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エピソード3 俺はどうなるんだろう

 なにを間違えたのか、俺は今同居人の仕事の手伝いをしている。その仕事とは、アダルト漫画のトーンを貼ること。

 俺は一体なにをやってるんだろうか。


「コラー!弟子ー、手を休めるなー!」

「・・・・・だって、これエロすぎですよ・・・」


 同居人こと、足立さんの怒声を浴びるが、俺は目の前の原稿だけでもう頭がクラクラとしてきていた。

 しかも、なぜか俺に回される原稿は男女の恋愛度数が高かったりする。


「そんなことないよ。この天才・白雪マリアにしたらまだまだこれからってとこよ」


 白雪マリア、それがペンネームらしい。

 そもそも俺がこんなことをしている原因は実は1時間前にある。


  ・・・・・・・・・・


 足立さんがアダルト系の漫画家だと知ったその直後、なぜか俺の家に見知らぬ女が泣きながら入ってきた。それも鍵を閉めたはずなのに、なぜか普通に玄関から、それも土足で入ってきている。


「先生〜!!」

「よっちゃん、よくここがわかったね」

「つーか、あんた誰!?」


 それぞれがそれぞれにいろいろなことを言っているが、どうやら俺だけが無視されて会話が進んでいくらしい。

 よっちゃんと呼ばれた、ショートカットの女は泣きながら足立さんにすがりつく。


「白雪先生の行く所なんて私にはすぐにわかりますよ〜〜〜それより先生、次の締切まであと1週間ですよ!?大丈夫なんですか!?」

「大丈夫、大丈夫。優秀な絵の助っ人を見つけたからね」


 その言葉と同時に、くるりと足立さんがこっちを見て、俺はどきっていうか、ぎくっとした。少し遅れて、よっちゃんも俺を見てくる。その涙が痛々しい。

 嫌な予感がした。


佐伯(さえき)(まどか)君。名づけてえんちゃん」

「えんちゃんさん・・・!!」

「いや、あの・・・・・」


 よっちゃんに手を掴まれて、俺はどうすることもできなくなった。

 その隙に、足立さんがそれとなく呟いた。


「私の通ってた大学の後輩なの。武内先生に絵の上手い学生はいないですか?って聞いたら、えんちゃんの名前が出たの」

「はぁ!?俺聞いてないですよ?」

「だって今初めて言ったんだもん。武内先生に感謝しなくちゃね」


 武内先生とは俺が1年生のときのゼミの先生で、俺がよく宿題忘れたりだとか、遅刻してきたりとかでお世話になったことがあった。その関係で、俺がちょっと美術が好きだということも知っていたりする。

 それがこんなことに悪用されるとは思ってもみなかった。


 今、俺の手はよっちゃんによってしっかりと握られており、加えて彼女の泣きはらした顔を見ていよいよやばくなってきた。


「えんちゃんさん・・・どうか、どうか、先生のことよろしくお願いします!!」

「え、あ、いや・・・ちょっと・・・」


 なにか言いかけたところで、足立さんによって肩をぽんと叩かれ、振り向くと彼女は黙ってこくんこくんと頷いている。もうあきらめろとか言っているようだが、その意味がわからない。


「まぁまぁえんちゃん。これ以上よっちゃんを悲しませないでよね」


  ・・・・・・・・・・


 こうして今に到る。


「まさか足立さんが俺にこれを手伝わせるために乗り込んできたなんて知りませんでした」

「私が家賃の3分の2払うことでお互いの利害は一致してるじゃん。よろしく頼むよ、えんちゃん」


 言いように利用しているの間違いじゃないだろうか。そもそも手伝ってしまっている俺もどうかと思うが・・・・・・

 つくづく自分の性格を呪いながら、俺は次のシーンに貼るトーンを探してしまう。


「うーん・・・どうもこの相手役の男の子がしっくりこないなぁ〜」


 そう言って、イスの背もたれにもたれかかる足立さん。

 俺は思わず顔を上げた。


「そういうこともあるんですか?」

「そりゃあるよ。いくら天才だからっていつもいつも描けるわけじゃないの」

「ふーん・・・」


 特に気にすることもなく俺が答えると、足立さんは突然持っていたペンをばしんと机に叩きつけて、唐突に立ち上がった。


「よし!決めた!えんちゃん、デートしよう!」

「はぁ!?なんでですか!?」

「レディーに恥かかせるもんじゃないよ、さぁ行くよ!」


 これから俺、どうなるんだろう・・・・・・

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