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ブラック・ゴート・チャイルド  作者: かたつむり工房
第四章 神の写し身との接触
34/35

4-12


 角を身体に埋め込まれた舞の姿が消え、彼女を樹と繋げていた糸も消えていく。

 銀色の幹は光を失い、金色の枝葉は色褪せる。

 木肌はひび割れ、十のセフィラは熟しすぎたようにぼとぼとと川面に落ちていく。

 いくつかは大きな水柱を上げ、またいくつかは川底で泥に塗れた。

 急速に力を失いつつあるセフィロトの樹は、色とりどりの輝く球が完全に自分から離れてしまうと、うって変わって小さな一つの実をつけた。

 眩いほどに真っ白で、夜闇の中に姿を浮かび上がらせる石にも似た実。

 片角になったシュブ=ニグラスは、川底から姿を消すと、道程を無視するように、いつの間にかその実を手に取っていた。

 金色の枝から彼女がそれを捥ぐと、同時に割れていた川は閉じ、枯れ果てた生命の樹は不死の源を失って、その水勢にすら耐えられないかのように巨体を傾かせていく。

 実を捥いだ彼女は、また一瞬にして、川岸に立っていた。

 そして、それを丸のみにする。

 林檎ほどもある実にもかかわらず、苦しそうなそぶりも見せずにそれを一息に飲み込んだ。

 すると、その実が生命であったかのように、かさねの下腹部はまるで妊娠したように膨らむ。

 彼女が膨らみきったお腹を愛おしそうに撫でると、その部分を覆っていた触手が隙間を開くが、少女の肌があるはずのそこには黒々と見通すことのできない産道が開いていた。

 ばしゃり、と濡れた音を立てて、かさねの身体に開いた穴から、彼女と同じくらいの大きさの人間が産み落とされる。

 羊水とともに誕生を迎えたのは、制服に身を包んだ舞。

 舞は、産声を上げる代わりに、安らかな寝息を立てていた。

 かさねは、出産した友人の頭を優しく撫でると、角も消え、女子中学生の姿に戻って、意識を失った。

 誰にも顧みられることなく、孤独に崩れていくセフィロトの樹は、バキバキと倒壊する音を静かな夜に響かせながらその角度を増していき、金色の枝葉が水面にぶつかると、波も立たせることなく光の粒となって、消えていった。

 そうして、すべてが終わった日戸川には妙齢の金髪の女性が浮かぶだけ。

「かさねを立派に育ててくれてありがとう、真二さん」

 雲が霧散し、晴れた夜空に浮かぶ月を眺めて、一人の魔女は呟くように敗北を宣言した。



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