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エピソード9 彼女の作り笑い

『会社の同僚と飲んでたんだけど、今日あんまり持ち合わせがなくてさー・・・あんたんちが近いから泊めてもらえないかなーって思ったんだけど、ダメかな?』


 そんなことは以前にもあったから構わないのだが、今回は状況が違う。なんたって俺の背後にはエロ漫画を描いている女が寝ているのだ。

 そんなシーンを見たら姉はどんな反応をされるのか想像もできない。とにかくなんとか言い訳をすることにした。


「いや・・・あのさ、今彼女が来てて無理かも」

『そっかー・・・どうしよ』

「お金なら貸すから、それでタクシーかなんかで帰んなよ。ちょっと待ってて」


 急いで財布を用意して中身を確かめる。たぶん1万円もあれば足りるはずだ。今月ちょっと厳しくなるが、バレるよりはマシだろう。

 玄関のドアを開けると、顔の赤い姉がにこにこしながら立っていた。


「彼女ってどんな子よー?」

「あーもういいから。駅近いからそこでタクシーに乗れよ」


『やめてください!お代官様!』

『よいではないか、よいではないか』

『あーれー・・・・・・』


 俺と姉の会話のバックミュージックのように聞こえたそれは、いつの時代のものなのか、なんとなくどんなシーンなのかわかるものだった。

 ひょっとして、足立さん起きたのか!?

 どう言い訳しようか迷っているとき、気がつくと姉は目の前にはおらず、すでに部屋の中に入ってしまっていた。


「姉ちゃん!これには深い訳が・・・!」


 慌てて言い訳しようとするが、もう遅い。

 リビングでは足立さんが変な時代劇の映像を見ていて、傍では姉がその様子と、机の上に置いてあったエロ漫画の原稿を眺めていた。


 やっべー!どうしよー・・・

 そんなとき、姉がなにか呟いた。


「あ・・・あなたはもしかして・・・白雪マリアさんじゃ・・・」

「えっ、そうですけど・・・よくわかりましたね」

「そりゃぁ、もう有名ですから!!」


 このとき、こんな漫画みたいな展開に俺は1人ずっこけていた。

 つくづく思うが、最近の俺の日常はありえないことばかりだ・・・・・・


  ・・・・・・・・・・


 そうしてその数十分後には、なぜか俺の部屋は宴会のようになっていた。

 もともと酔っていた女と、祭り好きな女が集まれば、こんなにも盛り上がるらしく、バイトで疲れた俺はだんだん頭が痛くなってきた。


「でもさー、まさかウチの弟とデキてたなんて思いませんでしたよー」

「デキてないって。えんちゃんは私の弟子なんだってばー」

「またまたー」


 お互いに酔ってしまってあんまり会話が成り立っていない。

 まさか姉ちゃんが白雪マリアを知っているとは思わなかったが、話によると、高校のときにクラスで話題になった漫画があってその作者が足立さんだったそうだ。


「ウチの弟なんかで役に立ちますかー?」

「立つよ!すごい器用だもん。それにえんちゃんといると、今までのやなこと全部忘れられるような気がするしー」


 俺はその言葉に少し興味を持った。


「それにしてもさー・・・結婚式の前日に逃げる男なんているかー?」

「ええ〜?そんな男最低ですよー!」


 なんでもないような会話だが、聞き流すことができなかった。

 結婚式の前日に逃げた男。きっと、本当にあった話なんだ・・・・・・


  ・・・・・・・・・・


「えんちゃーん!ベランダにパンツ落ちてたよ!」

「そんなこと大声で言わないでください」


 俺は深くため息をつきながら、足立さんから自分のパンツを受け取る。

 あれから1週間。足立さんと姉の宴会騒ぎのことは本人たちはほとんど忘れていて、結局あの話もうやむやになってしまった。


「えんちゃん、なんか変だよ。どうしたの?」

「なんでもないっすよ。足立さんに変だって言われたらもう俺も終わりだ」

「なんだとー!」


 後ろでぶーぶーごねる彼女を置いて、俺は玄関へと向かう。これから授業だ。

 そのとき、足立さんも俺の隣に座り込んでなぜかパンプスを履く。珍しくどこか出かけるらしい。


「人間観察にでも行くんですか?」

「ううん。ちょっと人と会う約束があってさ」

「ふーん・・・」


 何気なく相槌を返したが、先に立ち上がった足立さんの表情を見て、俺は全ての思考が一瞬停止するのを感じた。

 たぶん、今まで見たこともないと思う。足立さんの無理やり笑った笑顔を。


「じゃあ、いってきます」


 たったそれだけ残して、足立さんは俺の前から姿を消した。

毎日更新してきましたが、

明日と明後日で大学の学園祭があるためサークル活動をしてきます。

遅くなったらごめんなさい;

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