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固まったのは一瞬で、すぐにいつも通りの微笑みを張り付けた。
だが、頭の花は不安げに揺れていた。
レオンハルト達は、何故一瞬でこうも変化したのかわからずに戸惑ったが、オリビアに気付かれないように普段通り接することにした。
「オリビア、ここに座って」
レオンハルトに言われ、隣に座った。と言っても、すでにそこしか空いていなかったのだが。
オリビアの隣がレオンハルトで、その隣がヒロインだ。オリビアの正面はエリック、その隣にリリアン、ヴィクトリア、リーダーと言う席順だった。
「オリビア紹介するわね。この子はララ、同じ魔術科の子よ。
ララ、彼女はオリビア。お兄様の婚約者で、エリックのお姉様よ」
「は、はじめまして。ララです。よろしくお願いします」
レオンハルトの向こうから身を乗り出すようにしてララが挨拶をした。
ふわふわなピンクの髪に、キラキラ輝く菫色の瞳……誰もが認めるであろう美少女がそこにいた。
“ふ……ふわわわわ~!めっちゃ可愛い!可愛すぎる~!
ダメ、ダメよ!ライバルなのに!ああああ~、でもこんな可愛らしい生き物、惚れない方が無理だわ!
悪役令嬢まで虜にするなんて……ヒロイン尊すぎるー!”
目をハートにして花を飛び散らせていた花が、今回は拝むポーズの最上級である、土下座拝みを繰り返していた。
オリビア自身の瞳にも、うっすら涙が浮かんでいた。
「オリビア?オリビア?大丈夫?」
レオンハルトに髪や顔をさわられて、はっと我に返った。
「も、申し訳ありません、私はオリビアですわ。どうぞよろしくお願いします」
“やだ、ついぼーっと見てしまって、みんなに変に思われなかったかしら?”
「さあ、挨拶もしたし、もういいだろう?オリビア食べようか?」
レオンハルトがそう言って、オリビアからララを隠すように身を乗り出して、オリビアの顔を覗きこんだ。
“やっぱり私がララさんに何かすると思ってるのかしら?こんな可愛い子、いじめたりしないのに……”
頭の花も、しゅんと萎れてしまった。
「え?何その反応の差……?何で俺の顔見てしゅんとなるんだよ?ってオリビア全然聞いてないし。
これ差し出したら食べるかな?オリビア、あ~ん」
ぱくっ、もぐもぐもぐもぐ
「え?うっそ、何これめっちゃ可愛い!はい、こっちもあ~ん」
ぱくっ、もぐもぐもぐもぐ
オリビアはぼーっと今後の事を考えていて、全くの無意識で差し出されるものを次々食べてしまった。
「もぐもぐ……ん?え?え?な、レオン様!何してるんですか!?」
「残念、オリビアに食べさせるの楽しかったのに。今度2人きりの時、またしようね?」
そう言って、悪戯っ子のような表情でレオンハルトに見つめられた。
ぼんっ!わたわたわたわた、あわあわあわあわ
“んなっ!何この可愛い顔!もう無理!昨日好きって気付いちゃったから、直視するのが恥ずかしい!
元々キラキラして見えたのに、なんかピンクのオーラまで加わっちゃったし~!”
恥ずかしいと顔を押さえた頭の花のまわりに、ピンクの花がハート型に咲き乱れた。
もちろん、レオンハルトの機嫌は急上昇であった。
オリビアがドキドキのランチを終え、教室に戻るとやはり気まずい空気で現実に戻された。
翌日も同じくクラスには馴染めず、ランチタイムを迎えた。
前日同様の席順で、レオンハルトと会えて嬉しいと思うと同時に、ララとレオンハルトの距離にモヤモヤもした。昨日同様、オリビアからララを隠すようにレオンハルトがオリビアの方に体ごと向いていたのだ。
みんなの会話は授業内容のようだが、1人だけ経済科のオリビアには、魔法の話に着いていけずに居心地が悪かった。
出来るだけ顔に出さないようにしているのだが、誰かが気付いて経済科はどうか?等の話をふってくるのも、日が経つにつれ居たたまれない気分になり、オリビアは今まで仲良かったはずの友人達との間にも、距離を感じるようになっていた。
“教室にも居場所がないし、大切な人達にも気を使わせてしまって……何だか学校に行くのが辛くなってきたわ”
日に日に元気が無くなるオリビアが、みんな心配ではあったが、原因がわからずにこちらもモヤモヤが募っていた。
「よう、オリビア久しぶり!お前食堂でイチャイチャしてたんだってな!すっげー噂になってんぞ」
朝、教室に行くとヒューゴが気安い様子で話しかけてきた。
「ヒューゴ!久しぶりね、どうして休んでいたの?」
「風邪引いて寝込んでた。寂しかったか?なんてな。あはははは」
なんと、風邪で10日も休んでいたらしい。教室に入るのが苦痛だったが、ヒューゴがいるだけで一気に気分が落ち着いた。
初めて教室で苦痛を感じずに過ごせた午前の授業を終え、ランチタイムになった。
オリビアが食堂に着くと、いつもは先にいる魔術科のみんながまだ来ていなかった。
いつもの席に1人で座るべきか思案していたオリビアに、ヒューゴが話しかけてきた。
「オリビア、1人なら一緒に食わねえか?話があるんだ」
「ええ、いいわよ」
正直、みんなに気を使わせて気まずかったので、たまには別の人と食べるのもいいかとオリビアは快諾した。
「兄貴から手紙が来たんだ。ついに結婚を承諾してくれたらしい!」
「ええ!グレースさんついにやったの!?素敵!エリックはもう知ってるの?」
「いや、まだだ。今度来た時直接話すって。お前もそれまで黙ってろよ?
あいつ、どんな顔するかな?全然気付いて無かっただろ?意外と鈍いところあるよな~」
にやりと笑ってヒューゴが告げた。そう、グレースは何年も何年もエミリーにプロポーズしていたのだった。
そんな様子を何年も見ていたから、オリビアも嬉しくて仕方なかった。
“素敵、本当に素敵!グレースさん、最初は全く相手にされていなかったのに……諦めることなく何年も頑張って……本当に凄いわ!
ふふふ、本当あんなにあからさまだったのに、どうしてエリックは気付かなかったのかしら?
ヒューゴの言う通り、どんな反応をするのか楽しみだわ!ふふふふふふふ”
食堂を埋め尽くすほどの花を溢れさせたオリビアだったが、なんとあまりの嬉しさとヒューゴの気安さに、自然と満面の笑みを浮かべていたのだった。
「……あれは誰だ?」
オリビアは気付いていなかったが、食堂の入口に黒いオーラを噴出させたレオンハルトが立っていた。
ご指摘があったので……グレースは女装男子なので、グレースと言うのは女装しているときに使う名前です。
本名は違うのですが、だいたい常に女装しているのでみんな普通にグレースと呼んでいます。
一応使用人や従業員はお坊っちゃまと呼んでいて、ヒューゴは兄貴と呼んでいます。