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6-4   第一関門クリア……出来てない!?


タイトルまま。どうするジェーンΣ(´ω`;)



 嘘つき女が残していった攻略法が書かれた用紙と睨み合うこと二週間。


 いまかいまかと待ちわびていた王城からエメリン宛ての手紙が今朝ついに届いた。正直、前世で高校の奨学金通った時よりも緊張したわ……。


 このルートはエメリンに置き換えても活きている! ステータスという目に見えない数値を無事に上げられていたことに小躍りしたい気分になった。


 少なくとも寮生の子達を巻き込んでまで開催したエメリン強化勉強会と、凹凸に乏しい身体を少しでもふくよかにするために私が切った自腹も無駄ではなかったのだ。


 それに必須アイテムの“薄桃色のワンピース”も何度もマリーの店まで通って良さそうな生地を購入して仕立てたし、白い花の髪飾りに、茶色いショートブーツ――うん、全部押さえてる。忘れ物はない。


 これでアーネスト様との会話イベント【“その服って……”】が発生するはずだわ。


 あとは受け答えの二択の内【「そんなことないよ」】を選択すれば良いのね。もう一つは【「そうでしょう?」】か。


 でも何でこっちでは駄目なのかしら? そんなに問題のある答えでもなさそうなのに。チラリと答えを見てみる。


 【アーネスト=「はっ! ねぇ、それって鏡を見て言ってるの?」】


 ……おぉ……性格がひねくれてるのか。でも今のアーネスト様からは想像もつかない返答だわ。今回はどういうわけかエメリンと出逢うのが早かったからそうでもないのかしら?


 でも確かに考えてみたら病弱で家族にも期待されずに、毎日をベッドで過ごしてて性格が良かったら人間としてはどこかおかしいのかもしれない。元気な人間を見て嫉妬するくらいが普通だ。


 ――と、まぁこんな風にして主に用紙の中でも赤い線を引いた部分を重点的にチェックしていく。


 実際にどこまで“教養=六十五以上”とか“気品=五十以上”などといったものに近付けているのかは分からないまでも、この【“お見舞いイベント”】が発生したということは足りたと考えても良いはず!


 彼女だけに勉強させる訳にもいかないのでこっちもルート分岐点の予習復習を欠かさない。


 一度も足を踏み入れたことのない領分のせいで手探り状態なことを除けばなかなかの滑り出しだと思う。


 しかしここで気を抜くとあっという間にアーネスト様は死亡ルートに突入してしまうのだ。気を引き締めて慎重にことを進めなければならない。


 大元のシナリオに沿わせてエメリンを操作する――といえば聞こえが悪いけれどそうとしか言えないのだ。ここからのヒロインはエメリン。シナリオにそれを認めさせるにはまだまだ先は長いな……。


 しかももうすでに四月半ば。秋口まで――厳密にいえば九月二十日から十月十日までに起こるイベントをクリアするまでは安心できない。


 というか自分の恋愛観すら見えない私が他人の恋愛を左右するのがおこがましいというものだわ。


 今回の成功を噛み締める暇もなく攻略法を書かれた用紙に照らし合わせて次の分岐点を調べる。ふむふむ、なる程……次にイベントが発生するのは六月にあるエメリンの誕生日イベントか――。


 こちらの世界での私の誕生日は四月十二日なので、この間マリーとユアンとエメリンの三人に祝ってもらったところだ。うぅん、二十八歳かぁ……。

 

 ――前世の享年と同い年になってもいまいち実感が湧かないものね。


 まぁ、そんなことより取り敢えず今日エメリンが学園から戻ってきたら手紙を読ませて明日の支度をさせないと。


 手紙をポケットに忍ばせた私は、まるで自分のことのように浮き立つ気分を抑えられないまま仕事に取りかかる。


 この時、私は自分のことをシンデレラに登場する魔女のポジションみたいだと暢気に考えていたのだ。魔法をかけたら後は彼女をお城まで送り出してやるだけの。


 しかし、ことはそう甘くはいかなかった……。


 帰ってきたエメリンに手紙を渡して“仕事完了”待ちだった私に向かって彼女は「ひぇ、一人でお城なんて無理ですよぉ! お願いですから付いて来て下さいぃ!」と服の袖を掴んで懇願されてしまったのだ。

 

 ええぇぇぇ……勘弁してよエメリン、前回の気まずさを未だに引きずっている私がどんな顔してあの人に会えば良いのよ!


