レオンハルトもいつも通りララの隣の席でランチをした。
不思議なことに、毎回ララの隣なのに噂になることはなく、むしろ週に2回2人きりでランチしていて未来の国王夫妻はラブラブだと生徒達の間で認識されていた。
でも、オリビアにしてみればララとレオンハルトが時おり顔を近付けてヒソヒソ話していて、何故噂にならないのかと不思議でならなかった。
リリアンやヴィクトリアは研究が忙しいらしく、訪ねて来るのは月に1度あるか無いかくらいだった。
オリビアが2人を学園で見かけるのはランチの時位で、いつもみんなぐったり疲れ果てていた。
時おり聞こえてくる会話も研究のことらしく、難しい言葉でオリビアやまわりの生徒達にはちんぷんかんぷんだった。
なんとアメリアは、オズワルドの乳母の娘であるメイドと仲良くなっていた。
彼女は2歳年上で、オズワルドともアメリアが疑っていたような仲では無く純粋に姉弟の様な間柄で、恋愛感情なんてとんでもないと笑い飛ばされたらしい。
アメリアがオズワルドに謝ってからわりとすぐに結婚して、今ではのろけ話を聞かされ、毎回オズワルドと共に苦笑いしているそうだ。
シンシアの年上の婚約者はロリ……ん゛ん゛ん、だったらしく、ちょいポチャ妹キャラに変身したシンシアをとても可愛がってくれるらしい。
ダイエットのためにストレッチや散歩をするようにしたが、婚約者はポチャ好きだったようで、お菓子をせっせと手ずから食べさせられ、中々痩せないと嘆いていた。
先日は、お兄様と呼んで欲しいとお願いされたらしく、微妙な顔で報告してきた。
妹じゃなくて女として見てほしいと嘆いていたが……なんと答えていいのか、オリビアは言葉に詰まってしまった。
今後シンシアの婚約者に会った時、正直普通に接することが出来るか不安である。
ステラは、ガツガツキャラのヒューゴに気付けばがっちり捕まっていた。
本人もめんどくさいからどうでもいいらしい。
めんどくさがり屋なので、男子達のアピールにも全く気付かず、その間にヒューゴがさくっと牽制していた。
本人がどうでもいいと言うので、ヒューゴがせっせと飾り立て、ステラはどんどん綺麗になっていた。
流行遅れのサイズが合っていなかったドレスも見事にリメイクし、そのドレスでステラの父に会いに行き、倹約家振りもアピールして婚約者の座をゲットした。
世話好きで頭が良く、人に好かれる明るい性格をしているので、安心して子爵家を任せることができるだろう。
グレースとエミリーの結婚報告は、初夏に行われた。エリックは椅子から転がり落ち、
「え?え?グレースさん、お、お、おん……女なんじゃ!?え?」
と見事にみんなの予想のさらに上を行く反応を見せてくれた。
グレースがエミリーに言い寄っているのに気付いていなくて鈍いなとは思っていたけど、まさかグレースが男だと気付いていなかったとは、誰も予想していない事態だった。
確かに大迫力美女だが、背は高いし声も低いのに……
恋愛対象が男だと思っていたならまだしも、まさかの女性だと信じ込んでいると誰が思うだろうか……
ヒューゴだって兄貴と呼んでいるし、使用人達もみんなお坊っちゃまと呼んでいるのに……
ヤンデレ天才魔術師で頭も切れるキャラだったのに、シスコンわんこ婚約者溺愛キャラに変わったと同時に、勘も鈍いキャラになってしまったようだ。
ちなみに、この時はリリアンにレオンハルト、ヒューゴにステラも揃っていて、みんなで大笑いしてしまって、エリックを拗ねさせてしまった。
笑いすぎたかなと反省してオリビアがエリックに話しかけるも、ついつい吹き出してしまって笑いが止まらなかった。
だが、そこはさすが年期の入ったシスコン、姉上のこんなに笑った顔が見られるなんて嬉しいですと速攻で機嫌が直ったのだった。それでいいのか弟よ……
グレースとエミリーの結婚式は、エミリーが2度目の結婚な上に7歳も年上と言うことを気にしていたので、身内だけのこぢんまりしたものとなった。
グレースはちゃんと男性の服を着ており、ビックリするくらいイケメンだった。
エミリーのドレスは、今日のためにグレースが気合いを入れて作ったもので、エミリーの魅力を最大限に引き出していた。
「エリックも無事入学して、恐れ多くも次期公爵様にと指名していただき、完全に私の手を離れました。
亡くなった主人を忘れることが出来ずに色々悩みましたが、グウェイン(グレース)様は亡くなった主人への想いも全て受け入れると言ってくれて……
主人の時とは違い、ゆっくりゆっくり私の中に染み込んで、気付けば私の心の中はグウェイン様でいっぱいになっていました。
ふふ、若い頃とは違い踏み出すのに勇気が要りましたが、これからはグウェイン様の腕の中で、ゆっくり穏やかな結婚生活をおくりたいと思います」
そう言って穏やかに微笑むエミリーは、暖かな秋の日差しを受けて、愛の女神のごとく眩しく輝いていた。
“ううう、グレースさん、エミリーさん、本当におめでとう!グレースさんの愛が大きすぎて眩しいわ!
あの慈愛に満ちた眼差し……素敵すぎる”
頭の花もオリビア自身も、あまりの嬉しさにその日は涙が止まらなかった。
はぶてる……方言だったんですね。うまい言い回しが思い付かず……怒るでもないし、むくれるも違うし……一番近い拗ねるにしてみたけど、なんだかしっくり来ません(>_<)