未来視-3
『さようなら、ヴィクトリア。かつてはきみを愛していたよ』
処刑台に立つ私を、アレクは無表情で見つめている。
『わたくしは今までも、今でも、これからも、あなただけを愛していますわ』
『おお、可哀相なヴィクトリア、これから、はもうきみにはない。きみは今ここで死ぬのだから』
『死んでも……愛していますわ、アレクシス』
思わず涙が零れたけれど、その時処刑人が私を半ば突き飛ばすように押して、私は死ぬ為の場所に膝をつく。
『おにいさま』
私の目に飛び込んだのは、柱にかけられているエドワードお兄さまの首。半開きの瞳にはもうあの穏やかで優しい光はない。冷たく虚ろな濁ったひとみ――。
もう諦めていたのに、私の中に最後の感情の炎が巻き起こる。私は広場に詰め寄せた人々を見まわした。
『こんなの! こんなのおかしい! わたくしもお兄さまも何もしていないのに!!』
『もうその言葉は聞き飽きたよ。最後くらい以前のきみらしく凛として罪を認めたらどうだ』
『犯してもいない罪を認める訳にはいかないわ!』
そう言って私は、アレクの傍に立つ娘を睨み付ける。けれど娘は平然と私の視線を受け止めて、言った。
『わたくしがアレクさまに生涯お仕えしますわ。どうぞ、もう悪夢に脅かされる事もなく永の眠りにお就きくださいまし、お嬢様』
『おまえは、それでいいの?! おまえは、おにいさまを……』
『お時間です、ご令嬢』
処刑人の刃が振り上げられ、煌めいた……。
―――
『待ってくれ。こんな筈じゃなかったんだ。違うんだ、間違いだ!!』
時間が巻き戻ったようだった。ほんの少し、違う世界にいた。
私は処刑台に立っている。声もなく泣いている。悲しいのは、世界でいちばん愛しいひとを、苦しめたままこの世を去らなければならないから。
『わたくしはだいじょうぶだから……泣かないで、アレク』
『だめだ!! 俺は護ると誓ったのに!! ヴィー!!』
『王太子殿下、どうぞお静かに』
『うるさい!! この手を離せよ!! ヴィーは何の罪も犯してない! 俺が知ってる!』
『公正な裁判の結果ではありませんか。今更、何を』
『ちがう、ちがう、ちがう。ヴィーーー!!』
『アレク!!』
アレクは護衛兵に両脇を押えられながらも、半狂乱で私の名を呼んでる。行ってあげたい。行って、だいじょうぶよ、って言ってあげたい……。
『お嬢様、お嬢様!!』
アレクの傍で、娘も泣き喚いている。私は無理に笑顔をつくり、
『大丈夫、怖くないわ。アレクを、おねがいね』
と言った。
『無理です、駄目です、私には役不足です!』
『ふふ、それは、役者不足、っていうのよ』
『お嬢様!!』
『静かにせぬか、アリシア』
冷たい声が娘を制した。アレクと彼女が泣き喚くなか、私は処刑人に跪かせられて……。
―――
また、世界が変わる。
処刑台に立っているのはだれ。私じゃない。
『やめて。あの子を殺さないで!!』
泣き叫ぶ私をアレクが後ろから抱き締める。
『だから来ない方がいいって言ったのに』
『そんなこと出来るわけない! わたくしの妹なのよ、あれは!!』
『ヴィー。しかたがないんだ。俺だって辛いよ。でも』
『いや!! アレク、あの子を助けて!!』
『もう罪は定まってる。ごめんよ、俺はきみを護ることしか出来なくて』
『わたくしは大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません』
こんな時なのに、あの子は処刑台から私たちに向かって微笑みかけた。
『やめて――』
でも、処刑人は、あの子を跪かせて……。
―――
だめ、だめ、だめ、どれもだめ。
でも、でも、でも、とめられない――。
お待たせしております。
第2部はヴィクトリア視点になります。次話より話が動きます。




