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6-7   近頃は魔法使いも馬車に乗るの?


たぶん本編はあと二話……か三話位です、よ?(・ω・`)<たぶんね?


後半ややシリアス……というほどでもないな?デス。




 そしてついに、十二月二十四日。


 決戦の日――もとい、舞踏会当日。頼むからこれがこのシナリオ最後のイベントになってくれと願わずにはいられない。


 現在、自室の姿見の前にエメリンを立たせた私達は、お互いの健闘の集大成を前にして感動していた。あのエメリンが見た目だけとはいえ、立派な淑女に見える……。


「おぉぉ……マリー、これは――」


「えぇ、ジェーン。これはアーネスト様が惚れ直すこと間違いなしよ!」


 前日の深夜ギリギリまでかかって仕上げた渾身のドレスは、ドレス初心者の私が造ったにしてはなかなかの出来映えだった。


 ……着てもらったら気になっていた部分のシワも伸びたし……。


「「凄くよく似合ってる!」」


 照れた表情でドレスに身を包んだエメリン。そんな姿に向ける賛美の言葉も思わずマリーとシンクロしてしまう。


 ドレスに使った素材は薄さと軽やかさが売りのシフォン。本当はサテンやタフタを使いたかったのだけれど、生地の値段と私の力量不足で断念。


 サテンもタフタも下手くそがドレープ※(布を垂らしたときに広がるひだ)を作ろうものならシワだらけになるし、とにかく糸が滑る。


 ほぼ職人さんのお陰で仕上がった私の試作品はサテン生地で造ったのだけどね? 果たしてあれを自分の作品と言っても良いものか迷うわ。


 鎖骨を出さないデザインにして肩の辺りにタック※(布の一部を小さくたたんで縫ったひだ)を入れることで不自然なシワをごまかしてやった。あと、誇れない胸元のカバーもね。フリル付きのビキニと同じ原理と思って。


 色味は自分用なのでパッと見たら淡い紫で造った上部しか見えない。けれど歩くと裾から覗く濃い紫を中に隠してある。イメージは菖蒲。こっちで言えばアイリスかな?


 黒の肘まで隠れるロング手袋を合わせれば露出度はだいぶ控えめ。


 ――え、地味? 歳を考えればこれくらいよ。花嫁より派手なブライダルメイドなんていないし。


 でも恐らくは今日の舞踏会ではサテンやタフタのドレスが多い。主流なのもあるけれど、何せ華やかだものね……。若い娘さんは絶対その方が似合うもの。


 しかし極淡いピンクのシフォン生地を薄い色から重ねて段々と濃く見せるグラデーションを駆使したお陰で、華やかさでは引けを取らないと思う。


 腰には若草色の細いベルベットを蔓に見た立てて編んだリボンをあしらった。これで腰の細さが腹筋のせいだとバレまい。


 髪にはマリーのお手製のパールピンクのビーズで造った枝垂れるような不思議な形の髪飾り。例えるなら……舞妓さんがするかんざしに似ている。


 エメリンの柔らかくウェーブした栗毛は緩く纏めるだけでも充分可愛らしいので、髪飾りを付けると効果は倍増だわ。それと耳飾りもお揃いにした。


 イメージはピンクのスイトピー。ふんわりした雰囲気のエメリンにとても合っている。あくまで見た目の話。中身じゃない。


「お化粧もマリーのお陰でバッチリだし、後はお迎えを待つだけね!」


 これでようやくここ数ヶ月間載りっぱなしだった肩の荷が降りる日とあって、私はいつもよりややテンションが高い。連日の寝不足も多少関係あるかもだけど……。


 エメリンという“灰かぶり”を無事に“お姫様”に変身させることが出来た。この最後にかけた魔法には自分でも大満足だ。これでもし“メリーバットエンド”だったら泣く。


 もうこれで打てる手は全て打ち尽くした。姿見の前でクルクル回るエメリンと褒めまくるマリー。うんうん、マリーの方が私より三つ下だからこういう話は合うんだろうな。実に微笑ましい。


「さて、それじゃあ私は他のお嬢さん方の様子を見てくるから。オーランドさんに渡したい物があるから、エメリンのお迎えが来たら呼んで頂戴ね」


 そう、預かっているお嬢さんはエメリンだけではないのだ。他のお嬢さん方がどんな格好で出かけるのかチェックしないと、お祭りって枷をはずすお馬鹿さんが増えるから……。


 ――と、あれ? 何か視線を感じる?


