裏話
『裏話』
格安テナントに居を構えるは、
自称女神が経営するタレント事務所、通称『女神事務所』。
大物俳優を排出する夢を叶えるため、日夜、某小説投稿サイトに投稿を続けている。
そんな女神事務所の休憩室で2人の少女が話をしている。
1人はスーツの似合うダークエルフの少女、
もう1人はメイド服の似合う植物系の魔物の少女だ。
ダークエルフの少女が聞き返した。
「え、出演した作品の裏話を聞きたい、ですか?」
「そうよ、ほらあのハンバーガーが主役のやつとか」
「ああ、楽ハン(『現代最強はハンバーガーに転生しました』の略)のことですね。ってメアリーも出演しているじゃないですか、なんでタイトルうろ覚えなんですか」
「仕方ないじゃない、レイラより全然出番少なかったんだし、それに私が見たことは私が知ってるじゃない?」
「ずるいですよ」
「いいからいいから、ほらあるでしょ? よくあるやつ、鉄板の裏話」
「・・・・・・ああ色恋沙汰ですか?」
「そうそうドラマとかでカップル役をやってるとリアルでも付き合っちゃうっていう・・・・・・って違うわ! もっとマイルドなやつがあるでしょ? ジ〇ッキーチ〇ンの映画とかであった」
「あーNGですか!」
「そうそれ! なんで週刊誌の人が血眼になって探してるスクープをここで聞かなきゃならないのよ。いや知りたいけどね、でも私が知ったら絶対誰かに話したくなっちゃうから聞きたくないの!」
「みんなカッコイイし可愛いからね」
「だからやめなさいよ、聞いちゃったらもう純粋な心でハンバーガーのやつ読めなくなるから!」
「わかりましたよ」
「それでNGの話は?」
「聞く気満々ですね、次の仕事まだ決まってないんでしょ?」
「・・・・・・今はその話やめなさいよ、殺すわよ」
「すぐ物騒なこと言っちゃってもう」
「いいから早くしないと、服を毟るわよ」
「わかりましたってー(裏話イコールNGだなんて、可愛いなぁ)」
「NGを一番出したのは鉄也(ギア・メタルナイツ役)ですね」
「え、そうなの!?」
「意外でしょ?」
「うん。でも言われてみると確かに鉄也のいる時はNGが多かった記憶があるわ。どこがNGだか分からなかったけどね、演技上手かったし」
「ふふ、彼はこだわり屋さんなんですよ。自分が納得できないと監督に撮り直しをお願いするほどなんです」
「それNGっていうの!?」
「彼的にNGだったんでしょうね。よく『こんなの精神最強じゃねぇ』って呟いてましたから」
「演じるキャラがキャラだからね。役作り大変だとは思っていたわ」
「精神最強を演じろって言われてもどうやって役作りしたらいいか分からないですもんね」
「・・・・・・そういうレイラは演技派で通ってるじゃない」
「自信はありますけど、鉄也のほうがよりストイックです」
「私には無理な領域だわ」
「メアリーはなんの役やっても全部メアリーになりますもんね」
「うるさいわね、そういう俳優いるじゃない。なにやってもその俳優の味がでちゃうみたいなの」
「カレー味の俳優ですね」
「そうそう、カレー粉さえあれば何でも食えるって、他に言い方があるでしょ!」
「個性のない役を引き立たせるような、ゲストキャラとして出すと映えるんですよね」
「ようは使いようよ」
『ドッキリ』
「他には?」
「ほんと欲しがり屋さんですねぇ」
「いいじゃない、暇なんだから」
「暇だったら売り込みの一つでも」
「あーあー、聞こえないわ」
「もう、マネージャーに任せっきりは良くないですよ」
「私みたいに尖ったのは出られる作品が限られてるからいいのよ。それで他にはないの?」
「うーん、NGっていうか裏話っていうか、どうでもいい話ですけど、楽ハンの時の私って眼帯キャラじゃないですかー」
「うん、眼帯をつけているわね」
「それで片目だと思いのほか視界が悪くてですね、特に距離感が分からなくて頭をぶつけるんです」
「その話つまらないわね!」
「辛辣! 世間話に面白さを求めないでくださいよ!」
「ダメよ、いつ見られてるか分からないのよ? 楽屋ドッキリをご存知でない?」
「なんですかその口調・・・・・・いやあれは芸人さんに仕掛けるものであって素人の私たちとは無縁な話ですよ」
「甘いわね、寝起きドッキリなんかはアイドルにも仕掛けられるものよ!」
「アイドルでもないですー、なろう女優ですー」
その時、部屋の電気が消える。
「わ! て、停電!? あれ? メアリー!?」
「今まで隣にいたのに、ぅおーい! 昼間なのになんでこんな部屋が暗いんですか!」
背後から水滴の落ちる音が聞こえる。
「おかしい、この事務所水道止められてるはずなのに、トイレ近所のコンビニ使わせてもらってるのに」
レイラの背後に暗視ゴーグルをつけた筋骨隆々のマッチョメンが一人。
顎下からは汗が滴っている。そうさっきの水滴の音はこの汗の落ちる音だったのだ!
