辿りつかない
午後六時。私は家路を急いでいた。最近仕事が忙しく、疲れていたので早く家で休みたかった。
帰り道の途中にある、高架下に通りかかった時。そこはもう少しで自宅につきそうな所だった。あたりはだんだん暗くなってきている。街灯が煌々と光っていた。その街灯の下に、一人の人間が見えた。男なのか女なのかわからない。若いのか老いているのかもわからなかった。その人間は歩いていた。しばらくその人間を眺めてみたが、こちらに歩いてきているのか、それとも私とは逆方向に歩いているのかわからない。
私は立ち止まった。街灯の下の人間は歩いている。ずっと街灯の下で歩いている。歩いているが、しかしどの方向にも進んでいない。
私は怖くなった。しかし自宅に帰るにはここを通るしかない。決死の覚悟で再び歩き出す。街灯の下の人間に近づいていく。あと十歩、あと五歩、あと一歩……。すぐ隣に来た時、私は目を瞑って街灯の下の人間を見ないようにした。
隣から声が聞こえる。
「辿りつかない……」
私はぞっとして走り出した。家について、玄関の扉を閉め、鍵をかける。そのまま布団に潜り込んでガタガタ震えていた。そしてそのうちに寝てしまった。
街灯の下の人間を見て以来、私は車で通勤することにした。あの道をもう歩きたくはない。絶対に。
今でもたまに街灯の下の人間を見ることがある。あの人はまだどこにも「辿りつかない」のだろう。