エピソード2 彼女の仕事
昨日の酒のせいで虚ろだった記憶が、徐々に俺の頭の中に蘇ってきた。
昨夜、家に帰ったら、玄関のドアの前で寝てる変な女がいた。こんな所で寝られたらドア開けれないよと思いながら、彼女を退かして中に入ったところまでは覚えてる。
それからどうした?
「ねぇ」
目の前にいる女が突然声を出した。
俺は思わずぎくっとしたが、無言で女を見上げる。結構綺麗な人だと思った。
「昨日のこと、覚えてる?」
「なんとなくは・・・あんたが俺んちの前で寝てたこととか・・・・・」
「その後だよ。私に何したか覚えてる?」
さっぱり覚えていない。なんとなく彼女を家の中に入れたような気もするが、絶対何もしていない、と思う。いや、きっと・・・たぶん。
――俺なんかしたのか!?
「えええっ!?俺なんもしてないですよね!?」
「・・・・・・とりあえず、しばらくここに置いてくれればいいよ」
「なに言ってんですか・・・なんで見ず知らずの他人を・・・」
「あれ?そんなこと言っていいのかな〜?」
髪を横で1つに縛った女の人は、顔はあいかわらず笑顔だったが、その奥底にろくでもないことを考えていることくらい俺にだってわかる。
昨日のことを他人にバラされたくなかったら、しばらく家にいさせろとか言うに決まってる。
絶対ごめんだ。
「とにかく、俺はなにもしてないですから!そんなことで脅されたって知りませんから!」
「うん、なにもしてないよ?君は私をエロ本の積んであったソファの上に寝かせてくれただけみたいだから」
はっとして慌ててリビングを見渡すと、確かに・・・男の・・・バイブルが・・・不用意に・・・ソファに・・・・・・げっ!
1人暮らしだったから、そこらへんにほったらかしにしてたらしい。
「見たんですか!?」
「だって見てくださいって言ってるようなもんだし、私そういうの興味あるもん」
なんだこの人。ただの変態か・・・?
「だからさ、ここの家賃半分払うから、しばらくいさせてほしいって言ってんの。昨日ここに来たのは野暮用があったからなの。それが終わるまでここにいさせてよ。お願いだから。迷惑はかけないから」
反抗する気も起きなかった。なんたって彼女は、俺がなにか言う前にすでにここに居座ることを決めていたらしく、どこからか持ってきていたキャリーケースから荷物を取り出していたのだ。
そのときの俺は、すぐに出て行くものだと思っていたから深く考えていなかったが、それが彼女―足立詩織―との同居生活の始まりだった。
・・・・・・・・・・
だけど、足立さんはなかなか出て行かなかった。
それどころか、しばらく居座るつもりらしく、どこからか自分の荷物を送ってもらっている。どうやらここでしばらく生活する気でいるらしい。
「おかえりなさーい!」
大学の授業から帰ってくると、なぜかふりふりのエプロンを着けた足立さんが出迎えてくれた。
俺はそのなかなかのかわいさにノックアウトさせられないように目をそらした。
「・・・その、なんでそんな格好を・・・」
「新妻プレイ。置いてもらってるお礼だよ。私もそろそろ仕事始めないといけないから、今のうちにこういう格好して、飢えている健康男児を癒してあげないとね」
「仕事・・・?」
そんな話は聞いてない。俺は怪訝に思って首を傾げるが、彼女はこともなげにこくんと頷いて1枚の紙を差し出してきた。
それを見て、俺は自分の中からなにかが噴き出しそうになるのを感じた。
「まだ言ってなかったっけ?私、天才漫画家なの。アダルトなね」
女の素っ裸の絵をひらひらとなびかせながら、彼女はにっこりと笑って言った。
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