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4-4   苦労人その二の安息日。


今回は行き詰まってウダウダするオーランドです(´ω`*)


って、いうか……ここに来てびっくりするミスを発見!

ジェーンはこの時点で初めてオーランドと呼ぶ予定だったのに大分早い段階で呼んでました(>ω<;)


この前までのオーランド呼びは全てクレイグ呼びに直させて頂きましたあぁぁ!!

紛らわしくて本当にすみません!!



 俺としては会話中にふと感じた疑問を口にしただけだったのだが、彼女が目を丸くしている所を見ると何かおかしなことを訊いてしまったようだ。


「それはまぁ......歳下ですから、彼。それにクレイグさんこそ未だに私のことを“管理人殿”と呼ばれますけれど、マリーやエメリンのことは普通に名前で呼ばれてますよね?」


 今度は彼女の方からそう疑問を返されて納得する。今まであまり考えずに呼んでいた。


「--言われてみれば確かにそうだな。ではマクスウェル殿とお呼びすれば良いだろうか?」


「マリー、エメリンと来たら普通そこは名前呼びでは?」


「では......ジェーン、殿」


「だから堅苦しいですよ。あと出来れば“嬢”も止めて下さいね? 私の名前だと濁音だらけになってしまうので......聞き苦しいかな、と」


 女性というのは男と違ってよくよく変なところを気にするものだと思う。ただそう言った彼女は自分の言動が子供じみていることを承知しているらしく、恥じらっている風があった。


 それが何となく微笑ましかったのと--本来女性を“さん”付けで呼ぶ習慣のない俺は無礼かと悩んだが、ある提案をしてみることにした。


「では、ジェーン、と。そう呼んでも構わないだろうか?」


 そういえば女性を呼び捨てにするのはこれが初めてだ。それに勘違いでなければどこか嬉しそうに頷く彼女を見ていると、これで良かったのだと感じる自分がいた。


 ふと目の前で微笑む彼女以外の視線を感じた俺が視線を巡らせると、いつ談笑を止めたのかこちらを見つめてニヤニヤしている四人と目があう。彼女もそれに気付いて苦笑している。


 各々のカップを手に席を移動してきた四人と合流した結果、この集まりに関係する人物は結束を高めるという名目で全員原則“名前で呼びあう”ということで決着がついた。



***



 学園の新学期が始まって以来、俺は無能の気分を味わっていた。というのも、任された調査に関しての権限が俺の身分を大幅に上回っているからだ。

 

 この数ヶ月を通して、俺とアーネスト様だけで調べられる範囲は大方調べきった。そもそも名義を貸すような貴族と言えば、昔は立派な家柄だったものの代を重ねるごとに当主が無能になり、現在では見る影もない家が多い。


 外側は立派な屋敷に住み、大体の者が大仰な名前の職にも就いている。しかしその内情は今までの遊興でガタガタになっていて、最早家名に縋るしかない家がほとんどだ。


 したがって買収出来る貴族の名義は全て手に入れた。所詮当座を凌ぐ程度にしかならないのだが、それでも彼等にとっては市井に落ちるよりはマシらしい。不思議なものだ。


 それよりも厄介なのは、王家筋に属しながら現在の王家に怨恨を抱いている場合だ。こういう家はどれだけ金を積んでもなかなか首を縦には振らない。ただこれも攻略の仕様はある。


 俺としても口に出来ない類のことはあまりやりたくはないが、探られて痛い腹を持つ方が悪い。命を取らなくとも社会的地位に固執する貴族達を脅すことは、下手をすれば時として市井の人間を説得するより容易いこともある。


 ただそうしてせっせと働いても、困ったことに名義を貸していた貴族達は誰一人として大元の貴族家の名を知る者がいなかった。大元が分からない限りはただの無駄金を支払っただけのことだ。


「ここまで来て......手詰まり、か」


 城内に与えられた自室に籠もって調べ物をしていた俺は、アーネスト様が自費で雇っている情報屋が今朝方寄越した書類に目を通して、溜息を吐いた。


 というのも書類の中にあるような内容は、大方が自分で調べたものと似たり寄ったりといったところだったからだ。


 王家筋と一口に言っても、当然どこも日の当たる道を歩める家ばかりではない。思った通り王家の名を振りかざして馬鹿なことをして取り潰された家はそれなりの数があった。


 その中から絞り込めるだけ絞り込んだ結果、怪しいと思われる家は五家。しかしこの五家は現在友好的な人物が当主についており、今さら過去を蒸し返す愚か者はいないように感じた。その内の数名とは王城内で言葉を交わしたこともある。


「この先の事業を考えれば--これ以上アーネスト様の資金を減らすわけにもいかんな......」


 これまでの買収で使った資金は今のところ回復しているが、然りとてこのままろくな情報を得られないままで良い筈もない。補填して使う、ではただの死に金と変わらないだろう。


