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「あれは、母がお世話になっている商会の末の息子のヒューゴです。そう言えば、姉上がヒューゴと同じクラスだったと言っていました。
……僕、姉上のあんな笑顔久しぶりに見ました」
「……私は初めてよ」
みんなそれぞれ同意だったようで、ヒューゴに対する悔しさや嫉妬を滲ませていた。
「きゃぁ、オリビア様凄く可愛い!花の妖精と言うレベルじゃないわよね!女神様みたい!」
そんな中、空気を全く読めない美少女ララが、隣の男子の腕をバシバシ叩いて興奮していた。
「オリビア様、ヒューゴ君お待たせ~!」
急に乱入してきた信号機令嬢3人にオリビアは驚いたが、アメリアに目で制されて話を合わせることにした。
ヒューゴは、元々オリビアと信号機令嬢達が待ち合わせしていたんだなと思い、特に何も言わなかった。
「そう言えば、オリビア様がいつもつけているネックレス、とても素敵ですよね」
「あ、私も思ってました。レオンハルト殿下の瞳と同じ色ですよね……もしかして、殿下にいただいたんですか?」
「ええ、そうなの。婚約が決まった翌日に婚約の証だと言って、レオン様に頂きました」
「「「きゃ~!素敵!」」」
何故かネックレスの事を聞かれたので答えると、3人は声を合わせてはしゃいで見せた。
「本当に仲がよろしいですわよね!先日なんて、レオンハルト殿下にあ~んして貰って……きゃ~!」
「お前、そんなことしてたのか?あはははは、そりゃすげー噂になるわけだ。
人前でキスとかするなよ?あはは」
「な……ち、ちがっ!あれはぼーっとしてたら何故か口に入れられてただけで……そんな、キ、キスとかするわけ……」
オリビアは先程笑顔が出てしまい表情が崩れたからか、今度は真っ赤になってあせってしまった。
頭の花も、わたわた焦りながらもピンクのハートを作っていた。
「きゃ~!ヒューゴ君、キスだなんて……オリビア様達は、やっぱりもうキスはされましたの?」
ぼんっ!わたわたわたわた、ぶわ~!キラキラキラキラ
「くすっ、あんまりオリビアをいじめないであげて?」
急にオリビアの後ろからレオンハルトが現れ隣に座り、オリビアの肩を抱いて引き寄せた。
「レ、レオン様!」
「「「きゃ~!レオンハルト殿下よ!やっぱりラブラブ素敵だわ!」」」
「あ、私達お邪魔ですよね!ほら、ヒューゴ君行くわよ!」
きゃーきゃーはしゃぎながらも空気を読んで、ヒューゴを連れてその場を離れようとする信号機令嬢達をレオンハルトは引き留めた。
「いえ、私の方が急に現れたんですし、そんなに気遣わないでください。
よければこのまま私もご一緒していいですか?経済科でのオリビアの様子も聞きたいですし……」
「ええ、もちろんですわ!あら……?でも、その……オリビア様が……顔が真っ赤ですけど、お熱でも有るのでしょうか?
そう言えば午前も体調悪そうでしたし、保健室に行かれた方がよろしいかしら?」
オリビアは恥ずかしさの限界突破で、真っ赤になって瞳を潤ませ、ぼーっとしていた。
頭の花も、ピンクのハートの真ん中で、赤くなってとろんとしていた。
「確かに……熱があるようですので保健室に連れていきますね。また今度ランチをご一緒させてください。
オリビアに貴女方のようなクラスメイトがいて安心しました。今後も私の大切な婚約者を、よろしくお願いします。
オリビア、自分で歩ける?」
爽やかスマイルで信号機令嬢達にお礼を告げ、レオンハルトはオリビアと共に保健室へと向かった。
「は~、死ぬかと思った」
「本当、本当。生きた心地がしなかったわ」
「オリビア様が話を合わせてくれてよかったわ」
赤、青、黄色の順番で小声で口を開き、ぐったりと背もたれにもたれ掛かった。
「え?話を合わせてって、待ち合わせしてた訳じゃなかったのか?」
ヒューゴも何となく小声で聞き返した。
「してないわよ。むしろお話したの、入学式の日以来よ。ああ、あの日はバカにして悪かったわね。
でも、今日助けてあげたんだから、これでチャラね。
あんなに仲良さげに話して……レオンハルト殿下のあんたを見る視線がやばかったんだからね!」
「本当、本当。私、食堂で殺人現場を目撃するのかと冷や汗だらだらだったわ」
「私も……それにしてもさっきのオリビア様……可愛かったな~」
「わかる~!めちゃくちゃ可愛かったわよね!今頃レオンハルト殿下に食べられてたりして」
「「「きゃ~!」」」
ヒューゴは、さっきの殿下の様子に、殺されそうだなんて大袈裟なと思ったが、目の前で牽制されたことは理解していたので、2人きりになるのはやめようと心に誓った。
一方その頃、信号機令嬢達の想像通り、オリビアはレオンハルトに食べられていた。
「……んっ……んぁ……ふあっ
んん……れ、れおんしゃま……こんな所でダメです」
「ふふ、オリビア真っ赤になって可愛い。こんな所って?」
「だから食堂……あれ?」
「あれ?ふふ、ソファだね?ここは私の研究室なんだ。オリビアが遊びに来た時に寛げるように、大きなソファも運び入れたんだよ。
寝心地はどう?ふかふかで気持ちいいだろ?さぁ、人目が無いこともわかったし、続きをしてもいいかな?」
そんなに広くない部屋の窓際に、不釣り合いなほど大きなソファが置いてあった。
そのふかふかなソファの上でオリビアは寝かされ、レオンハルトが覆い被さっていたのだった。
「え?あれ?でも授業は?」
「大丈夫だよ、今日は体調悪いからと言って、早退したことにしてあるから」
そう言って、レオンハルトは色気全開でにやりと笑った。
ぼんっ!真っ赤な顔であわあわした頭の花のまわりに咲いたピンクのハートが、どんどん大きくなり、オリビア自身も真っ赤な顔で潤んだ視線をあわあわと彷徨わせたのだった。
もちろんオリビアは午前中体調が悪そうだったと言う事実はありません。何気に出来る子であるアメリアの嘘でした。
レオンハルトも嘘だとわかっていて、話に乗って嬉々としてオリビアを連れ去りました。