◆二人の後悔 ~「それはこの過去と向き合うことだぞ」~
早朝の軍本部。
相変わらず眠たげでやる気のない表情のロマエルは、こちらへ向かって来る人物を目にとめて、歩みを止めた。相手もこちらに気付いたようで、カツコツと質のいい軍靴の音を響かせて近付く。アークフェルド=フォン=デ=ガイアディスその人だ。
「やあ、ロマエル・ジュニア」
「総帥殿におかれましては本日もご機嫌麗しく」
「それは先ほど将軍が口にしていた口上だ」
南マイス統治軍の最高責任者アークフェルドと暗部局員ロマエルは、ロマエルの父がアークフェルドの武術・剣術の指南役であったことから、幼少時からの友人であった。そのせいかアークフェルドは幾分か砕けた笑みを浮かべる。
「君の考えていることならわかるぞ、ロマエル・ジュニア。ロスト博士との交換条件のことだろう?」
「別に。ハレス本人がやるって言ったんだ。異議はない」
「異議はなくとも異論はあるという顔をしているな」
「別に」
さら、と否定する。
「オレが気にしているのは、アイツを取り戻せとオレに命令したアンタが、百八十度態度を変えてハレスを見殺しにしようとしていること」
「見殺しだなんてとんでもない。オレは――」
「アンタは軍部局長に逆らえなかっただけ」
そう言い放つと、アークフェルドは表情を変えずに閉口する。
「アークフェルド。オレはお前の変わり身の早さに文句を言う権利はない。そのつもりもない。風見鶏のように人の顔色窺う役職に代わりに就けと言われても、無理だからな。けど、アンタの見ていないところでは、好きにさせてもらうさ」
そう言い残すと、礼もなしに立ち去って行った。
***
「って、なんなんですかコレはーーーーーーー!?」
キーンとする怒声が上がる。
ハレスは一日軍本部に拘留された後、やっと拘束が解かれ研究所に案内されたのだが――。
「廃屋じゃないですか!」
南マイスの中心部にある軍本部から馬車で二十分ほど離れた位置にある研究所は、広い敷地内に木々が鬱蒼と茂り、建物内には埃を被った機械や酒盛りの形跡が転がる、見事な廃墟と成り果てていた。ハレスを案内した管理局局長付補佐官ウィル=クロムは、穏やかな表情のまま資料を読み上げる。
「他の研究所との合併により十か月前に封鎖された研究所です。現在は管理局が管理しています」
「たった十か月でなんでこんなに……痛っ、フォークじゃないですか。洋服まで……。これじゃあ足の踏み場もないです。管理じゃなくて放置の間違いでしょう?」
ハレスが転がるゴミに悪戦苦闘している一方で、ウィルは細身であるがしなやかに発達した筋肉を使い、難なく奥へと進んでいく。
「こちらの右手の部屋が第一研究室です。機材はそのままに……いえ、準備してありますのでご心配なく」
「そのままって言いましたよね? やっぱり放置してたんじゃないですか」
「万が一不足しているものがございましたら、管理局第二部門に申請書を提出してください。命のかかっている博士ですから、すぐに用意いたします」
「随分棘のある言い方ですね。それにしても……はあ……研究室まで辿り着けません。これが邪魔で……」
機械とテーブルによって道を塞がれたハレスは、ウィルのように軽々と飛び越えることができずに苦戦していた。
「……少し、下がっていてください」
ウィルは邪魔な機械を空いていたスペースに押し込めて、その上に通行の妨げとなる機械や家具などを乗せていく。
「どうぞ」
「わあ……ありがとうございます」
奥に辿り着くと、ウィルは鍵を探してサイドポーチを漁る。
「以前なら、機械に関する要望は軍部局に出していましたよ」
「ええ。通常でしたら、研究所の上部組織である軍部局に申請するべき事項です。しかし、ダンツェル局長がご多忙なモルゲン軍部局長を慮り引き受けたのです」
