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 初めて前世の記憶が戻った時、私は7歳だった。前世で大好きだったゲームの世界に転生して、やったーと喜んだと同時に、これからどうしよう……と絶望した。

 だってよくある悪役令嬢転生だったからだ。目の前にはこれまたお決まりの、父親が他所で生ませたと言う異母弟……

 オリビアは公爵令嬢なのに魔力が低く、異母弟とは言え身分の低いメイドの生んだ子供のくせに、父親に似て魔力が高い弟に嫉妬していじめ抜くのだ。


 色々な記憶が一気に頭に流れ込んで一瞬混乱して狼狽えたが、どうやらお父様や使用人達には急に現れた異母弟に混乱したと思われたようで、変に思われる事は無かった。

 これからお母様と一緒に異母弟をいじめ抜くんだよね……と、異母弟を見ると、ゲームの攻略キャラをそのまま子供にしたような美少年がそこにいた。


 ああああああ、そう、そうよ!銀髪に赤い瞳、魔術の天才で幼い頃に無理矢理母親と引き離されて、連れて行かれた父親の屋敷では本妻と異母姉にいじめられて、性格が歪んでしまったヤンデレキャラのエリック!

 か、可愛い!エリックが生きて目の前にいる!しかも幼くて可愛い!ああ、神様ありがとう!


 エリックは父親の半歩後ろで暗い表情で床を睨み付けていた。


「今日から私の弟と言うことですね……わかりました。エリック、仲良くしましょうね」


 興奮を必死に表情に出さないように言ったら、少し冷たく固い声色になってしまった。初っぱなから怖がらせてしまったかもしれない……そう思ってエリックを見ると、目を真ん丸にして私を見ていた。

 そして父親をチラリと見上げるポカンとした顔が……可愛すぎるー!エリックが……あのヤンデレエリックがポカンとしてる!

 ああ、心のシャッターしかないのが悔やまれる!しっかり刻み込まなきゃ!ショタエリック、尊すぎる!

 お父様がエリックに苦笑いをして背中をそっと押した。はっとしたようにエリックの赤い瞳がこちらを向き、恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「は、はじめまして姉上。これからよろしくお願いします」


 そう言ってぴょこっと頭を下げた。

 はうううう、ぴょこってよぴょこ!何この可愛い生き物!姉上……ああ、何て素敵な響きなの!姉上があなたを守ってあげますからね!


「あらまぁ……そのお辞儀は何ですの?お父様、こんなお辞儀1つまともに出来ない子が家族だと思われると恥ずかしいですわ。

 しっかりした教師をつけてくださいね?」


 ああ、またやってしまった。本当は優しく声をかけたいのに……どうして冷たいことを言ってしまうのかしら?

 ただ公爵令息として、エリックがどこに行っても恥ずかしい思いをしないように、しっかりした教師をつけて欲しいだけなのに……


「くっく、ああ、わかっている。教師ももちろん雇うが、お前も色々教えてやってくれ」


 何故かお父様はいつも私が刺のある言い方をしてしまった時笑うのよね。何故かしら?

 お母様にはいつも注意されるし、我ながら可愛いげがないと思うんだけど……お父様だけは凄く愛しいものを見るような目で見て来るから、恥ずかしくて居心地が悪くて仕方無いわ。親バカってやつねきっと。

 

「はい、わかりました。エリック、分からないことがあったら何でも私に聞くといいわ。まずはお風呂に入ってその汚い服を着替えて髪を切りなさい。少しは見れるようになるでしょう」


「はい、姉上。ありがとうございます!」


 ああ、何て天使なの!エリックは天使なのねきっと。こんな酷いことを言われて笑顔でお礼を言うなんて。はう……これからずっと一緒とか、私の心臓持つかしら?



 異母姉と別れ、父親に部屋へ案内してもらう途中、エリックは思いきって聞いてみた。


「父上……姉上の頭の花は……」


「くっく、やっぱりお前も見えたか?ある一定以上の魔力が無いと見えないようなんだがな、あれはオリビアの心の中だ。

 ツンツンしたことを言っていたが、お前を気に入ったようだな。くっくっく、あんなに咲き乱れたのは初めて見たぞ。可愛いだろう?」


 そう、公爵令嬢オリビアの頭には、何故か魔力の強いものだけが見える花が咲いていたのだ。

 しかもオリビアの心境によって、嬉しいときは花が咲き乱れ、悲しい時はしゅんと萎れ、悩んでいる時は葉っぱが腕で花が顔のようになって困ったポーズをし、怒っている時は鋭い刺に覆われるのだ。

 ゆえに、この国で1番魔力が高いとされる公爵は、娘の言動と花の違いを見て、日々楽しみ萌えていたのだった。

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