エリュトロンの眷属の人間:3
鳥の囀る声も聞こえない。その事に気付いたのがまず最初だった。
結局、ドラゴンは人間の姿のまま、小屋の中で一夜を明かし、私は外でその眷属のワイバーンと一緒に寝た。ハンモックがあって良かった。
胃の痛みは、僅かに残っている。眷属となって強くなるのは力とか魔法とかそういう事だけで、精神面はそのままだという事を、私は恨めしく思った。
「そうか、お前とっては、エリュトロン様が帰ってくるのは、嫌な事だな」
同じく起きて、狩りにでも行こうと皮翼を広げたワイバーンが私の方を見た。
「私が仕えているドラゴンの名前だよ」
そう言うと、軽く頭を振ってから飛んでいった。
やっぱり嫌な事なんだろうな。
軽く背伸びをしてから、顔を洗いに行こうとすると、小屋の扉が開く音が聞こえた。
振り返ると、ただの大狼の姿で出てきたドラゴンが居た。頭に赤子を乗せて。
狼型の姿になるにしても、もっと上位の幻獣に位置するフェンリルとかにでも化ければ良いのにとか少し思っていると、その喋れないはずの大狼の姿のまま、話し掛けてきた。
「干し肉だけじゃ足りないからな。ワイバーンに少し狩りに行かせた。
よろしく頼むぞ」
「はい」
……本当に、私はあなたの眷属ではないんですよ。
それとも、エリュトロン様、私をこき使うようにでも言いました?
心の中だけでそんな事をやっぱり思う。
さっと走って森の中へと消えていくのを見届けてから、今度こそ顔を洗いに行こうとすると、もうワイバーンが帰って来るのが見えた。
足にはしっかりと大振りの牙猪を鷲掴みにしていて、近付いて来るに連れ、それは首を綺麗に折って仕留められたものだと分かった。
流石は眷属。いや、もう少しゆっくり狩りをしてきても良かったのに。あんたも腹が減ってるだろう?
そう思ったら、口周りが僅かに血で汚れているのが分かった。……流石は眷属。
そして、当然のように私の前に落としてくる。
「眷属使いが荒いね」
本当に。
顔を洗いに行くはずが、血抜きをしにいくとは。牙猪を背負って、籠も持って川まで歩くその道のりは、寝起きでいきなりこんな事やる羽目になったのもあって、そんなに良い気分ではなかった。
後ろからのしのしとワイバーンも付いてきた。
河原に着くと、赤い目をした大狼がやってきていた。
私や尖り角鹿と同じく、エリュトロン様の眷属だ。名前は、尖り角鹿と同じく、無い。大狼は、ドラゴンやこのワイバーンを気にはしていたけれど、そのドラゴンの近くまで行こうとは思わなかったというようで、やっとドラゴンと離れてきたワイバーンの臭いを嗅いだ。
ワイバーンも大狼の臭いを嗅いだり、それぞれの目を合わせたりして、互いに興味津々と言ったところだ。
眷属同士のその間に、諍いは全く無かった。
見ているのも楽しかったが、さっさと血抜きをしないといけない事に気付いて、ナイフを取り出して首を切った。
まだ生きていた時と同じ程に温かい血が手を赤く染めていく。
川が血に染まっていくのを眺めながら、腹を割いて内臓をぽいぽいと後ろに渡すと、全部がそれぞれの腹の中に収められていく。
その内臓を処理し終える頃に、あの赤子のドラゴンは肉をどうやって食べるのだろうと今更気になった。
内臓は捨てなくて良かったんじゃないか?
