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6-2   書き割りキャラの憂鬱。


再びジェーン視点です。


(・ω・`)<今回からたまにシリアス有り。




 良いニュースと悪いニュースは大抵抱きかかえ販売なのよね……うん、何というか……分かってはいたけど結構ショックだわ……。


 夕飯後、自室のベッドに仰向けに寝転がって天井を見つめる。エメリンは帰ってくると早々に筋トレに出かけてしまった。


 ……もう私を襲撃した人間はいないのだからそろそろ止めようかな? 


 でもアーネスト様に会えない寂しさをあれで紛らわせているのだとしたら安易に止めるのも気が引ける。――保留かな。


 昼間突然訪ねてきてくれたオーランドさんと久し振りのお茶を楽しんで、途中お互いギクシャクする場面はあったものの概ね楽しい時間を過ごしていた。


 その後に切り出される話題を知っていても私は少し浮かれていたのだ。


『第二王子の婚約者が第二王子の世話役と駆け落ちをしたのは知っているな?』


 そう切り出されて曖昧に頷いた。まぁ、まさか“勿論です。そそのかした張本人ですから”とは口が裂けても言えまい。


『そのことでようやく制服の件がまとまりそうだ。と、ここで喜んで良いのかは微妙なのだが――ともあれ、最後の権利保有者を割り出せたのは有り難い。これで晴れてアーネスト様の事業を広める準備が整った』


 えぇ、それはもう“尊い身分の方”に推しメンの説得をしてくれるように頼みましたから。約束通り書類と印鑑と手続きに必要な諸々を置いていってくれてホッとしたわ。


 彼女の推しメンはありがちな復讐者で“母親と自分を追いやった兄弟と王様を殺して本懐を遂げる”みたいなエンディングしかなかったらしい。


 そうそう、何となく話の流れで分かってはいたけれど、世話役の彼は現王様の御落胤だったらしい。


 でもそれにしても普通は復讐劇に恋人を巻き込むものなの? うーん……本当の愛とはかくも複雑怪奇なものなのか。


 ヒロインである彼女のお家もだいぶ問題のあるご家庭環境な設定みたいだし、家に砂をかけて出ていっても大丈夫らしい。


 家財は第一王子の采配で一切合切没収。ヒロインの御家は取り潰しになるそうな。第一王子えげつない性格してるわ……。


 この件では意外にも第二王子はそんなに乗り気ではないのだそう。裏切られてたとしてもどちらも第二王子にとっては大切な人達だったんだろうな。


 アーネスト様も最初の頃“正義感が凄くて鬱陶しい”と言っていたものね。良くも悪くも直情径行なタイプなんだろう。そう考えると切ない上に罪悪感が半端じゃないわ……。


 そもそもの問題として乙女ゲームのヒロインってもしかしてシンデレラタイプが多すぎるのでは――?


 だいたい王様の女性関係のだらしなさは兄弟のせいではないでしょうが。そこまでの“殺る気”があるなら“本当の愛”とやらに目覚めて綺麗に生き直そうよ。


 彼女達が目指していた“メリーバットエンド”を回避する為の方法を考えるのには骨を折ったわ……。だって決められたシナリオの回避なんていわば神様の裏をかくみたいなことでしょう?


 おおよそ平民でも一部の人間しか使わないような廃れた道は廃れるだけの理由がある。そこを敢えて進むしかない! と考えるのが王道ルート。


 だって普通に考えたら一番怪しそうなそこから兵士に探らせるもの。まさに飛んで火にいるなんとやらだ。


 実際にゲームでもこのルートに至るまでに出てくる分岐点の選択をどれだけやり直したところでそこで捕まって処刑されるらしいのよね。


 彼女曰わく「そこで二人で死ぬのが美学なのよ」とか訳の分からないことをのたまっていたけれどスルーした。だいたいそこまで訊かされて止めないとか寝覚めが悪い。


 今回私達のとった方法はある意味では正攻法。ゲームシナリオや駆け落ちを描いたものでいうとやや奇策よりな方法だ。


 要するに、私は今回の件がバレたら一発で牢屋行き。お昼のニュースっぽく言えば犯人隠避罪に問われること待ったなしである。


 ただの書き割りに過ぎない私がそんな方法に出るなどシナリオには全くなかったことだろう。


 それに――憶えておいでだろうか? そう、この女子寮内にはいつも使用する隠し部屋の他にあと〇戸の隠し部屋がある。


 細かいことは企業秘密なので事務所を通してもらえるかしら? ここでは私がそうだからそんなものないけど。

 

 少なくともここにもこの国内にも彼女達はもういない。それだけは確かだ。


 あとは――今頃はどのあたりまで逃げているのだろう? 上手く逃げおおせてくれると良いのだけれど。


 綿密な駆け落ちスケジュールを作るのに協力した見返りは彼女が憶えている限りのこのゲームの残りのシナリオと、各攻略対象のルート。


 二種類ずつあるエンディングを書きだしてもらったものだからやたらと分厚い封書になってしまった。


 というか、書き割り相手に攻略対象とか言われても……使えないわよ。それに年齢差が厳しすぎるでしょう。

 

 あー……でもこれはまだ良いニュース。序の口というやつだ。


 長い回想に浸っていたら、悪いニュースから全力で逃げてしまっていた。自分のメンタルの脆さに呆れながらずっしりとした封書に手を伸ばす。


 《困ったときに読みなさい》と書かれた封書。この書き方って昔話だと開けたら老人になるあれみたいね……。


 困ったとき、というか、困ったこと、というか。ここからがいわゆる悪いニュースの方になるのかな。


 受け取ってからまだようやく一月経ったばかりなのに、下手したら一生分のカンニングみたいなことをしても良いものだろうかと一瞬悩む。


 この後の人生の起承転結が読めてしまうのと同義。預言書というか下手をしたら大預言者として奉られるかも!