「そうでしょうか。そのモルゲンという人は私と関わりたくないだけでしょう? 私がその人の気分を害したせいで、代わりにあの鬼……いえ、管理局長が余計な仕事を押し付けられた、といったところですか。あなたたちにとってはいい迷惑ですね」
「博士、それは誤解です」
鍵を取り出し、扉に歩み寄る。
「軍が信用できないという博士の心情はお察しします。我々はあなたたちに、それだけのことをしてきましたから。しかし、全員を敵視してはいけません。本当の敵と信ずるに値する者は、常に曇りなき眼で見極めねばなりません」
「……自分たちは信用できると言いたいんですか?」
ハレスが眉を潜めて尋ねると、ウィルはその視線を真っ向から受け止めた。
「ええ、そうです。ダンツェル局長はあなたの味方です。もちろん、私もね。開錠できましたので、こちらへどうぞ」
ウィルに勧められるまま、ハレスは扉の前に立つ。扉は鍵と暗証番号の入力で開くものだった。
「南マイスは技術が遅れていますね」
「なぜ、そうお思いですか」
「この扉が、魔術や魔石を利用したものではなく、鍵という原始的な道具で開錠するものだからです。研究所は〝エフ〟を取り扱うことが多いので、魔術・魔石・魔法陣を利用する装置は、誤作動を防止するための更なる技術が必要となります。技術・魔術の粋を集めた帝国では、生体認証で開閉を行っていましたよ」
得意げに語るハレスに、ウィルは柔らかく微笑みを返す。
「なるほど。さすが博士。ためになります」
「ふ、ふんっ。私を誰だと思っているんですか。偉大な天才ハレス=ロスト博士ですよ。それくらい知ってるに決まってま――」
静かにスライドした扉の向こう側を見つめて、ハレスが硬直する。廊下以上に荒れ果てて廃棄場と化した研究室内、目を光らせてこちらを見るネズミたち。
ひくり、と唇が引き攣る。
「は、ひ、ふ……ふぎゃあああああああ!」
思いきり悲鳴を上げて、勢いよく飛び退く。
「な、なななな……なんっですかコレは――――!」
「ネズミが巣を作っているようですね」
「おおおおおお追い出してください!!」
真っ青の涙目になっているハレスとは違い、顔色一つ変えないウィルは、近くにいた一匹を掴み上げてハレスに見せつけた。
「もしかして、ネズミはお嫌いで――」
「ぎゃああああああああああああ!!」
喉が避けんばかりの絶叫を上げて、蹲ってしまう。
「嫌い! 大っ嫌い! やめてくださいちかづけないで! やめてください……!」
「博士?」
頭を抱えたまま、ひく、とひきつった声が漏れ聞こえる。
泣かせてしまった。そう気付いたウィルは、ネズミを研究室の中に放り投げるとすぐにドアを閉める。
「もう大丈夫ですよ。扉は閉めましたし、こちらへは一匹も出てきていません」
「……」
「ほら、どこにもいませんよ」
優しく呼びかけてもハレスは丸まったまま。よほど嫌な思い出があったのだろう。ウィルは膝を付くと、ハレスを抱き寄せて子供をあやすように背中を摩った。
「申し訳ありませんでした。この部屋は我々が整理して博士にお渡しいたします。博士は気分転換に町を歩いてはいかがです。馴染みの店でも久しぶりに訪ねてみては?」
「……本当ですか?」
「何がです?」
「もう……いませんか?」
「いません。本当ですよ」
恐る恐るハレスは顔を上げる。赤くなった頬、濡れそぼった瞳。可哀想なことをしたとウィルは再度思った。
「さ、立ってください。外へ出ましょう」
ハレスを立ち上がらせると、背に手を添えて誘導する。ハレスは目を擦りながら、それに従った。
「夕方五時に来ていただければ片付けは終わっているでしょう。入り口で待ち合わせて再度ご案内します。よろしいですか?」
「ウィルは、私のこと子ども扱いしていませんか?」
「そんなことはありません。軍の上位の役職に就いていた博士は、立派な方ですから」
「そうですか……あの、色々とありがとうございます」
