サンライト兄妹
注意、このお話は『現代最強は楽しいハンバーガーに転生しました』を2章まで読んでおくことをお勧めします。
『サンライト兄妹』
格安テナントに居を構えるは、
自称女神が経営するタレント事務所、通称『女神事務所』。
大物俳優を排出する夢を叶えるため、日夜、某小説投稿サイトに投稿を続けている。
そんな事務所の休憩室。
「はっはっはっ! どうだ凄いだろう!」
脚立に乗って高らかに笑っている男がいる、サガオ・サンライトだ。
「すごい! すごいよ! おにぃちゃん!」
その横でサガオの妹、ヒマリ・サンライトが喝采をあげている。
「いや、電球替えただけですよね」
その様子を見ていたレイラが耐えかねてツッコミを入れる。
レイラのツッコミを無視してサガオはやり遂げた顔で汗を拭う。
「さて(脚立を片付けながら)、一仕事終えたら喉が渇いたぞ」
「おにぃちゃん! はい! いろ〇す!」
「ああ、済まないな、妹よっ! ごきゅごきゅ!」
「え、なにこの感じ・・・・・・」
「レイラさん」
「ヒマリちゃん、なんですか?」
「いいじゃないですか・・・・・・現実でくらい、兄妹で一緒にいても・・・・・・」
「あっ」
そう、楽ハン(『現代最強は楽しいハンバーガーに転生しました』の略)では2人はすれ違ったまま死に別れてしまったのだ。
「そう・・・・・・ですよね、なんだか無粋なことを言ってしまいましたね。すいませんでした」
「いいえ、気にしないでください、私はおにぃちゃんと一緒にいられればそれでいいんです」
その時、空間を裂いて女神が現れた。
「ちょりーす、やっとるかね君たちぃー!」
事務所に緊張が走る。女神は原作でもここでも変わらないのだ。変わらない、つまり原作同様、ゲスの極み女神というわけだ。
「誰がゲスの極み女神じゃボケコラお? 語呂が悪いじゃろ!」
「誰に言っているんですか?」
「あー? ああ、貴様らには分からんのか。何でもないぞ」
「はぁ」
「おやおやぁ? なーんか幸せそうにしてるのぉ?」
女神の無邪気な笑に晒されたサガオとヒマリ。
「・・・・・・ッ!!」
「ヒマリ!!」
ヒマリはサガオの前に出て庇うように手を広げる。
「やるなら私にして!」
「・・・・・・ヒマリぃ」
それを見て女神の顔が歪む。
「甘ったるい幸せ臭がプンプンするのぉ。じゃあリクエストに答えて貴様にしようかの」
ああ、転生させられる。この部屋にいる誰もがそう思った(女神を除く)。しかし、
「ククク・・・・・・ではメイド服を着てもらおうかの」
「え? メイド? え?」
「嫌とは言わせぬぞ? これはキョーセイじゃケッテージコウじゃ、決して変えられぬ因果の理じゃ」
困惑して振り向くヒマリにサガオは『すまない! 妹よ!』と満面の笑顔で答える。
「ええ・・・・・・。キョーセイなら仕方ないです、着ますよ」
「よしよし、会社の金で買ったメイド服があるんじゃ、早速着てもらおう。なに手間は取らせぬ、ほれ」
女神が指を鳴らすと、ヒマリの服装が一瞬にしてメイド服に変わる。
「ぐへへ、やはり金髪にはメイド服じゃのぉ」
「な、なんだか、恥ずかしいです」
「ふむ、その服は貴様にやろう。さて、飽きた、レイラ」
「あ、はい」
「雑務は任せたぞ」
「はぁーい」
女神は普通に玄関から出て行った。
「レイラさん」
「ヒマリちゃん、どうしました」
「あの、私の元の服は・・・・・・?」
「消滅」
「消滅!?」
「した感じになりますね」
「なんだか表現がフワフワしてますよ!」
「まぁ、あれです、そのメイド服とトレードしたってことで、ここは穏便に」
「え、いや、あの、その、帰りは?」
「そのまま帰ってください」
「嫌ですよ! 恥ずかしいです!」
「俺は可愛いと思うぞ!」
「・・・・・・そう言うから恥ずかしくなるんですよ、おにぃちゃん」
「じゃあ俺、そろそろ撮影があるから」
「おにぃちゃん!?」
「レイラさん、妹をよろしく頼む」
「それは構いませんが、本編でまだ出番あるんですね」
「どうやらあるみたいなんだ、現場に行ってみないと詳しいことは分からないが」
「分かりました。お気をつけて」
「ああ、行ってきます」
「やだ! おにぃちゃん!」
「こら、ワガママを言うんじゃない」
「この格好のまま置いてかないで!」
「あ、そうだ」
「え?」
サガオはスマホを取り出してヒマリを撮影する。
「これでよし、妹フォルダに分類っと、じゃあ行ってくるよ」
「おにぃちゃんっ!!」
「おわっ、ビックリしたな」
「置いてかないで! 私も行く!」
「ダメですよヒマリちゃん、四章の撮影がいつ始まるか分からないんですから」
「うぅ、でもぉ」
「分かったよヒマリ、そんなに遅くはならないと思うから帰りに服を買ってきてあげよう」
「本当!? やったー! ありがとう! おにぃちゃん!」
「はっはっはっ、可愛い妹のためなら、なんでも買っちゃうぞー!」
「ダメだこの兄妹」
半日後。
「ただいまー」
「お帰りなさいおにぃちゃん!」
「その格好のせいで、もうそういうお店にしか見えなくなりましたね」
「レイラさん、ヒマリの子守りありがとう、これつまらないものだが受け取ってくれ」
「おろ? ありがとうございます」
サガオが手渡したのはダルマ型の筆箱だ。
(うわ! 本当につまらないものだ!)
