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結局、根が単純でめんどくさがり屋のオリビアは、エミリーと話してスッキリして、推しが間近で見られる状況を楽しむことに決めた。
“どうあがいても婚約を解消することは出来ないしね。美少年美少女達の成長を間近で見ながら目の保養をして、婚約破棄されたら自由に生きればいいだけだわ。
その為には自分で生活出来るようにならなくてはいけないわね……
料理は……苦手だわ。魔力も弱いし……刺繍やレース編みなら得意なんだけどな。グレースさん、本気でこっそり雇ってくれないかしら?
むしろ今のうちにお金を稼いどくのもいいかもしれないわね!
さっそくお忍びで街に出て、何が流行っているか調べなくちゃ!ふふふふふ”
頭の花も、将来の楽しい生活を夢見てにやにや揺れていた。
さっそく父である公爵に、外出許可を願い出たが見事に却下されてしまった。
街に出るのはおろか、孤児院まで却下されたのには納得できなかった。
外は危険なので、オリビアの身を守る為の魔道具を開発中だから、完成するまでは我慢しなさいと言われてしまった。
それならこっそりエリックにお願いしてみようと話してみたが、エリックまでもが外出はダメですと言って、公爵夫人に告げ口までしてしまった。
公爵夫人も元々は侯爵令嬢で、買い物は家に商人が来るものだから街には行ったことがないらしい。
それが普通の貴族令嬢だと言われてしまっては、それ以上何も言えなくなってしまった。
唯一許されている外出先のエミリーのいる商家で、エミリーとグレース相手に愚痴っていたが、グレースまでもが外出は危険だと言って反対してきた。
そんなに治安が悪いのかこの世界は!と驚いたが、どうやら公爵令嬢な上に、王太子殿下の婚約者だからダメなのだそうだ。全く、めんどくさい肩書きだ。
結局、王妃教育も公爵家に講師が来て行われ、レオンハルトとも公爵家で会い、お茶会も王宮主催以外はアプリコット公爵家で行われるものしか参加することが許されず、今まで通り引きこもり生活になってしまった。
“どうしてみんなして外に行くのを反対するのかしら?
お茶会に行く前と同じ生活空間のはずなのに、外に行きたいと思ったら急に息苦しくなってきたわ。
そうだ、こっそり抜け出せばいいんだわ……ふっふっふっふっふ
こう言う時って前世の知識が役に立つわよね~。きっと普通の貴族のお嬢様だと思ってるから、みんな油断してあっさり抜け出せるはずよ”
頭の花が、不敵な笑いを浮かべた。
だが、オリビアの脱走作戦はことごとく護衛のカイルに見つかってしまい、失敗に終わった。
“カイルめ……きっと凄腕の護衛なのね!私の作戦を全て見破るなんて、エスパーとしか思えないわ!”
だが実際カイルは、魔力が高い普通の護衛だった。
基本的に公爵家の使用人は面倒が起きないように魔力の低い者を公爵があえて選んでいる。
だが護衛は別で、そちらは極力魔力の高い者を選ぶようにしてる。
その中でも、剣の腕がいいカイルがオリビア専属の護衛になっていた。
故に、オリビアがメイド服を着て脱走しようとしても頭の花でばれ……
髪の色でばれたと勘違いしたオリビアが、ウィッグを被ってみても花でばれ……
肌が綺麗過ぎてばれたんだと勘違いしたオリビアが、肌をあえて汚してみても花でばれ……
瞳の色でばれたんだと勘違いしたオリビアが、眼鏡をかけてみても花でばれ……
メイド服では無くメイドのワンピースを借りて着てみても、やっぱり花でばれ……
姿が見えないように荷馬車に潜り込んで、今度こそカイルを撒けたわ~と喜びで溢れ出てしまった花でばれ……
何をどうあがいても結局全て花でばれてしまい、オリビアがどんなに努力を重ねても意味が無いのだった。
ちなみに、カイルもカイル以外の魔力の高い護衛達も、バレバレの変装でしれっと出ていこうとするオリビアに、毎回笑いを堪えるのに必死だった。
頭の花までもが、しれ~っとした表情を頑張って作っているのだ。
故に、オリビアが脱走しようとして失敗した日の夜は、大盛り上がりでオリビアを肴に飲むのであった。
公爵は全ての脱走失敗の報告を聞いていたが、オリビアが脱走しようとする姿を想像すると面白くて放置していた……訳では決して無く、どうせ成功する事は出来ないので、たまの息抜きにいいだろうと目をつぶっていたのだった。
その日に限って護衛の飲み会に高級ワイン持参で参加するのは、全くの偶然である……はずだ。
一応カイルの他にも影をつけ、オリビアの行動はこっそり全て監視されているので、逃げ出すことは不可能だからこその放置だった。
刺繍やレース編みの方は、グレースに注文を貰ったものを作ったりと順調だった。
繊細で美しい刺繍は男女共に人気が出て、巷では人気刺繍作家となっていたが、公爵家から出ることの無いオリビアが知ることは無かった。
順調に貯まっていく逃亡資金は、とりあえずエミリーに預かって貰っている。
毎年恒例になったリリアン一家の公爵家お泊まりも4回目を迎えた。
毎年この時期だけがオリビアの楽しみであった。
手紙のやり取りは自由なので、リリアンとは文通をしていたが、この時期の1週間の滞在はやはり別格であった。
今年はこのままリリアンだけがしばらく滞在し、学園の入学式の2日前に寮へ引っ越し予定だ。
公爵家に住めばいいと言ったが、さすがに辞退されてしまった。
オリビアは家から通う予定なので寮には入らないが、これからは毎日リリアンに会えると思うと、嬉しくて仕方なかった。
もちろん、頭上の花もぶんぶん揺れて、花を大量に溢れさせているのだった。