研究所から出てウィルの手から離れたハレスは、ショックからまだ立ち直っていないのか、眉を寄せた固い表情でいる。
「お気になさらず。我々の不手際の始末をするだけです」
「……」
「ご気分を害してしまった責任は私にありますし」
「……ウィルは優しいですね」
「光栄です」
「……ネズミ、怖いんです。子供の頃に大事な本を齧られて、それから苦手になったと言ったら、実験用のラットをすべて燃やしてしまったんです……」
ハレスはぶんぶんと頭を振って話を変えた。
「五時に戻ればいいんですよね? 私、町を散歩してきます」
「お気をつけて」
ハレスの後姿を見送ると、ウィルは研究所に向き直る。
「第三部門から応援を呼んだ方がいい。念のため、モンスター除けの魔術式を刻んでおくか」
独り言を呟き、ウィルは歩き出した。
***
南マイスの南に位置する、商業のリラ地区。食材や雑貨が店やテントに並んでおり、溌剌とした活気の良さで満ちている。
「散歩だなんて言いましたが、ここに来ることはありませんでした」
なだらかな丘陵地帯に興された南マイスは、丘の上下で生活水準に差がある。丘の上には貴族や軍人、中腹には中流階級の者が住むが、丘の下は雑多な人種や商品が横行するいわゆるスラムである。リラ地区とスラムは長い階段で繋がっており、雑多な下界を見下ろすことができる。
「やっぱり戻りますか……。行く当てなんてないですし」
眼下でなだらかに下っていく町の景色は、段々と貧相さを増していく。ずっと先にある階段さえ降りてしまえば、ハレスの知らない世界がある。
「あまりいい景色ではありませんね」
来た道を戻ろう、そう考えた直後。
「ハレス? お前ハレスか!」
遠くから声が上がる。店から黒いエプロン姿の青年が出てきたところだった。彼には見覚えがある。セットされた黒い短髪に明るい緑色の吊り目、肌は男らしく焼けていて、自分より五歳ほど年上の。
「ゲイリー……」
「さん、を付けろ。まったく変わってないなあ」
肩を竦めて笑いながら、店を親指で示す。
「寄ってけよ。今日は暇だからな」
「暇なら客引きでもしたらどうです? 仕事の怠慢は一円にもなりませんよ」
「わかったような口を利くな。お前の言う怠慢は案外商売になるんだぜ」
「ええ、わかりませんね。客に媚びて調子のいいこと言って金銭を得る仕事なんて、したことないからわかりません」
「お前なあ……。いいから入んな。茶ぁ出してやるよ」
呆れ笑いで手招きしながら中に入っていく。ハレスはムッとした表情を作りながらも、
「し、仕方ないですね。時間もあることですし、少しだけなら付き合ってあげます!」
久方ぶりの再会に、満更でもない様子でついていった。
「お前が店に来るのは何年ぶりだ? だいぶ経つよな?」
「さぁ……。二年ぶり、くらいですね……」
「避けてただろ」
「っ!? そんなことありませんよ。ただ、服を仕立てる機会がなかったんです。私のこの天才的な科学センスがやっと認められて所長に大出世したんですから。一日中お堅い軍服着て、私服なんてクローゼットの中ですよ」
ゲイリーの店はオーダーメイドの洋服店だ。店内は客用の小さな木製テーブルと椅子、使い古されたトルソーがあるだけで、備品はカウンターの奥に詰め込まれている。ハレスは子供の頃から店の顔馴染みであり、ゲイリーは数少ない友人の一人であった。
「お前が天才だって? こりゃまた大きく出たもんだなあ」
ミントの香りの立ち上るグラスをテーブルに置き、ゲイリーは笑う。同じ黒髪を持つひねくれた友人とは違い、嫌味のない言葉だとハレスは思った。
「ところで、ご主人はお出かけですか? あなたに仕事を任せるなんて、ご主人らしくないですね」
何気ない会話に興じつつ、ふと気になったことを尋ねれば、ゲイリーの表情は少し固くなった。
「ああ、そうだろうな。親父はこんな小さなしょうもない店でも、オレの城だって息巻いてやがったからな」