……もう遅いけれど。僅かに残った心臓と肺だけを、そのまま持って帰る事にした。
そのすっかりと肉塊になった牙猪の、最後に頭を渡すとどうやって食べようかと大狼が悩んだ。ワイバーンがそれを掠め取って骨ごとばりぼりと食べた。
「おおう……」
そのまま、漏らさずごっくんと飲み込んだ。
毛皮を脇に抱え、籠に肉を全て入れて河原から小屋へ戻ろうとすると、それに大狼は付いては来ようとはしなかった。
エリュトロン様に気に入られる時は、何らかの理由で逃げなかったとしても、こうして心身共に健康になってしまえばドラゴンなんて存在が近くにやってきたら普通に避けるようになる。エリュトロン様は除いて。
ただしかし、小屋へ歩き始めた直後、川の向こうからドラゴンがやって来る感覚がした。
大狼はとても悲しい事にもう、逃げられなかった。私という眷属が逃げずにいるのに、自分だけ尻尾を巻いて目の前から逃げるなんて失礼な事を出来はしなかった。ただの大狼だった頃より、そういう概念ははっきりと身に染みついていた。
河原の先から出てきた、相変わらず同じ大狼の姿をしたドラゴンは、相変わらず頭に黒い赤子を乗せていた。普通に歩いて川岸で止まると、そこから助走も全くつけずに、ひょい、とそれなりの幅のある川を飛び越えた。
眷属となった大狼でもまず出来ない事だ。
そしてこれまた殆ど音も立てずにこちら側に着地する。まるで、体重を感じさせないような動作。
大狼は怯えるように思わず一歩後ろに下がった。
そんな大狼をドラゴンは一瞥すると、特に何も話しかける事なく、私の抱えている籠の近くまで来た。
胸が弾けそうだ。
気付けば人の姿になって赤子を抱きかかえて、どれが良い? と籠の中の肉を選ばせていた。
私や大狼を完全に無視している訳でもなく、かと言って特に何も言わず。
……本当に何となくだけれども、私は、このドラゴンは、眷属でない誰かとの付き合い方を知らないのだろうかと思った。
その振る舞いは、ぎこちなさにも見えたのだ。
せめてその威圧が無ければ良いのに。そんな事を思うが、きっとそれは消せないものなのだろう。
赤子が心臓を選んでむちむちと食べ始めると、気付けばまた姿を変えて、今度はコボルトになっていた。そして、大狼の前にしゃがんだ。
傍目から見れば片手で優しく首を撫でているだけだけれど、多分大狼にとっては首に鋭い牙を当てられているのと同じだろうと思う。
体がガタガタと震えそうになるのを必死に堪えているのが見て取れた。
目も合わせられて、ドラゴンが口を開く。
「この大狼は……病気だったのか?」
それが、私への質問だと一瞬気付くのに遅れた。
「あ、はい。そうですね。衰弱しきった所を見つけたエリュトロン様が気紛れで眷属にしました」
「あいつも懲りないな……」
「懲りない?」
つい、口に出ていた。
「…………いや、何でもない。
ところで、エリュトロンの眷属は、お前とこの大狼と、もう三つ居るよな?」
「え? 私の知る限りでは、私と、大狼、尖り角鹿、グリフォンの四つですが……」
そう言うと、ドラゴンはしまった、と言うように感情を露わにした。
「すまん、忘れろ。
眷属にも言っていないという事は、それだけ秘密にしたいという事だ。
忘れた方が身の為だ」
「…………はい」
エリュトロン様のその秘密が何かよりも、このドラゴンは意外と優しいんだと、その言葉を聞いて思った。
次いでに聞いた。
「そういえば、まだ名前を伺っていませんでしたが、聞いてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。クローロンだ」
「ありがとうございます。クローロン様」
今まで微塵たりとも感じていなかった親しみを、今、やっと少しだけ感じた。
胃に穴が開く事は無いかもしれない。
「我が息子の名前は、メランだ。な? メランだぞ、我が息子」
そのメラン様は、声を掛けられても頭を撫でられていても、相変わらず心臓をむちむちと食べていた。
*****
数日が過ぎた。
エリュトロン様からは特に何の手紙も来ず、けれど私の胃はまだ、穴が開かずに済んでいる。