「え、なんか後ろから気配が! 部屋の湿度が・・・・・・上がった?」
筋肉から発せられる熱と、それに伴う発汗作用。汗はまたたく間に蒸発し部屋の湿度が30%上昇した。
「え、怖い。床の軋む音がする、誰かいるんですか!?」
筋肉はレイラの前に立ちポージングを決める。今日の筋肉も切れている。
「あっつ! 目の前に赤外線ストーブがあるような熱さ!」
レイラは恐る恐る手を前に出す。
しかし筋肉は腰だけを動かして音も立てずにかわす。
そこで電気がつく。
「・・・・・・あ」
筋肉がウインクする。しばしの沈黙。見つめ合う二人。
「もきゃああーーッ!!」
轟いたのは絶叫。レイラは泣き叫び転びそうになりながらも部屋の隅に逃げる。
筋肉は触れないギリギリで追いかける。そこで、
「はーい、ドッキリ大成功〜〜!」
現れたのは『ドッキリ大成功』と書かれた立て札を持ったメアリーだ。
「はひ!?」
「だーかーら! ドッキリだって言ってるじゃない」
「え、え、ええ〜〜!!」
「言ったでしょ、ドッキリはあるのよ」
「いやぁ、仕掛け人に言われてもぉ・・・・・・あーー、怖かったよぉ夢に出る」
少ししょんぼりした筋肉は部屋から出て行った。
「今の筋肉って岳斗さんですよね?」
「そうよ」
「なんて仕事を引き受けてるんですか・・・・・・仕事選んでくださいよ」
「・・・・・・それでオンエアーはいつなんですか?」
「しないわ」
「ええ!? じゃあ何のためのドッキリなんですか!」
「暇つぶしよ、事務所の倉庫で暗視ゴーグルを見つけたからやってみただけ」
「仕事ですらなかった・・・・・・」
「カメラは回しておいたわ、見る?」
「結構です」
『転生耐性』
その時! 事務所の外から車と筋肉の衝突する音がッ!
「え、今の音なんですか! 交通事故!?」
「雨戸を開けるわ!」
窓から顔を出すと、トラックが筋肉に衝突していた。
「トラックが! 廃車に!」
哀れ! 筋肉にぶつかってしまったトラックは大破している。
筋肉は少し困った表情で、トラックの変形したドアを引き抜き中から運転手を引っ張り出している。その直後にトラックは爆発、炎上する。
「ば、化け物・・・・・・」
「きゅ、救急車を呼んでおくわ」
道端の女性が叫んだ。
「きゃああーーッ!! 通り魔よーーッ!!」
「ええええ、今度は通り魔ぁ!?」
「戸締りをしてくるわ!」
「ああ!? 岳斗さんにナイフを持った男が!!」
筋肉の腹に深々とナイフが、
刺さらない。
「凄い腹の筋肉で白羽取りしてる、あ、通り魔をつまみ上げてる」
筋肉は困った顔でナイフを握り潰す。通り魔の顔は驚愕と畏怖により硬直、黄色い液体が股ぐらから滴り落ちる。
「あー、メアリー」
「なに? レイラも早く扉を板で固定するの手伝いなさいよ!」
「その必要はもうないみたいです。岳斗さんに摘まれてますから」
「そう、ぬぎぎ、釘が抜けないわ、板が取れないけど、まぁいいわね」
「楽ハンでは転生トラックに轢かれて死んでたのに、耐えちゃってますね」
「そうなの?」
「なんで知らないんですか・・・・・・。1台目の必中転生トラックを筋肉回避して、そのあと油断したところをダメージカンスト転生トラックに轢かれて、それでも死なないから3台目でとどめを指したんじゃないですか」
「詳しいわね」
「端役とはいえ出演者ですから、原作は追ってますよ」
事務所の入口の方で板が折れる音が聞こえる。
『トリック』
「なんじゃ、入口になんかしたのか?」
現れたのはこの事務所の社長。自称女神(以降女神)だ。赤いマントで全身を多い。銀河色の長髪を風がないのにも関わらずたなびかせている。
「いえ、何もしてないです(板で封鎖してたんですけど・・・・・・)」
「まぁよい、さて電話をするか」
女神が指を鳴らすと何も無い空間に黒電話が出現する。
「どこにかけるんですか?」
「楽ハンを売り込むんじゃ」
「え、でも楽ハンって最初の頃に書籍化もアニメ化もしないって明記してましたよね」
「ああ、それらは最初から狙っとらん。余が狙っているのはただ一つ」
レイラとメアリーはごくりと生唾を飲み込む。
「実写ドラマ化じゃ!」
「ええええ!?」
「何をそんなに驚いておる・・・・・・お、繋がった、貴様ら静かにしとれよ、もしもし! 余じゃ!」
「誰じゃない! 余じゃ! あ、はい女神事務所の社長をしておる者じゃ! はい、はい、そうじゃ、察しがいいの! それで、はい、はい、そうそう、楽ハンをじゃな・・・・・・え? 知らんのか? 貴様ぁ! 転生させるぞ! あ、嘘じゃよ、だから電話は切らないでほしいのじゃ!」
「難航してますね」
「まるで友人と話しているかのような口ぶりだもの」
「そうじゃ、200話(この話を書いている時点でそのくらい)あるからしっかり読むんじゃぞ! それでなキャスティングはすでに考えてある!」
「キャスティングって向こうが考えるんじゃないんですか?」
「やりたい放題ね」
「バーガー役は阿部寛で、アイナ役が仲間由紀恵じゃ!」
「トリックじゃねーか!」
「うおお!! 貴様! 窓から入ってくるな!」
迅速なツッコミを入れるためだけに地上から2階に跳躍した筋肉であった。
「てか俺がいるから実写化は必要ないだろ!」
「貴様はなろう俳優じゃ、地上波に乗るのは俳優の役目じゃ!」
「よく分からん設定をここで決めるな!」
「なんじゃと! このー! あっ! 電話が切れておる!」