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“はう……癒される。この背中をさする手からは、きっと癒しの波動が出ているのね!
エミリーさんってお母さんと言うよりも何でも相談できるお姉さんって感じなのよね。
なんかいい香りがするし……甘えるふりしてすりすりしとこうかしら……ってこれじゃセクハラ親父だわ!危ない危ない“
頭の花も、ふ~危なかったとため息をついておでこをぬぐった。
「でもそうね……私もそうでしたけど、若い頃の恋は盲目になりやすいんですよね。心配な気持ちもわかります。
私の場合は、当時色々あって主人に婚約者がいなかったのでよかったですけど……
もし当時の主人に婚約者がいたとして、それでも婚約者では無く私を求めてくれたら……やっぱり手を取ってしまったかもしれません。
もちろん今では絶対にしませんよ?
あの時も憧れの彼に求められて、すっかりのぼせ上がってしまったんです。
ただの平民のメイドでしかない私なんて、公爵家の次男様に相応しくないと反対されればされるほど燃え上がってしまって……
そうこうしているうちにすぐ妊娠がわかって、夜中に公爵家を2人で出たところで貴女のお父様に見つかって、こっそり隣国へ逃がして貰いました。
主人は魔力が高かったのでギルドに登録して、冒険者として平民街で家族3人仲良く暮らしました。
あの頃が、一番楽しかったですね……
でも、主人が病気になって……平民が見て貰えるような病院では、もうどうしようもなくて……
何度もお義兄様にお手紙を出そうと言ったんですけど、勘当された身でこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないと……
結局、我慢できずに私の独断で手紙を出したんですが、何もかもが遅過ぎました……
手紙を出した翌日、主人は亡くなってしまいました。それからはただただ無気力で……
お義兄様が来られるまで何も手につかずにぼーっと座っていました。
可哀想に、エリックは父を亡くして悲しみに暮れる間もなく、私に何とか食事をさせようとしてくれていたようです。
ですが、主人の医療費に貯えを全て使ってしまい、ほとんどお金も無くて……
掃除や洗濯もエリックがしてくれていたようです……何日そうしていたのかわかりませんが、お義兄様がいらっしゃって、ものすごく怒られました。
その頃の私では、エリックを育てられないと言って、エリックを引き取って頂くことになったんです。
私は精神の病気になっているからと、帰国して王都にある病院に入ることになりました。
エリックと離れて1人になると、亡くなった主人のことよりもエリックが元気でいるかが心配で心配で。
ですが、公爵家に慣れるまでは面会はさせられないと……
エリックが公爵家で1人で頑張っているのだから、私も頑張ってエリックの恥にならないようにしなくてはと、次にエリックに会う時は笑顔で会いたいと頑張りました。
ほどなくして、エリックから手紙が届きました。思ったよりも早く公爵家に馴染めたからと、お義兄様が許してくださったそうです。
ふふ、手紙にはいつもオリビア様の事がたくさん書いてありましたよ。
とても優しくて、わからないことは丁寧に教えてくれて、妖精のように可憐で美しい女の子だと。
姉上に誉めてもらえるように、もっともっと頑張る!と。ふふふ、実は私、貴女にちょっと嫉妬してたんですよ。
でも、それ以上に感謝していました。オリビア様のおかげで、エリックは公爵家に馴染めて、寂しい思いをせずにすんでいるのだと。
私とエリックはいつでも貴女の味方です。だから、怖がらずに殿下ときちんと向き合ってみたらどうでしょうか?
オリビア様は魅力的ですから、いつも通り接していたら、他に目がいかなくなるほど殿下を虜にさせられると思いますよ?ふふふ
万が一他の人が現れて奪われちゃったら、ここに来るといいですよ!グレースさんだっているし、いつでも大歓迎です。
国外に行きたいなら、隣国でしたら何年か住んでいたので知り合いもたくさんいるし、任せてください!
ふふ、殿下と仲良くなると同時に、念のため婚約破棄になったらどうするか考えるのも楽しそうですね。
オリビア様は何かやりたいことはありますか?」
そっか、エミリーさんも色々苦労したのね……初めて会った時からおっとり話しやすくて全然気付かなかったわ。
それにしても……う~ん、やりたいことか……
う~ん、う~ん、ピコン、ぱた……ぱた……ぱたぱたぱたぱた
そうだ、せっかくゲームの中に転生したんだから、隣国をはじめ色々な国を見てみたいわ!
前世でも海外旅行なんてしたことなかったし、ちょっとワクワクするわね。
国内も見て回りたいけれど、国外追放だったら見れないし……今のうちに色んな所に行ってみようかしら?
外国語も今のうちにたくさん覚えなきゃ!庶民の服を入手して、王都や色々な町もこっそり見てみたいわ。
ふふふ、ゲームのイベントスポット巡りも楽しそうよね……ふふふふふ
婚約破棄されても案外楽しそう!処刑されるとか酷いエンドは無かったし、国外追放か修道院かだったわよね?
願わくば国外追放で!……ふふふふふ
「姉上、ずいぶん楽しそうですね?」
色々妄想してだらしない顔の花の回りに、いつの間にか花を溢れさせていたオリビアだったが、急にエリックの声が聞こえて驚いた。
「え、エリック!いつの間に戻って来たの?」
「先程ノックして、母の返事があったので入室したのですが……何かいいことでもありましたか?」
ええ!いつの間に?ノックもエミリーさんの返事も聞こえないくらい妄想にふけっていたなんて……恥ずかしい。
うぎゃーと花は顔を隠して、恥ずかしさに見悶えていたが、オリビア自身は安定の無表情だった。