「かといって俺の力程度で打てる手はここまでで使い尽くしたしな......」


 城内に自室を与えられているとはいえ、乳母の息子程度では打てる手などたかがしれている。


 王子の世話役と言っても貴族ですらない俺をアーネスト様がいつまでも傍に置くのとて、出世の芽がない第三王子の元に子供をやりたがる貴族が誰もいなかったからだと訊く。


 この部屋でどうしたものかと頭を悩ませた所で現状は打つ手なしだ。仕方がないのでアーネスト様が戻られるまでの間、どこかで時間を潰そうと部屋を出た。


 ---が、しかし。


 どこかといえど特に街に詳しくない俺の向かえる場所など多くはなく......最近では実質ほぼ一カ所に限られていた。


「オーランドさん、コーヒーのおかわりはいかがです?」


「あぁ、構わないだろうか?」


「ふふ、差し入れて下さっているのはオーランドさんなんですから、もちろんですわ」


 そう言って席を立つ彼女を見送っていると頭の中がすっきりしてくる。いや、単に彼女が淹れてくれるコーヒーのせいかもしれないが。


 しかしこうして数日通って実感したが、昼間の女子寮内には彼女の他に人気がない。いくらなんでも不用心な気もすると以前訊いたが、彼女曰わく『個人の個室にはきちんと鍵がかかっていますから、物取りが入っても平気です』だそうだ。


 俺としてはそういう問題でもないとも思うのだが......。


 だが誰もいないこの時間の女子寮内の静けさは好ましい。遅々として進まない権利取得の件も、この時だけはどこかに置いておきたくなる。そんなことを考えながらぼんやりしていると、奥からコーヒーの香りが漂ってくる。


 そうすると何か、言い知れない安堵感が胸に広がるような気がした。


 彼女という人物は面白い。この女子寮管理人としても、エメリン嬢やアーネスト様の姉のような役所としても、マリー嬢の友人としても。まぁ、ユアンにとっての彼女は--どうだか分からないが。


 前回の勝負の一件以来ユアンは彼女に逆らうことはしなくなったが、変わりに妙に馴れ馴れしくなった。


 毎回ここを訪れるたびに彼女に距離感を注意され、彼女の傍にマリー嬢かエメリン嬢がいる場合は攻撃されてヘラヘラとしている。ふと、あながち彼女に一番懐いているのはユアンかもしれないと思い至った。


 そんなことを考えていたら何か急に瞼が重くなってくる。さっきまでは何ともなかった筈が、脳の容量を余分なことに使ったからだろうか......やけに眠気が......。


『お待たせしました......って、オーランドさん?』


 彼女が俺を呼ぶ声が聞こえる。


『きっとお疲れなのね--』


 そう言われて“そうか”と妙に納得する自分がいた。“こんなに頭が働かないのは疲れが現況だったのか”と。そう納得してしまった瞬間に眠りに引きずり込まれた俺の耳に--、


『おやすみなさい、オーランドさん』


 という彼女の穏やかな声が聞こえた気がした。



***



 次に目を開けたとき、俺は窓の外の空の色に驚いた。慌てて伏していたテーブルから上半身を起こすと、肩にかけられていた毛布が滑り落ちる。


「そんなに慌てなくてもまだ三時ですから大丈夫ですよ。時間の割に暗いのは雪雲のせいですわ」


 すぐ近くから微かに笑みを含んだ声をかけられて、その声がした方向に視線を向ける。


「お疲れだったようなのでそのまま眠ってもらったんですが--もしかしてここ以外に用事があったりしましたか?」


 俺の向かいの席に腰掛けて何か新しい制服を縫っていたらしい彼女が、その手を止めて顔を曇らせた。


「あ、あぁ、いや、そんなことはないが......勝手に押し掛けておきながら貴方を置いて寝てしまうなど--それに毛布まで......何か色々とすまない」


 自分で口にしてからとんでもないことをする男だと思った。我がことながら呆れを通り越して怒りすら感じる。非礼を詫びたところで彼女の時間を無駄にさせてしまったことに変わりはない。


 俺がここで眠ったりしなければ彼女は今頃自室で自分の作業をしていられたに違いないのだ。仕事が行き詰まった俺とは違い、彼女にはこなす仕事が山とある。


「貴方の貴重な作業時間を奪ってしまった。俺が眠ったりしなければその作業はミシンでするつもりだったのではないか?」


 目の前の彼女は緩く首を横に振って微笑んでくれるが、それがまたさらに申し訳なさを倍増させる。言葉を捜して思わず一瞬黙りこんでしまう。


「そんな、人の死ぬ場面に居合わせたみたいな悲壮な顔をなさらなくても大丈夫ですよ。この部分は元からミシンで縫うには細かいところだから、どのみち手縫いにする予定でしたもの。ですから、お気になさらないで?」


 前回からいちいち例えがアレな彼女だが、そう困ったように眉根を寄せて苦笑する彼女を見ているとこちらも段々落ち着いてきた。


 落ち着けば落ち着いたで恥をかくのだが、もうこれ以上の上塗りもないだろうと思い直す。


「--それは、何をしているところなんだ?」


 会話の内容を思い浮かばず、しかし無言になるのも気まずい俺の苦し紛れな問いかけにも、


「これですか? これは女子の冬用制服の上から羽織るコートのボタンホールを刺しているところです」


 そう丁寧に答えてくれた彼女は作業の手を完全に止めて、道具を片付け始めた。


「さて、と。四時の鐘まではまだ少し時間がありますし......せっかくですからさっき飲みそびれたコーヒー、お持ちしますね?」


 かえって邪魔をしたかと内心焦った俺に向き直った彼女は、そう言って悪戯っぽく笑った。




最近皆のあしらい方を心得てきたジェーン。


......お母さんかよ(・ω・`)

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