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エピソード6 俺の内心

 昼ごはんを食べた後の3限の授業はとても眠い。

 階段教室の後ろから見ているだけで、多くの人が寝ているのがわかった。もちろん俺もその1人となって昼寝をしていたが、ジーパンのポケットに入れたケータイが振動していることに気づいてのろのろと起き上がった。


 着信あり。足立詩織からだった。

 しかし、どうせたいしたことではないだろうと思って、俺はかけ直すことなくケータイを閉まった。

 このときのことを、俺は後でものすごく後悔することになるのだが。


  ・・・・・・・・・・


「佐伯君、今日バイト?」


 江崎さんから話しかけられたのは、授業が終わった直後だった。こんなことは初めてだったから、俺はこのチャンスを逃すまいと身構える。


「うん。もしレンタルしたいDVDがあったら俺に言ってよ。タダで借りれるんだ」

「ほんと?私今借りたいものがあるんだ。一緒に行ってもいい?」

「もちろん!来てよ」


 ラッキー!レンタルショップで働いててよかった・・・

 江崎さんとまともに話すことなんてめったにない。それなのに、こないだは偶然駅前で会ったし、こんなふうに俺のバイト先に来てくれることだって初めてだ。

 ひょっとしたら、足立さんが幸運を運んできてくれたのか?


 まだバイトの時間には早かったが、俺たちはバイト先のレンタルDVDショップへと向かった。


  ・・・・・・・・・・


 店内はそんなに混んでいなくて、レジに立っていた店員もすぐに俺たちの存在に気づいた。

 いつもはバイトの時間以外にここに来ることを避けていたが、今日はかわいい女の子を連れているので鼻高々だった。


「なに借りるの?」

「邦画のねー・・・あ、あった。これこれ」


 それは少し前に日本で公開された映画で、レンタル開始日からとても人気があったものだ。いつもは在庫がないのだが、今日あったのはたぶん本当にラッキーなんだろう。


「ラッキーだよ。これすごい人気で、もうないんですか?ってよくお客さんに訊かれる」

「ほんと?やったぁ!これさ・・・・・・」


 江崎さんがそのDVDについて嬉しそうに語りだしたから、俺も彼女の話を真剣に聞く。

 だけど、なんとなく違和感を感じていた。

 ――そう、江崎さんのバックに見える18歳未満立ち入り禁止の、いわゆるアダルト系のDVDが置かれている場所から、見たことがあるような格好をした女の人が出てくるのを視界の片隅に(とら)えたのだ。彼女はそのままレジに行く。


「あれっ?これ、佐伯のカードじゃないですか?」

「そうです。彼の代理で借りに来ました」


 やけに大きく響く声。俺は江崎さんの話から完全にレジでのその会話に引きつけられてしまった。江崎さんも気づいてレジのほうを向いた。

 それと同時に、俺はその女の人――足立さんが借りようとしているものがアダルト系のDVDであることに気づいた。


「江崎さん!こっちのDVDもオススメだよ!」


 俺は平静を装って彼女をレジの死角に誘導させるが、内心ひやひやものだった。


 なんたって、俺の代わりに借りたDVDがそういう路線のものだということは、つまり、俺がこのDVDを借りたかったという話になるのだ。

 こんなことを江崎さんに気づかれるわけにはいかない。


「あっ、やっぱりえんちゃんだ」


 しかし、不運は続くものであり、レジから隠れたと思ったら足立さん本人がこっちに近づいてきたのだ。


「ダメだと思ったけどカード勝手に借りちゃった・・・・・って、ごめん。お邪魔だったかな」

「いえ・・・ってか、なんで俺のカード勝手に使ってんですか。ダメですよ・・・」


 俺は小声でぼそぼそと答えるが、すでに足立さんの興味は俺じゃなくて江崎さんに向いているようだ。そして、江崎さんもじっと足立さんを見ていた。

 別に悪いことなんてしていないのに、なぜか俺の内心はひやひやものだった。


「こんにちは。えんちゃんの親戚(・・)の足立詩織です。いつもえんちゃんがお世話になってます」

「いっいえ・・・同じ大学の江崎まゆです!よろしくお願いします」


 お互いに自己紹介をする江崎さんと足立さん。

 俺はその様子を見て、言いようのないものを感じた。なぜだろう、なんで今寂しさを感じたんだろう・・・・・

ちなみに、レンタルカードの貸し借りは禁止行為です。

皆さんはやらないでください。

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