クローロン様は、本当は優しいのだろう。ただ、それとは別にやはり、自然と漏れ出している威圧感にはどうしようとも慣れない。
盤上に意識を置いておけるその時だけは対等で居られるけれども、そこに平穏な対話はない。あるのは互いの頭脳を駆使した殺し合いだ。
そしてクローロン様を盤上で殺せば、多少ながらも苛ついた感情を向けられて、その分胃が痛む。
正直、数日だけでも、かなり疲れていた。
今までの暇な時間の過ごし方と言えば、土いじりやその恒戈の事を考えたりという事だったのが、今はその半分以上を眠りに費していた。
……浅い眠りの中、私は自分が夢を見ている事に気付いた。
眷属になってから時々ある事で、私はエリュトロン様の姿で、行った事の無い場所の光景を目にしている。
遥か昔から生きているエリュトロン様が生きてきた記憶を、そのままなぞっている夢だった。
目まぐるしく時や場所が変わる時もあれば、連続した時間の中のものもあった。
東西南北、行った事の無い様々な場所、一歩先も見えない吹雪が吹き荒れる氷の大地から、陽炎が湧きたつ暑さの地平線まで広がる砂地までを、私は夢で見る。
そして、エリュトロン様の姿で他のドラゴンと交流している様をそのまま見る事もあった。時に親し気に、時に激しくぶつかり合いながら。実際にドラゴンに会ったのは、少なくともこの夢の中でなら、私は様々なドラゴンと会っていた。
その中にクローロン様が居るかどうかは、私はまだ知らない。クローロン様の本当の姿を私はまだ見ていない。
何故こんな夢を見るようになったのか、眷属になってからそう時間の経たない頃に、エリュトロン様に聞いた事がある。
眷属になるという事は、端的に言えばドラゴンが自分の魂を分け与えるという事だと、エリュトロン様は言っていた。だから、魂に載っていた自身の記憶も少しばかし移るのだと。
肉体は器。魂は中身。
魂があってこそ、肉体は生物として生きられる。
そこで浮かんだ疑問があった。
ならば、ドラゴンの変身は何を意味するのだろう。姿どころか、重さも何もかもが変わるドラゴンの肉体とは何を示すのだろう。
エリュトロン様は、それには答えてはくれなかった。
今回の夢では、人族の営みを遠目から眺めている光景を見ていた。
良く見る事がある記憶の一つだ。
ワイバーンとか大鷲とかの何かに変身しているようで、規則的な翼の羽ばたきのような揺れが混じる。特に何をする訳でもなく、ただただその営みを眺めていた。
その目は、一人一人が何をしているのかまで、はっきりと捉えていた。農作業をしている人間や、剣術の指導をしているリザードマン、それに立ち向かう子供のコボルトなどが居る。
ただ、私が一番興味が湧いた事は、その集落で使われている様々な道具や武器は、私が見た事もないものばかりである事だった。
歴史にはそう詳しくないが、有史の事柄はしっかりと纏められ、克明な絵付きで詳細に残っている。人族が育んできた文化から、様々な研究結果まで、几帳面に細かく大量の本に纏められ、そして世界中に広く公開されていた。
その中に、この集落で使われている道具は、似通ったものはあれど、全く同じようなものは一つたりともなかった。そして、文明の度合いもそう変わらない。
しかしながら、この光景がいつ、どこのものだかを私に知る術はない。エリュトロン様は、その夢の中で見た光景を話されるのを嫌がって、聞いても何も話してはくれなかった。
自分の記憶を盗み見られたら嫌な気持ちになるだろうか、という私自身への問いは、まあ、当然のようにそうだろうな、という結論に落ち着く。
私は、見る記憶に何かしらの違和を感じようとも、それを不思議に眺めるだけに留まっている。
目が覚めると、空は夕方が訪れようとしている優しい水色をしていた。
ハンモックではなく、地面にそのまま寝て起きた時の光景には、その空を邪魔するものは何一つ無かった。
そして、頭が何かに乗せられている事に気付いた。枕替わりに、何かが。少しごつく、丸い。
