エピソード11 駆け出す俺
俺が足立さんへの気持ちを自覚したところで、結局彼女に会えるわけではなかった。
あいかわらず時間だけが俺を追い越していき、俺という人間は全然前に進めないでいる。
12月24日。俺はあてもなく買い物に出かけた。
町はクリスマス一色。よく聞く音楽、『きよしこの夜』が流れている。
俺はその中を、マフラーに顔をうずめながら歩き続けた。
ふと、バイト先の前を通りかかってので入ってみると、1度だけ足立さんがAVを見に来たときにレジにいた男がいた。
「あっれー?佐伯じゃん」
「よー。暇だから遊びに来たよ」
「なんだお前。そんなに寂しい人生送ってんのかよ」
お前もバイトをしている時点で同じだけどな、と俺は思ったが、その男――高橋はけらけら笑っているだけだから心の中に留めておくことにした。
適当に店内を見て回ろうと思ったとき、何かを思い出したように高橋が呟く。
「そういや、こないだお前の美人な親戚さん来たぜ?」
「は・・・親戚?」
何気なく聞き返してから、俺は思考が停止するのを感じた。
親戚?それってまさか・・・!
「足立さんがここに来たのか!?」
「あ?足立さんだっけ?ああ、お前のカード使ってDVD借りた人だよ」
「なんで!?いつ!?」
「月曜日だから・・・一昨日?」
さすがに俺の様子がおかしいと思ったのか、高橋が訝しげな表情で首を傾げる。
だけど、そんなことを気にしている場合ではなかった。足立さんがここに来たという事実に頭の中を整理しきれずにいたのだ。
「どうしたんだよ・・・・?」
「や、なんでもない。それより、そのとき足立さん何か言ってなかった?」
「えんちゃん元気?とか訊いてきた」
「それで?」
「別にー・・・元気なんじゃないですかって答えたら、それならよかったって言っただけで・・・・って、なんで俺がこんな伝言板みたいなことしてんだよ。親戚なんだから直接話せばいいだろ」
俺は困ったように笑って言った。
「親戚じゃない。俺の好きな人」
高橋は特別驚いた素振りを見せることなく、ただふーんと頷いただけだった。
「じゃあ、今日はその好きな人、一緒じゃないんだ?」
「ずいぶん前から行方不明でさ、どこにいるのかさっぱりわかんねぇ」
「は?わかるだろ。住所あるんだから」
「住所ー?それがわかったら苦労はしないよ」
「こないだ来たとき、カード作ってったんだよ。そのときに住所書いてもらったから、それ見ればわかるんじゃない?」
意外な言葉に俺はただ目を丸くするだけだった。
高橋は個人情報の詰まったパソコンを起動させ、俺にその中の1つを見せてくれた。
確かに見える。足立詩織、それから住所、電話番号もそこには書いてある。
「――長野・・・が住所みたいだな。佐伯、これから行ってこればいいんでない?」
ここから長野までどのくらいかかると思ってんだよ。だけど、行くんだろうな。会いたいし。
俺はこくんと頷いて彼女の住所をメモした。
それが例えば偽りのものでなければ、必ず会えるような気がしていた。
「サンキュー・・・高橋」
「礼なら間宮に言えよ。あいつに言われなかったら、たぶんこうならなかったし」
「・・・・・・?」
「とにかく行けよ。その住所が本当だといいけどな」
よくわからないけど、言われたとおり店を出た。
一旦家に帰ってから用意して、それから電車で長野に向かおう。それで、会ったら絶対文句言ってやる。
そう決心して俺は駆け出した。
大学祭が終わり、ようやく復活です。
また読んでいただけると嬉しく思います。