「ヒマリ、おいで」
「うん!」
「ほら着替え買ってきたよ」
「わーい! ありがとう!」
「どれにしようか悩んだんだがこれが一番可愛いって店員に言われたんだ」
「どれどれー! え!?」
袋を開けて中身を見たヒマリが固まる。
「どうしたんですか? ヒマリちゃん?」
硬直したヒマリの代わりにレイラは服を取り出す。
サガオが買ってきたのはバニーガールの衣装だ。
「意味無いじゃないですか!!」
「ん? どうしたのだ?」
「え? 分からないんですか? 『うえーん、メイド姿じゃ恥ずかしくて帰られないー』って言ってる子に対してもっと恥ずかしい服をプレゼントしますか!?」
「恥ずかしいのか・・・・・・これ?」
「恥ずかしいどころか、こんなので出歩いたら通報される!」
「そ、そうか、可愛いと思ったのだが」
「いや、可愛いですよ? 可愛いですけども、もう少しTPOを弁えてください!」
「わ、わかった、すまなかった」
「・・・・・・ます」
「ヒマリちゃん?」
「着ます!!」
「あー! ヒマリちゃんが壊れた!」
「いいのか!? ヒマリ!」
「うん! 着るよおにぃちゃん! 女は度胸だよ!」
「そうか、なら俺も何か着ようかな!」
「え!?」
「ヒマリ一人に恥ずかしい思いはさせないぞ!」
「ありがとう! おにぃちゃん!」
「よし、じゃあ今から何か恥ずかしい服を買ってくるから待っていてくれ!」
「うん!」
「いや、買いに行くのなら、ヒマリちゃんの服を買ってきてあげてくださいよ! ああ、行っちゃった・・・・・・」
小一時間。
「お待たせ」
「お帰りなさい! おにぃちゃん!」
「おお、バニーガール姿も似合っていぞ! そのまま動くなよ」
サガオは素早くスマホを取り出して何枚もヒマリを撮影する。
「どんな恥ずかしい服を買ってきたんですか?」
「便所で着替えてこよう」
「トイレと言ってください。着替えるだけだと思いますけど、水道止められてるので気をつけてくださいね」
「ああ、分かった!」
1分後。
「終わったぞ!」
「随分早いですね、一体どんな服・・・・・・を・・・・・・」
レイラは先程のヒマリのように硬直する。
「どうだ? なかなかいいだろう?」
レイラは顔をふせた。
「え、えっとぉー、なんの冗談ですかぁ?」
「なんの冗談って? 恥ずかしい服を買ってきたのだ!」
遅れてヒマリが台所から戻ってきた。
「あ、もう着替え終わったの? 早いねー、わぁ!?」
レイラは大慌てでヒマリの両目を手で覆う。
「見ちゃダメです!」
「えー、どうしてですかー! おにぃちゃんを見させてください!」
「ダメったらダメです!」
「もー! 放してください!」
「ああ! ヒマリさん!」
レイラの腕を無理やり解いてヒマリはサガオを直視する。
「あ・・・・・・」
「どうだ? 1番恥ずかしい服をくださいと言ったら、この『正直者にしか見えない服』を紹介されたのだが、俺には見えないのだ、きっと大人になりすぎたのだ・・・・・・ヒマリなら見えるはずーー」
「きゃああーーっ!!」
轟くヒマリの悲鳴。
「どうした! なんの騒ぎだ!」
騒ぎを聞きつけたパンイチの筋肉マッチョ(主人公)が現れた!
「うわああーーっ!! (サガオの悲鳴)」
「きゃああーーっ!! (岳斗の悲鳴)」