 当然断る私に深夜まで付きまとったエメリンの熱意に折れた。それに部屋まで案内してもらったら私だけ入室しないで帰れば良いし。


 そんな風に考え直した私は翌日、この後に起こるイベントに振り回されるとも知らず城の迎えの馬車に乗り込むのであった――。



***



 んんん? 城に辿り着いた私達を案内してくれるメイドさんに何か見覚えがある。相手もこちらをチラチラ伺って何か言いたそうだし。


 緊張でガチガチのエメリンを間に挟んでアーネスト様の部屋を目指す最中に感じた疑問のお陰で私は、人生初であり、この後二度と足を踏み入れないであろう王城内を緊張せずに歩けた。


 目的の部屋の前まで案内してもらったら、先にエメリンを入室させて見覚えのあるメイドさんに向き直る。するとメイドさんは私をマジマジと眺めて嬉しそうな表情をしてくれた。


「えー、嘘、何年ぶり? まだそんな野暮ったい格好してるの?」


 開口一番そう言ったメイドさんはやっぱり元うちの寮生で間違いなかったようだ。


 私もここが王城の、しかも攻略対象の部屋の前で、これから起こるイベント待ちだということも忘れて懐かしさからうっかりその場で雑談に興じてしまった。


 ――うん、馬鹿よね。せめて門まで送ってもらってからにすべきでした。


 半ば強引に通されてしまったアーネスト様の私室で、いつものお仕着せに身を包んだ私だけがこの場で浮いている。うぅ、あの子ってば一人で逃げるなんて酷いわ……。


「お久しぶりですジェーンさん。それから、いらっしゃいませ。オーランドがわたしに相談もなく急に呼び出してしまったみたいで申し訳ない」


 エメリンに抱き付……押し倒されたアーネスト様はニッコニコでそう仰って下さったけれど――顔と言動が一致していないわよ?


「ねぇ、オーランド? いつまでも戸口に立っていないで、ジェーンさんをこちらへお連れして」


 オーランドさんに手を掴まれたままの私は、もう言葉が快速急行なみに耳を通過している状態で大人の対応なんてどこかへ飛んでいってしまった。


「は。ではこちらへ――ジェーン?」


 私の手を引くオーランドさんをぼうっと見上げる。久し振りの彼は最後に会ったときよりも少しだけやつれていた。


「どうしたジェーン、体調が良くないのか?」


 見上げるほど高い身長を少しかがめて私に声をかけてくれる彼の姿に心臓が“ギュウゥ”と締め付けられる。


 “確かに体調は悪いかもしれないです。主に貴方のせいで”などと言えるはずもないので「いいえ、少し初めての王城に緊張してしまって」と無難に答えた。


 しかしアーネスト様はその答えに納得してくれたというのに、彼はどこか不機嫌そうに顔を歪める。手を掴まれたままの私は不覚にもそんな彼の表情にすら胸が締め付けられた。


 ――後で帰ってきてくれるなら今だけでも心臓どこか行ってくれないかしら? いっそ邪魔だわ。


 扉からベッドがこんなに遠い部屋も珍しいけれどこの格好で王城の深部まで来る人間はもっと珍しいのだろうな……などと考えて少しでも気を落ち着かせる。


 さぁ、アーネスト様、早くイベントを開始させちゃって下さい! と、半ばヤケになっていた私なのだけれど……。


「エマに訊いたんですけれど、この可愛らしいワンピースはジェーンさんのお手製なんですよね? さっきエマにとても良く似合うよって言ったら――」


 ――うん? これって、まさか……!?


