エピソード5 彼女とデート2
お洒落なバーの一角。
そこで繰り広げられるカップルの会話。
「本当に悪いと思ってる。ごめん」
「・・・・・あなたなんて最低だわ・・・もう二度と会いたくない・・・」
「本当にごめん――」
「もういいわ。別れましょう」
「――・・・・・・」
パシーン(←頬を叩く音)
「なんであなたっていつもそうなのよ!!どうして肝心なときになにも言ってくれないのよ!」
「―――すまない・・・」
そんな修羅場のような会話が繰り広げられる中、少し離れた所でノートにメモを取っている人間が1人。
それも、ほくほくと幸せそうな表情で。
「大漁、大漁・・・いいカンジ〜」
「・・・足立さんって、本当に変態ですよ。他人の修羅場シーンを聞いて嬉しそうにノートにメモ取ってるなんて」
「なに言ってんの。これも取材の1つなのよ」
しかも目の前にはカクテルがなぜかジョッキで置かれている。ここのマスターとは顔なじみだと言っていたが、ここまでいくとだんだんわからなくなってきた。
そもそも彼女を理解するほうが不可能かもしれない。
「大人しか来れないトコってバーのことだったんですか?」
「そうそう。それに、バーほど1人で来て寂しい所はないね。ここは男女で来なくっちゃ」
「もうマスターが顔なじみなら、そんなこと気にしなくてもいいんじゃないんですか?」
「マスターにはえんちゃんのこと『大人の相手』って伝えておいたから」
俺は場違いにも、飲んでいたものを一気に吐き出してしまった。隣で修羅場をしていたカップルが驚いて俺のことを見るが、今は構っている余裕などない。
「なんなんですか!そんな誤解を招くような言い方は!?」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。えんちゃんの片想い相手には内緒にしとくからさ」
本当にわからない!この人の考えてることが。
俺は目の前のグラスをぐびっと飲み干して、グラスを拭いているバーテンダーに声をかけた。
「あの人と同じもの、俺にもお願いします」
「アースクエイクでございますね。かしこまりました」
見ず知らずの修羅場カップルの男のほうが飲んでいたカクテルをパクり、深々とため息をついた後、俺は足立さんを見た。
黙っていれば本当に綺麗な人なのに、なんだかもったいない。きっと学生時代はすごくモテていただろう。
「・・・アースクエイクはきついんじゃないかな」
ふと呟かれた言葉。俺にはよく聞こえなくて、バーテンダーから出されたものを飲んだとき、そのまま噴き出しそうになるのを必死にこらえた。
少し飲んだだけでわかる。とてもアルコール度が高いということに。
っていうか、俺が火を噴きそうなほど苦しんでいたのに、その隣でただ足立さんはゲラゲラと笑っているだけだった。
そんな俺たちを見て、隣にいたカップルが呟く。
「やっぱり・・・自分の気持ちには正直でいたい。俺は君以外考えられない。あんな下品な笑い方をする女の人を見て、やっぱり君以上に最高な人はいないって改めて気づいたよ」
「私もよ。あなたほどお酒が強くてすてきな男性はいないわ。大好きよ」
ひしっと抱き合うカップル。
その隣で火を噴きそうな男と、それをゲラゲラと笑って見てる女。
バーテンダーだけが静かにグラスを拭いていた。
・・・・・・・・・・
「予想外だ・・・まさかあの後あのカップルがヨリを戻すなんて。この天才・白雪マリアの頭をもってしてもわからない・・・」
「っていうか、恥ずかしくないですか?俺たち、バカにされたんですよ?」
初めてまともなページのベタ塗りを担当することになり、いつになく冷静な口調で俺は指摘する。
足立さんは俺を無視して下書きをしていく。
「今回の人間観察は奥が深かったけど、あんまり収穫はなかったかも。やっぱり今度レンタルショップで借りてこよ」
「なにをですか?」
俺は問いただすが、足立さんはとにかく俺を無視する。
・・・・・・嫌な予感がする。