 部屋から出て行こうとする私に、ふとそれまではしゃいでいたマリーとエメリンが真顔で近付いてきた。ちょっと、怖いんですけど? 何その手。何でワキワキさせてるの?


「え、ちょっと? 何なの二人とも、近――ひぇっ!?」


 無言のままガバッと襲いかかってくるマリーとエメリン。


「ちょ、エメリン、止めて! そのドレスで暴れちゃ……あぁー!?」


 数分後。ドレス姿のエメリン相手に必死の抵抗が出来るはずもなく――私は身包みを剥がれたのだけれど……。


 いやいやいや――おかしいよ、こんなのは。


 王城からエメリンを迎えにやってきた馬車の前で、私は失神一歩手前の状況に追い込まれていた。


 そうか、今日は王族の催しだから当然呼ばれる王族側も式典用の服なのか。金モールの着いた正装に身を包んだアーネスト様は本物の王子様……というより、ベル〇ラのオスカ〇みたいでどちらかと言えば美しい。


 オーランドさんに至っては“凄く有能そうな軍人”って感じの服装で舞踏会に行くには物々しいわね。


 ――と、また現実逃避をしてしまった。私の悪い癖。


「わぁ……見違えましたよジェーンさん。そのドレス、とても良くお似合いですよ!」


「ね! ね! アーネストもそう思うでしょう?」


 エメリンはもうさっきからこんな様子なので放っておくとして――アーネスト様、君は隣のオーランドさんを見て言っているのか?


 それとも、それは何かい? 遠回しにエメリンのドレス姿がお気に召さなかったの? やっぱりタフタやサテンが良かった? 


 だったらごめん、謝るから――そんなキラキラした笑顔で見え透いた嘘を言うよりもいっそ素直に“似合わない!”と言って下さい。


 私をこんな目に合わせた挙げ句に途中退場したマリーは……後で憶えていなさいよ?


「ふふふ……余興も楽しまれたようですし、そろそろ馬車を出さないとせっかくの舞踏会に間に合いませんわ」

 

 内心は“頼むから早く行ってくれ!”だ。あぁでも――この悪ふざけの中でも、さすがにオーランドさんは若いアーネスト様やエメリンと違い冷静な表情である。反応が怖くて直視出来ないけど……。


 ――と、あまりに酷い状況で忘れるところだった。


 彼を意識した途端、後ろ手に隠し持った包みを持つ手に力が籠もる。これをエメリンに押し付けて向こうで渡してもらわないと……。


「エメリン、もう寮の子達は行ってしまったわよ? さ、貴女も早く――」


 そうと決まればもうさっさとエメリンを馬車に押し込んでしまおう。そう思って言ったのに―――。


「えぇ!? 一人であんな気後れしちゃいそうなところに行くのは嫌ですよぉ! ジェーンさんも一緒に来てくれなきゃ!」


 甘ったれたエメリンのこの一言に、ついに私の一般的な耐久力の羞恥心と堪忍袋の緒が切れた。


「絶っっっっっ対!! 行・き・ま・せ・ん!! どこの世界に保護者同伴というか、寮の管理人を連れて舞踏会に行く子がいますか! 置いて行きなさい!」


 我ながら何を言っているのか意味不明だけれど、許されるはず……というか許して。本当、無理。


 魔法使いはお留守番。これはどんな物語だって鉄則なわけよ。シンデレラと魔法使いは一緒に馬車に乗って舞踏会に行ったりしない。オーケー?


