17
“はぁ、胸が痛い……これは、やっぱり恋の痛みよね……?
婚約破棄されても大丈夫だと思ってたんだけどな……いつの間に、レオン様をこんなにも好きになってしまったのかしら?
ゲーム始まっちゃったけど、どうしよう……うう、ヒロインに取られたくない。
でも、キ、キスするほど仲良くなったのに、普通にイベント起こっちゃったんじゃ、もうお手上げだわ。
ゲームの強制力ってやつかしら?きっと、今日のイベントだけでもヒロインの好感度はうなぎ登りなんでしょうね……“
「姉上、姉上いらっしゃいますか?」
うじうじと落ち込んでいると、いつの間にか帰ったエリックがドアを乱暴にノックした。
「エリック、おかえりなさい。先に帰ってしまってごめんなさいね?」
オリビアはあわててドアを開けた。
「ああ、よかった。倒れた上に先に帰るなんて、よっぽど具合が悪いのかと心配しました」
「心配かけてごめんなさい、少し疲れちゃって、早く自室で休みたかったの。
そう言えば、貴方が保健室まで運んでくれたの?」
「いえ、たまたま近くにいたアンドレア先生が「アンドレア先生って……アンドレア王弟殿下!?」」
「え?ええ、そうです。僕達の担任なんです」
“きゃー!最後の攻略対象の、何事にもやる気無しのアンドレア王弟殿下!
気だるげな感じが何とも大人の色気を漂わせているのよね……って私、アンドレア先生に保健室まで運んでもらっちゃったの?
ああ、何てもったいない!何で気絶してたのよ私!
アンドレア先生は基本、魔術科の塔から出ないから、経済科の生徒は滅多にお目にかかれないのよね!
ああ、生アンドレア見たかった~“
アンドレアの名前を聞き、一気に溢れ出した花だったが、ひとしきり悶えたあと、悔しげに頭を抱えて揺れていた。
「中々やる気があって面白い先生でした。クールビューティーな助手さんとのやり取りが、すっごく面白かったです」
“ええ!?やる気がある?しかもクールビューティーな助手?”
「ちょいちょい助手さんに突っ込まれて、その掛け合いが息があっていてとても面白かったです。
今度結婚すると聞いて納得でした。しかも、美人だからってちょっかい出すなよって牽制までされました。ふふ」
“ええ!?夫婦漫才?しかも溺愛キャラだと?
も~、本当に何がどうなってるの?でも、面白そうだから見てみたーい”
エリックの言葉にいちいち驚いていた花が、いいなーいいなーとばかりに、羨ましそうに揺れていた。
「そうそう、レオン殿下達と一緒に保健室に行ったんですよ。でもすでに姉上がいなくて驚きました。
教室に行ったんですか?経済科はどうでしたか?」
「そうだったの……起きたら知らない部屋で驚いちゃって、誰もいなかったからとりあえず教室に向かったの。
1人で心細かったんだけど、ヒューゴが同じクラスだったからよかったわ」
放課後の出来事は伏せて、ヒューゴの事だけ話した。
「ヒューゴが一緒なら安心ですね。でもあいつ姉上に対しても礼儀がなってないからな……何かあったらすぐに言ってくださいね?
それにしても……今日は心配して馬車まで姉上に会いにレオン殿下が着いてきたんですよ。
空っぽの中を見て、唖然としていました。くっくっく
保健室に行く時、急に女子生徒が木から落ちてきたもんだから、無駄な時間がかかって姉上に会えなかったんだとふて腐れていました」
“え……?私に会えなくてがっかりしてくださったと言うことかしら?
しかもヒロインとのイベントを無駄な時間って……好感度はあまり上がらなかったってこと?
……そっか、レオンハルトルートに入ったからと言って、トゥルーエンドとは限らないもんね!希望を持っていいのかもしれない!
よし、明日はレオン様に笑顔で挨拶するぞ!そうと決まれば練習練習”
相変わらず、エリックとの会話中ずっと無表情だったが、頭の花が何かを決意するように、えいえいおーとしていて、エリックは今日も笑いを堪えると共に、とても癒された。
「あ、そう言えば話の途中で姉上に遮られて、アンドレア先生が運ぼうとしたけど、レオン殿下が現れてお姫様抱っこで颯爽と保健室まで運んだって言うの忘れてたな……まあいいか」
エリックは自室へ戻る途中で思い出したが、まあいいかと流すことにした。
そんな事よりも、これからは毎日愛しのリリアンと机を並べて勉強できると、青少年らしく浮かれていたのだった。
翌日、オリビアは朝からドキドキだった。いざ、笑顔で挨拶と気合いを入れてみたものの、上手く出来る自信がなかったのだ。
結局、朝からレオンハルトと会うことなく、普通に教室にたどり着いてしまった。
“ああ、忘れてたけど、教室入りにくいんだった……
きっとみんなに怖がられてるわよね?信号機令嬢達に、ちゃんと謝らなくちゃ……うう、気が重い”
勇気を出してドアを開けると、ざわついていた教室が静まり返った。
チラチラとこちらをうかがうような視線と、ヒソヒソとされる会話に、オリビアは居たたまれない気持ちで席についた。
授業が始まればみんな授業に集中するのだが、休み時間は地獄のような気分だった。
“私って、こんなにコミュ障だったのね……前世では普通だと思ってたんだけどな……話しかけ方がわからない
お昼休みになったけど、ボッチ飯決定ね……”
「あ、オリビアこっちこっち~」
ぐったりした気分で、1人で食堂に来たオリビアだったが、天使が手を振っていた!
“ヴィクトリア様!ああ、貴女は天使ですか?
リリアンもエリックもリーダーもいるわ!レオン様も……”
ボッチで寂しかった分、みんなに会えて喜びいっぱいで花をぶんぶん振って、どんどん溢れさせながら席へ近づいたオリビアだったが、レオンハルトの後ろからピョコッと現れたピンクのふわふわな髪の美少女を見て、その場で固まった。