自分のコップをカウンターに置き、窓の外に視線を流す。
「アイツは死んだんだ」
「……亡くなったんですか……」
「ハレス、お前のこといつも気にしていたんだぜ。大人しくて気の小せぇお前が軍でやっていけるわけがねぇ、って。毎日町の掲示板回って、仕立てに来た軍人にお前のこと聞いて、時間がありゃあ訳もなく上まで散歩に行って。所長に昇進したのも知っていたさ、もちろん、その理由も。国から逃げたって話も。お前のことだから、寂しくなっていつかは故郷に戻ってくるって疑わなかったが、病でポックリだ」
「……そうだったんですか……」
「一度くらい、ここに来ても良かったんじゃないか?」
「それは……」
口には出さないが、ゲイリーの言葉はハレスを責めていた。ハレスのことを我が子同然に気にかけていた主人に、せめて亡くなる前に元気な顔のひとつでも見せてくれればよかったのに、と。
「……忙しかったんです……」
言葉が渦を巻き、結局それだけぽつりと零す。
後悔はある。ハレスだって、面倒を見てくれたゲイリーの父親に一目会っておきたかった。しかし、今更それを口にして、いったいどうなるというのだろうか。
「軍部局に負けるわけにはいかなかったんです……」
「たった一度でも良かったんだ。国を出る前に一度でも親父とオレに会いに来てくれたら、こんなに後悔することはなかっただろ」
「あなたにはわかりませんよ!」
ハレスの八方塞がりの思考など気付かないゲイリーの正論に対して、立ち上がり叫んだ。
「私がどんなに大変だったか、わかるわけがない! たとえ一分一秒でも無駄にはできなかった! こんな話をするために私を呼んだのなら帰ります」
言うなり、ハレスは扉に手をかける。
「待てよ」
ゲイリーはハレスの腕を掴み、向き合った。
「放してください。あなたが私みたいな薄情者を気に食わないと言うのなら、二度とここには来ません」
「ハレス、落ち着けって」
「あなたなんかに……。放してください!」
「ハレス、すまない、言い過ぎた。謝るよ」
「放してっ! 放しなさい! 帰ります!」
「ハレス……。ごめんな。わかった、放すよ」
ヒステリックに喚くハレスを止めることができずに、ゲイリーはその手を放した。暴れていたハレスは即座に飛び出して、走り去っていく。
「お前と軍の間に何があったのか、どれほど大変だったか、知ってるつもりだぜ?」
キィキィと揺れる扉に手を添える。
「ハレス、お前、変わっちまったな」
ゲイリーはがしがしと頭を掻いて、ハレスの駆けて行った道を悲しそうに見つめていた。
「わかるわけが、ない……!」
走りながらハレスは繰り返す。第三研究所の所長に抜擢されてから、親友によって研究所が封鎖されるまでの一年間は、ハレスにとってもっとも辛い時期だった。
「ゲイリーなんかに……」
楽しかった記憶がある。まだ自分が研究員見習いで、ゲイリー親子の店までお使いに行かされていた頃の記憶だ。自分に兄のように接してくれるゲイリー、優しくて面倒見のいい主人、そして淡く微笑む――。
「あ……」
気が付けば、広い空き地に出ていた。足を止めれば、穏やかに流れる風がハレスの髪を流す。髪を押さえてゆっくりと周囲を見回すと、足元の黄緑色の草がたなびき、遠くに居並ぶ背の高い木々が独りきりのハレスを見下ろしていた。
「……私……言い過ぎました。ゲイリーには関係のない話だったのに、怒鳴ってしまって……」
「泣き虫ハレス!」
見知った声に、びくりと肩を震わせて振り向く。ニヤリと笑うロマエルがそこにいた。
「……泣いてません。泣き虫なんかじゃないです。なんでここにいるんですか?」
「お前のことだから、どうせ感情的になって一人で泣き叫べる場所にいるんだろうって思って」
「違いますよ! ロミーのことです」
