エピソード4 彼女とデート
年上の女の人とデートなんて初めてだから緊張していたが、足立さんの言ったデートの真の意味を知ってから、俺のこのデートに対する意気込みが変わった。
さっきからずっと駅前の噴水の周りに座り込み、ただ行き交う人を眺めているだけだった。
「――これって人間観察じゃないですか」
「そうだよ?行き詰ったときとかちょっと散歩しながら観察してると、いいアイデアが浮かんできたりするんだよね〜」
手にはしっかりとノートとペン。結構ちゃっかりとしている。
俺はというと、さっきから意味もなくただ行き急ぐ人たちを眺めているだけだ。だんだん俺を連れてきた意味があったのかわからなくなってきた。
「見て見て、えんちゃん。あのベスト来た男の人」
「ああ、あの人がどうかしたんすか?」
「5秒後にあの白いワンピースを着た人と抱き合う!」
なに言ってるんですかと言いそうになったとき、俺は目を疑うことになる。
まさに5秒後、そのベストを着たかっこいい男の人は、白いワンピースを来た女の人を抱きしめているのだ。こんな人通りの激しい中、人目もはばからず堂々と。しかし、すぐに離れてしまったので、2人が抱き合ったことに気づいたのは、近くにいた人たちと、ここで人間観察をしていた俺たちだけだろう。
「エスパー?」
「こんなの序の口だよ。たぶんあの2人は遠距離恋愛中で、久しぶりに再会したってところかな?」
まるで会話が聞こえているようだ。改めて俺はまじまじと足立さんを観察してしまった。
「なによ?私じゃなくて、他の人を観察しててよ」
「いや、足立さんって何者なのかなーって」
「だから天才漫画家。好きな本はエロ漫画。趣味は人間観察」
「よくわかりました。ただの変態なんだって」
ため息をつきながらまた目線を人通りに戻すと、視界に俺の知っている人間が映ったような気がした。慌てて目で追うと、人ごみの中、小柄な女の子が歩いている。
「すいません、俺ちょっと・・・!」
後先考えることなく、俺は足立さんを置いてその女の子を追っていった。
・・・・・・・・・・
「江崎さん」
その子の名前を呼ぶと、彼女は辺りをきょろきょろ見渡した後、ようやく俺のほうを見た。
人ごみに酔ったのか、少し顔が赤いが、俺を見つけるとすぐに顔をほころばせた。
「佐伯君!偶然だね」
「ほんとだね。見かけたから思わず声かけちゃった」
俺もにこにこと笑って答える。笑いながら、なにも考えなしに声をかけたことを後悔していた。話す話題がない。
「今からバイトなんだ。佐伯君は?」
「俺は・・・ちょっと友達の付き添いっていうか・・・」
「あ、わかった。彼女とデートなんでしょ」
今それを江崎さんに言われるのは結構ショックだった。
大学に入学したときから、俺はずっと江崎さんのことが好きだったのだ。だけど、奥手でなかなか話しかけられず、好きだと言えないまま結局2年生になった今でもずるずると引きずっている。
「バイトだからそろそろ行くね。また月曜日」
「うん。じゃあね」
「バイバイ」
結局なんのために話しかけたのかわからないまま、俺は足立さんのいる噴水の所まで戻った。彼女はさっきと同じようにただ座って人間観察をしているだけだ。
「片想いか・・・」
「・・・・・!!」
本当のことを言われ、俺はぎくっとなって足立さんを見る。彼女は俺のことを見ることなく、ただすらすらと言葉を放った。
「大学に入学したときから密かに好きだったんだけど、奥手な性格が災いして上手く話しかけられずにずるずると今に到るってところかな」
「―――ほんとにエスパーですか?」
「えんちゃんは筒抜けだもんなー・・・こんなの誰だってわかるよ」
俺は複雑に思いながら、足立さんより少し離れた所に座った。しかし、逆に彼女はがばっと立ち上がった。
目をきらきらとさせながら、俺のことを見てくる。
「えんちゃん!ちょっとつきあってよ!」
「はぁ?どこにですか・・・?」
「大人しか行けないトコ」
なぜ足立さんが言うと卑猥に聞こえるのだろうか。
とにかく、俺が答えるよりも先に彼女にぐいぐいと引っ張られてしまう。彼女の言う、大人しか行けない所へ――・・・