「そんなの当然そうでしょう? って答えたんです。ジェーンさんがわたしのために造ってくれた一点物ですもんね!」


 ベッドの上にいるアーネスト様にぴったりと寄り添ったエメリンが得意気に薄い胸を反らしている。アーネスト様もそんな彼女を幸せそうに見つめて微笑んでいた。


 いつもなら自分の作品を褒めてもらえるのも喜んでもらうのも嬉しいし、袖を通して笑顔になるのを見るのは大好きだ。


 でも、それはあくまでも“いつもなら”であって今ではない。断じて!


 だというのに――エメリンのイベントすでに終わってる上に間違えた答え選んでる!? え、え、嘘でしょう? こんなのどうしたらいいの!?


 何かことを始めるとき、臆病な私はとことん準備をしてから本番に挑む。だから生前も大きな失敗をしたことはなかった。でもそれは言い換えれば咄嗟の判断が出来ないということで――。


 この残り少ない大事なイベントを一つ落としたのだと理解した瞬間、もう私の頭の中はグチャグチャだった。


 もう、泣きそうとかじゃなくて……吐きそう。身体中から力と体温がスウゥっと音を立てて抜けていく気がする。手足が冷たくなって小刻みに震えてきた。あぁ、これって過呼吸一歩手前?


 そういえば私、ここに来るまでにエメリンに褒められても謙遜するのが淑女の嗜みだって教えた? ……いいえ、教えてないわ。


 そもそもステータスが足りていなかったのかもしれないし――だったら悪いのは彼女じゃなくて確認を怠った私だ。


 失敗に熱くなっている目頭とは反対に精神の方は冷たく張り詰めて、そこから次第にじわじわと恐怖が這い上がってくる。もう一つだって取りこぼしている場合じゃないのに。


 セーブとロード……だっけ? ここはゲームの中だけどキャラクターの私達にとっては現実世界で――そんなのないのに、どうするの?


「ジェーン、震えているようだが――大丈夫か?」


 心配そうな声が頭上から降ってきたかと思ったら、グッと私の手を掴む指に力を入れたオーランドさんが顔を覗き込んでくる。


 心情的にはバッキバキのベッキベキに折れていたけれど、それを何も知らない彼等に感づかれたくなくて「喜んでくれたことが嬉しくて」と大嘘をついた。


 しかし……オーランドさんは最初からだけれど、ここにきてアーネスト様まで私を見つめて怪訝な表情になる。お願いだからこれ以上疑問を持たないで。いまはちょっと良い言い逃れを思い付かないから。


「あっ、そ、そういえばさ! ジェーンさん十二日が誕生日だったのにどうして二人とも来なかったの? マリーさんとユアンだけじゃ寂しかったよ」


 それまで三人の顔をグルグルと見回していたエメリンがここにきてとんでもない爆弾を投下した。途端に微笑んでいたアーネスト様が真顔に、オーランドさんに至っては無表情になっている。


 それは空気を読んだつもりなのかな――ちっとも読めてないよエメリン。


 大人の対応が出来る人になら分かるだろうけれど“来なかった”のではなくてこれ以上エメリンを抜きに個人的に親しくならないように“報せなかった”のが正しい。


 所詮平民の私達と将来的に(上手くいけば)アーネスト様の奥方になるエメリン、その護衛兼世話役のオーランドさんは住む世界が違うの。あの二人はそれを分かっていたから当日も何も言わなかった。


 てっきりあの場で何も言い出さなかったからエメリンも分かってくれているとばかり思っていたのに―――。


 さらに緊迫感を高めただけの彼女の発言に私はもう言葉も出ない。完璧に誤爆、フレンドリーファイヤー。


 イベントも失敗して、挙げ句この爆弾発言と気まずい空気の部屋。頭を抱えたくなる最悪の結果だわ……と、思いきや――。


「だから、えっと、ここにいるメンバーでもう一回やりませんか~とか言うのは、駄目ですか?」


 上目遣いにそう言うエメリンの提案に、アーネスト様とオーランドさんも異論はないようで即座に頷いた。私はといえば、正直全く乗り気ではない。


 しかしこの新たなイベントが追加された形でシナリオが書き換わってくれるならやってみる価値があるわ。そんなわけで私は後日、二度目の誕生日を祝われることになってしまったのだ……。

 


時間が飛ぶよ~ (・ω・´)<巻いて巻いて!


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