体を寝返らせると、ワイバーンの腰の付け根と、そこから伸びる太いものが目に入った。それは私の頭まで伸びていた。
「……尻尾か」
起きた事に気付くと、長い首を振り向かせて緑色の目が私を覗いた。多分、クローロン様がそうしろと言ったのだろうと思った。
そこまでやるほど、このワイバーンはお人好しという性格じゃないとこの数日で分かっていた。逆に言えば、クローロン様は、そんなに表には出さないけれど、お人好しな部分がある。
体を起こすと、ワイバーンは早速空を飛んで行った。もう、夜はすぐにやってくる。
今日は何を作れと言われるのだろう、と自然と思うのに、私は、頼まれて料理を作る事自体はそう嫌いではないのを自覚した。頼まれる相手が、対面するだけで酷く精神を摩耗するドラゴンであろうとも。
それに、クローロン様は優しい。胃がやられそうにはなるけれど。なるけれど。
歩いて、塩の入った壺の中を見た。
「……そろそろ、一回買いに行かないとまずいか……」
底が見えていた。買い貯めていたものも、今はもう空だった。
調べると、他のものもそう多くは残っていない。
クローロン様にその旨を言わなければいけないなあ、と思うとそれだけで胃が少しばかりきゅっとした。
ほぼほぼ行ってこい位しか言われない事が分かっていても、対面するだけでやはり辛い。辛いものは辛い。
夜、飯の後にクローロン様に対局を持ちかけられるのは、毎日の事となっていた。
駒が置かれる音だけが私の頭に入ってくる。それを聞いて、私はその先だけをまるで機械のように淡々と読み続ける。
盤上の時刻は昼下がり。もう少しすれば夕方、今回、クローロン様は祈祷師と竜の眷属を組み込んでいた。
祈祷師の攻撃能力は魔術師と同じ程度の、歩兵や槍兵よりはやや強いくらいのものだ。しかし、明け方に死んだ駒を一つ、王を除いて自身の周囲に蘇らせる事が可能だ。死んだ駒を生き返らせるという唯一の特性を持っている。
それは重要な駒の無茶な運用を可能とする他、一度死んだ兵を祈祷師の周囲に場所に置けるという特性上、一度殺された砲兵を自由に動ける祈祷師の近くに置き直し、急所をそこから狙うといった戦法も良く取られている。
しかし、クローロン様が祈祷師の相方として選んだのは、竜の眷属だった。
竜の眷属は全般的に優秀な能力を持つ。端的に言えば、馬兵と魔術師をかけ合わせたような動き、攻撃が出来る。私は馬のように駆ける事も、そう大した魔法、魔術も使えないが。逆に言えば、尖った能力はない。
眷属だからと言ってドラゴンを実際に呼ぶみたいな仕組みも無ければ、他に特殊な能力もない。魔獣使いのように敵味方を飛び越す事も不可能だ。
しかしながら、魔術師の遠距離の攻撃と馬兵の素早さを含めたその能力は、防御にて真価が発揮される。
その能力は、受け身の対応に何よりも強いのだ。
祈祷師と竜の眷属の組み合わせは、守りに特化した組み合わせだった。
私は、今回は竜騎士と竜の眷属を選んでいた。基本的な、攻めの為の組み合わせの一つだ。
その二つを軸に相手の防御の隙を狙いながら、少しずつ歩兵前に進める。
夕方に歩兵を自陣へと近付けてはならない。それは、歩兵が持つ唯一の自爆と言う特性から来る鉄則だ。
夕方の時刻に一度だけ歩兵が敵味方を巻き込んだ自爆が出来る、という仕組みをこの遊戯に入れたのは何故だったのか、それは歴史書にも克明には書かれていない。
防御を崩すには砲兵が最も容易い。しかし、入れていない以上、次に容易いのは歩兵による自爆だった。
そう簡単にさせてくれない事は分かっている。しかしながら、夕方の時刻に合わせて近付いて来るというだけでそれは十分にプレッシャーとなり得た。
歩兵が強く睨みを効かせている間に魔獣使いが敵陣の中へと入りこむ。そして背後から重兵を打ち倒し、しかしそれ以上は竜の眷属が許さなかった。
更に加えて敵陣の歩兵が自爆で、他の歩兵や弓兵諸共、自分の魔獣使いを破壊した。
半径二マスが空っぽになる。
魔獣使いを失った駒損と比べると明らかに相手が得をしていた。弓兵は夜、何も出来ない。それに明け方になれば復活も可能だ。ただ、出来た穴は大きい。