 ―――おっと、いけない。また脱線してしまった……。


『ただ位階から離れる件は今のところこの騒ぎで凍結状態だが、恐らくは受理されるだろう』


 うん、それは良かった。


『しかしそうなるとこのままアーネスト様の立場を今の微妙な状態のまま放置しておくと、いつ今回のようなことになりかねないと危惧される』


 うん、それも分かった。


『だからこれはまだ公の決定ではないんだが……今年の秋口くらいにはアーネスト様は位階から抜けて領地を賜るだろう。卒業までは城に住まわれるが卒業後は与えられた領地で“大候”として責務に当たられる』


 うん、うん……分かった。


『―――俺もそれに随行することになるだろう。無論エメリン嬢も連れて行く。まだ先のことではあるが準備もある。今までのように気安くこちらに立ち寄れる機会も減るだろう……。だがジェーン、安心してくれ。貴方の切り開いてくれた可――は……』


 ……………あぁ、それは。


 まだ彼が何か話を続けていたとは感じていたのだけれど、どういうわけだか耳が上手くその声を拾えなかった。


 それは――――嫌、かな。


 どうやらこのゲームシナリオ、彼女達の“メリーバットエンド”のしわ寄せは例え相手が書き割りでもしっかりと寄せられるらしい。


 のそりとベッドから起き上がって作業机の上にあるオニキス色の小箱を手に取る。蓋を開けて見たいけれど、決心が揺らぎそうなのでそっと元の場所に戻して再びベッドに倒れ込んだ。


 彼の口からそれを聞かされるまでは少し舞い上がっていた。今は割と後悔している。


 でも……何故、とは考えない。考えたって仕方がないのよ。だって私はただの書き割りだもの。


 それに私の中でアーネスト様が引っかかっている。考えてみたら病弱な美形だなんて一部の子達にはおいしい役所でしょう? ともすれば絶対攻略対象の中に入っているはず。


 ――だからこの封書を開けるのは私の為じゃない。いや、本当に。私には何だか彼女が全部のことを口にしたとは思えないのよ。この封書だって“困ったとき”に開けろと言われた。


 普通に考えてみたら困ったときに読んだのでは遅い。だったらいつ読むの? 今でしょう?


 他の攻略対象とやらには興味がないので薄目を開けてお目当てであるアーネスト様のページだけを探して抜き出す。おや、もっとあるかと思ったのに意外と少ないぞ?


 ―――――読み進めるうちにその理由はあっさりと判明した。


「……やられたっ!?」


 最初は寝転んで目を通していた私だったがルートの分岐点を読み進める間に血の気が引いて来て、最終的にはベッドから飛び起きていた。


 【アーネスト=一部の分岐点でヒロインに選ばれなかった場合は……】


 何てことなの……! このゲームをプレイしたことがない上にまだ本当の愛とやらを知らない私は、まんまとあの女に騙されてしまった。


 一応ページ下の方に走り書きとして“でも、私以外のヒロインを見つけたみたいだし大丈夫かも?”と記載されているけれど、そんなもの、どこまで信じられるか分かったものではない。


 【元々の病弱さで大病を患い死亡。これ以降攻略対象から除外される】


 いやいやいや、待て待て待て。何これバット過ぎでしょうが。


 あ、でもそうか“メリーバットエンド”になるにも“ノーマルエンド”になるにもヒロインがいる訳だもんね。絡みもしないとなるとこうなる、か?


 いくら何でもシナリオの回収が雑過ぎる! しかもその期日というのが……え、今年の秋口? 急展開過ぎない?


 あとフラれた(絡みなし)だけで死ぬとか、十代でどんな刹那的な恋愛観持ってるのよ!? もう少し大きく物事を見てちょうだい!


 こんなのタイムリミットが短すぎる。とんでもない置き土産にしばらく呆然としてしまった私だが、読み飛ばした数ページに視線を戻して回避方法を探す。


 不幸中の幸いか、まだ少しだけ年内にヒロイン絡みのイベントが残されている。しかしこれは正規ヒロインでのイベントなのでエメリンで通用するかは分からない。


 ―――しかし、やるしかないのだ。この無理ゲームを。


 自分の中にあるモヤモヤとした何かは取り敢えず放置――というか封印。きっと中を覗き込まなければいつか胸のずっと奥に沈んでしまうだろう。


 だから今から私は不本意ながらこのゲームのプレイヤー。とはいえ、ゲームの目的が対象キャラクターの攻略ではなく保護が目的っていうのも何だかおかしな話だけれど。


 演じるヒロインキャラクターはたった今からエメリンにチェンジで。そのためにもまずはエメリンがこれ以上筋トレするのを止めなければ。


 このままでは前世ゲームセンターで見た格闘技ゲームの中のチャイナ娘みたいになってしまう……! 


 強い女性は凄く格好良くて憧れるけど、やっぱり乙女ゲームのヒロインとしてはアウトでしょう? ね?

 

 うぅ、それにしてもこの人生ゲーム――前世で他人との交流をあまりせずに制服にしか熱意を燃やしてこなかった私には勉強代が高くつきすぎる。


 せめてあの女が逃避行の途中で相手の男性と破局一歩手前の大喧嘩でもすれば良いと願わずにはいられないのだった……。




次回の辺りから最終話に向けてブーストかかる……かな?


(・ω・;)<あくまでも仮定です。

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