「ああそう。オレがお前の居場所がわかった理由だと思った」
「……この場所が泣くのに適しているっていうんですか?」
「偉大なハレス博士ともあろう者が、ここがどこだかわからないとはね」
「なっ!?」
カチンとして口を開くが、刹那ロマエルが言わんとしたことに気づく。
「ここは……」
木々に囲まれた大地には、所々黒い塊が覗いている。かつては建造物を構成していた資材の焼け焦げた残骸だ。
「……ここは、第三研究所」
「その跡地だ」
ご丁寧に訂正され、ハレスは下唇を噛んだ。ここはハレスが国を出た発端の地であり、ハレスとロミーの決別の地。
「服屋の倅と喧嘩して、どこまで逃げるのかと思えば、またこの場所。馬鹿の一つ覚えみたいに過去に縋りやがって」
「黙りなさい! 軍部局が……あなたが私の居場所を壊したくせに! 私にとって唯一の居場所だったのに、あなたは……」
「だから、ここから逃げたと?」
「逃げたですって? 馬鹿にしないでください。この国では私の研究ができません。時代を次のステップへ進める偉大な研究のために帝国に渡ったんです。決して逃げたわけではありません」
「でも、戻ってきた。また研究を始めるために」
「あなたたちが、私が必要だと頼むから来てあげたんです。仕方なく! 来てあげたんです!」
「それはこの過去と向き合うことだぞ、ハレス」
「向き合うもなにも忘れたことなんてありません。私が推進していた研究を軍部局が一方的に潰しにかかって……。そんな悔しいこと、忘れるわけがありません」
きっ、とロマエルを睨みつける。
「エルのことだって絶対に助けます。軍部局がどんな邪魔をしても、エルには手出しさせません」
「そうか。なら、いい」
話は終わったとばかりに背を向けて、ロマエルは歩き出す。ハレスは訳がわからずに、眉を寄せた。
「お前が過去を後悔していないのなら、それでいいよ」
「なんですか、それ……」
ハレスの困惑を他所に、ロマエルは満足げに空を見上げた。
ハレスが後悔していないのなら、それで十分だ。たとえゲイリーのようにハレスを責める者がいたとしても、ハレスが「自分は間違っていない」と自信を持って言えるのならばそれでいいと、ロマエルは密やかに思う。
「まあ、オレも間違いは犯していないし」
「は? なんですか? さっきから大丈夫ですか?」
駆け寄ってきたハレスに普段通りの意地悪な笑顔を向けて、ロマエルは懐中時計を見せつけた。
「それより、もうすぐ五時になるぞ。ウィルさんのところへ戻らなくていいのか?」
「えっ!? もうそんな時間ですか? ……って、ロミー。なんであの人との約束を知っているんですか?」
訝し気に尋ねれば、ロマエルは飄々と答える。
「お前のことを監視しているからだけど」
「はああ!? 監視ですって!? ちょ、どういうことですか!?」
「うるさいなあ。アークフェルドの信用のない今、お前がとんでもないことをやらかしたら何が起きると思う? 責任はすべてお前を連れ戻したオレ一人に押し付けられる。モルゲンさんを敵に回しているから、良くてクビだ」
「クビでもなんでもなればいいんですっ。ロミーみたいに人の気持ち考えないで自分勝手に行動する人なんて、みんな辞めればいんです」
「残念。軍人は一人残らず辞職だ」
「ん? ってことは、ロミーはゲイリーのことも……」
「ああ、見てたけど」
「っ……!?」
ハレスが口をぱくぱくと開閉させながら、真っ赤になって立ち止まる。ロマエルは鼻で笑った。
「どんな関係かは知らないが、あんな風に当たり散らされて、たまらないよなあ」
「な、な、な……プライバシーの侵害です! ちょっと、待ちなさい、ロミー!」
くくく、と笑いながら一人歩き出したロマエルを追いかけて、ハレスも跡地から去っていく。
残されたのは、瓦礫の数々と、
「…………あれが、ハレス……ロスト……」
木々に身を隠す、不穏な影だけだった。