4-10
私は落ちていく。
ふかく、ふかく、どこまでも。
ずっと、ずっと、いつまでも。
おちていく。
螺旋を描くように、それでいて、静止しているように、私は一様に暗い闇の中で自分の行き着く場所を探していた。
この、深く永遠な動きが、死、なのだろうか。
零だけを持つ点。
無限を示す捻れ。
なにかがなければ、なにもないということを見分けられない。
無明の暗闇の中では、自分が、本当に、落下しているのかもわからない。
私には、私だけがあった。
落下は唐突に終わる。
私の意識を、なにかが受け止めて、その瞬間、一斉に世界が現れた。
電灯を点けられるように、まぶたの裏が点灯する。
私は、誰かの腕の中にいた。
赤ん坊に戻ったみたいに、両腕でしっかりと抱えられて、柔らかな胸に頬を押し当てて、安心を与えられていた。
目を開けると、やっぱり闇の中にいたのに私を抱いている者の顔だけは、はっきりと見える。
「……お母さん……?」
その面差しは、明らかに上岡あさみのものだったが、しかし、違う。
彼女は、私の知っているあさみよりもいくらか老けていて、短く切りそろえた黒髪で、しかも、その頭には二本の角が生えていた。
緩く湾曲して、節ばった山羊のような角。
母親のような顔をした彼女は、慈しむような表情で、まるで腹を痛めて産んだ子供にするように、優しく励ますように、私の頭を撫でる。
「黄衣の王とともに歩み、両義を持つ完全なる生命。我が愛し仔。我が写し身。お前の祈りは――聞き届けられた」
そして、彼女と同じ角と立派な翼を持った真っ黒な毛並みの山羊がどこからか現れ、彼女は私をその山羊にまたがらせた。
最後に、彼女が微笑むのを合図にして、山羊は翼を広げ、私とともに、闇へ溶けていった。