その穴から魔術師と馬兵が入り込む。互いに自陣の守りが薄く、そして私は竜騎士を失った。この攻めが失敗すれば私は負けるだろう。
どうすれば良いか。目先にあるのは、魔術師や馬兵も使われ、守りで固められた王だ。良く知られた、硬い守りの陣形をしており、崩すのはそう容易ではない。更にそれに祈祷師まで組み込んであり、復活させた駒を更に守りに置ける。
竜の眷属を馬兵と魔術師で睨みを効かせながら、自陣の守りを薄くし、攻めに投入した。
明け方になれば祈祷師が厄介な重兵でも蘇らせるだろう。
中々に難しい。思考が、より沈んでいった。
戦が決着したのは、体感的にいつもの倍以上の時間が経った後だった。
長丁場の闘いを選択した私は、最低限のみの守りを置いて、他の駒ほぼ全てをその牙城を崩すのに費やした。
昼夜が何度も過ぎ、互いの駒がじわじわと削られていく。その中で私が僅かな利を積み上げていくのに危機感を抱いたのか、敵の竜の眷属が睨みを抜け出し、僅かな味方と共に攻めに転じた。
私はそれを大半無視し、最後の攻めに出た。
自分の竜の眷属さえをも囮に使う。捨て身で攻め込んできたそれを敵は殺すしかなく、出来た隙に馬兵が入る。直後に自陣の僅かな守りを敵の竜の眷属が打ち破る。
馬兵と魔術師、槍兵が敵の王を追い詰め、竜の眷属が単体で私の王を追い詰める。
しかし、駒が入り乱れ、自分の駒も多くあった敵の王の方が、詰みに入るのは早かった。
今回は、少々危なかった。
終わりを迎えて、徐々に意識が盤上から戻って来る。呼吸は少し荒く、汗も掻いていた。
頭がいつもより疲れていて、すぐに眠気が体を襲い始める。そして、目の前には天井を見上げるクローロン様と、ベッドで眠る赤子のメラン様が居た。
「……惜しかったか?」
天井を見上げたまま、聞いてきた。
目を合わせられていないからか、まだ盤上から意識が完全に戻り切っていないからか分からないが、威圧感がいつもより薄く感じられた。
「攻めが素早ければ、負けていたかもしれません」
「……そうか」
生きる為に、とか、自分にはそれしか無いのだという執念めいたものは、多分、ドラゴンには持てないものだ。それがあるからこそ、ドラゴンに比べたら一朝一夕程度の時間しかそれに費やしていない私は、ドラゴンよりこれが上手い。
しかしながら、私が死んだ後もその時間をふんだんに使ってじわじわと腕前を上げていき、そして人族が敵わなくなるのだろうとは思う。
ゴールデンドラゴンと戦った時は、普通に、単純な力量の差があって私は負けた。
あのケットシーよりも遥かに上手だと自覚出来たほどに。
盤と駒を仕舞う最中に、私は思い出した事をクローロン様に伝えた。
「クローロン様」
「……何だ?」
私が話しかけてきた事が珍しかったのか、顔を向けてきた。
「塩や麦などがそろそろ尽きてきていたので、明日は少し人里に降りてきます」
「分かった。いつ頃戻る?」
「用事だけなら、そう時間は掛からないかと」
「用事だけなら?」
そんな事言わなければ良かったと、戻ってきた威圧感と共に思った。
「いつも、少しは何かしら誰かと話したりとかするので」
「あー、我慢しろ」
「……はい」
そこは譲らないのですね。
外に出て、体を軽く洗い、軽く腹を膨らませてからそのまま屋外でワイバーンと共に眠る。ハンモックの優しい揺れと共に、意識は一気に暗闇に落ちていく。小屋の中の明かりも消える音がした。
私は、ふと、いつになったらあの小屋のベッドでまた眠れるのだろうと思った。
冬も寒くないこの場所で、外で寝るのは全くの苦痛ではない。時々虫が落ちてくる程度で。
ドラゴンの子育てが何年掛かるのか、それを思ったところで、私が生きている間はもう無理かもしれないと半分悟ったところで、次に目が覚めたのは朝だった。
エリュトロン(レッドドラゴン)の眷属
大狼:
名前:なし
特徴:目が赤い。幼少の頃に病気で動けなくなっていたところを眷属にされ、その病気の痕跡が今でも僅かに残っている。
クローロン(グリーンドラゴン?)の眷属
ワイバーン
名前:?
特徴:目が緑。温厚。