 しかし、半ば本気で泣きそうな私の悲痛な叫びに無情なトドメを刺したのは何と――今まで口をきかなかったオーランドさんだった。


「アーネスト様そろそろ馬車を出さないと本格的に閉め出されます。お急ぎを。エメリン嬢とジェーンも早く馬車へ」


「へ? あの、いや、ですから私は――!」


 無関係なんですけど!? という私の言葉を聞いてくれる一般的な思考回路の持ち主は、その場に誰一人としていなかった……。



***



 馬車の中でされた説明との違いにすでに頭がクラクラする。エメリンの語彙力を信じた私が馬鹿でした。帰ったら徹底的に国語の勉強させよう。


 ――そもそも学園内の舞踏会とかいうから駄目なのよ。


 この規模でやるなら王城でやったって構わない気がするけど……あぁ、でもそうか。王子様方にしてみれば同級生(全校生徒)を家に招いたところで楽しくないってところなのかも――。


 私達が学園の門に着いた頃にはもう大抵のお家の子が集まって話をしたりだとか、ダンスパートナーを探したりだとか、今から誘ったりもしていた。


 私はといえば、さっき持ってきた包みを“お預かり”されてしまって手持ち無沙汰だ。


 目の前でエメリンとアーネスト様も学生証を門番さんに見せているから、外部の人間は入れないんじゃないのかしら? 


 そのことに安心してアーネスト様達に「関係者以外は立ち入れないようですし、私はこれで――」と申し出る。


 まぁ、ここからコスプレしたまま寮まで歩いて帰るのは辛いけど……それでもここにいるよりは遥かにマシだ。――しかし、である。


「彼女はわたしの護衛のパートナーですから、身分のチェックは結構です。そのままお通しして下さい」


 なんとアーネスト様、門番さん相手にニッコリと輝くばかりの笑顔でゾッとすることをのたまう。おい、止めろ~……。


 さすがに第三王子の顔は学園の生徒多しといえど知れ渡っているらしく、門番さんは「畏まりました。では、舞踏会をお楽しみ下さい」とやけに聞き分けよく通して下さいました。


 どうする――すっかり退路が断たれてしまったぞ。周りの煌びやかさに顔面蒼白になっている私と違い、当然他の三人は慣れているようで……。


「……エメリン、ちょっと」


 アーネスト様とオーランドさんが何か話している隙にエメリンに声をかける。肩が跳ねたところを見るとどうやら怒られる自覚はあるようだ。


 エメリンは助けを求めるようにアーネスト様を振り返るが、視界の端の二人はまだ私とエメリンがジリジリと壁際に寄っていることに気付いていない。あらあら――残念ねぇ?


「エメリン、この嘘つきめ……凄く堂々としてるじゃない? 私、もう無理、限界、帰りたい、帰らせて」


 極度の緊張で片言になりながらも、私は有無を言わせずエメリンを壁際に追い詰めた。傍目には女同士の“壁ドン”という謎な状態。


「ふふふ……そんな怯えた顔しても私を外に連れ出してくれるまでは逃がさないわよ?」


 完璧に悪役の台詞をはきながらエメリンに迫っていたら――その潤んでいた瞳がパッと輝いた。チッ、気付きやがったわね……。


「おや、ジェーンさんも人気の多いところがお嫌いなんですか? それは奇遇ですね!」


 もはや腹の黒さを隠そうともしなくなり始めたアーネスト様が、悪役に追い詰められるお姫様を救出に来てしまった。


「――えぇ、そうなんです。人気の少ないところが好きな根暗なので、もうここから消えてしまいたいのですが?」


 子供相手に恥も外聞もないのか? そんなものとっくに捨てたわ。だから早く家に帰せよぅ。情けないと笑わば笑うが良いさ! 


「うーん……残念ながら帰すわけにはいきません」


 待って――帰すわけにはいかないって……怖。そこまで不穏な発言されるワガママ言ってませんが? 


 思わず身構えた私に後ろのオーランドさんが少しだけ笑った。笑ってる場合じゃありません。脅されてるんですよ?


「この舞踏会が終わるまで、わたしの護衛とご一緒して下さいませんか?」


 アーネスト様がそう言って背後のオーランドさんを仰ぎ見ると、彼は主に頷き返してから私の前に歩み出た。そして白い手袋をはめた大きな手を私に向かって差し出す。


 そのあまりに優雅な仕草に“あぁ、彼も王城の人間なのだなぁ”と悲しくなる。こんなふとした瞬間に、住む世界が違うのだと改めて思い知らされる。


 赤銅色の瞳に見つめられながら、差し出されたその手をとったものか一瞬悩んだけれど――どうせ今日を境に別れる道ならば。


「――お願いしますわ……」


 そう微笑んで、魔法使いは自分の王子様の手をとった。


 


次で勝負をかけたいところ。(`・ω・´)ノシ

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