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3-5   本日は三人揃って珍道中。


毎回タイトル考えるの難しい(´ω`;)<センスが......。



 昨日偶然街で出会ったクレイグさんと一緒にほぼ一日中歩き回っていたせか全身がダルい。あと痛い。日頃の運動不足が祟っているが、まだ翌日に筋肉痛がくるところだけは自分の身体を評価してやりたい。......あくまでそこだけだけれど。


 しかし今日は男子寮に男子用学生服のデザイン画を玄関先に張らせてもらう予定を入れてしまっている。何とかベッドから身体を起こして身支度を整える。仕上げに普段はしないごく薄い化粧と、香水を少しだけ。他には何も特別なことはしない。


 何故いつもと違う身支度をする必要があるのかと問われれば、好印象を相手に与えるためだ。語弊のないように言うと、年末年始の挨拶がてら顔を出すのが毎年男子寮の管理人さんと僅かにある交流だからである。


 頼み事をしなければならないことがあった時、そこに至るまでの第一印象はとても大切だ--ということをつい最近特に強く感じた。


 それ以外の期間は男子寮の管理人と女子寮の管理人は基本的に交流することがない。連絡事項と言ったって学園での行事予定は郵送されてきたものを掲示板に張るくらいで事足りる。


 もしもそれ以外で招集がある時は......出来れば絶対ない方が良いが、学生同士が交流というか交際をしていて婚前に不適切な関係になった時だ。


 これがあると大変なことになるらしいが、幸いにも私はまだそんなピンチを迎えたことはない。王子様とエメリンがその禁を破らないように見守ろう。


 姿見でさっと確認をしたら食堂へと向かう。とはいえ、今はまだ新年のお休み真っ最中なのでいつものようにおばさん達が作ってくれる食事はない。あるものと言えば休み前に買っておいた保存のきくパンと目玉焼き、それにコーヒーとジャム位--って、あら? いつもとあんまり変わり映えしない気もする。


 そんなことを考えながら食堂に着くと、そこにはすでにエメリンの姿があった。


「あ、クロムウェルさん。おはようございます~!」


 まだ寝ぼけているのか、ふにゃ、とした微笑みを投げかけてくるエメリンを見て私も思わず微笑む。最近この娘の独特な締まりのない空気にも慣れてきた。それに慣れてみると意外と“味”がある。王子様も彼女のそういうところが好きなんだろう。


「ふふ、おはようエメリン......って、貴方の前のそれは何なのかしら?」


 本当は訊かなくても分かる。でも敢えて訊いてみることにしたのはちょっとあることが気になったからだ。


「えぇ? 何って......ただの朝ご飯じゃないですかぁ。あ、さてはクロムウェルさんってば寝ぼけてますね?」


「寝ぼけてはいません。でも驚いてはいるわ。だってそれ、貴女一人分でしょう?」


 思わずそう訊いてしまう先にはうずたかく積まれたトーストと大きなマグカップに入ったホットミルク(小鍋におかわり有)。ジャム、ハチミツ、バターが瓶ごとと、ゆで卵が六個。タンパク質多くない?


 以上が彼女の異常な食欲を物語っていた。それらを一人で食べている彼女を見ているだけで食欲がなくなりそうだ......。あとここでの生活のどこでその熱量がいるの?


「当たり前じゃないれふか。あ、れもクロむ#%&@」


「良いから黙って食べなさい。消化に悪いからよく噛むのよ?」


 それでも元気にそれを頬張る彼女を見ていると微笑ましくもある。美少女の補食シーン。これも画像があったりするのかしら? ......うん、斬新。食堂は広いので席はどこでも良かったけれど、せっかくなので初めて寮生と食事をしてみることにする。


 至って一般的な量の朝食を用意して席に戻ると、彼女の前にあったパンは消えていたので本当にしっかり噛んでいたのか怪しい。だけどトレーを持ったまま前の席に着くと、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。


「昨日はクレイグさんと帰ってきましたよね? アーネストはいなかったし......二人でどこに行ってたんですか?」


 私がごく普通のスピードで食事をしていると、自分の分を食べ尽くした彼女が急にそんなことを訊いてきた。恐らくさっきの聞き取れない言語を喋っていた時の続きだろう。王子様の名前を口にした彼女が少しだけシュンとするのを見て寂しいのを我慢しているのだと分かる。


「私とオーランドさんは偶然街で会ったのよ。私と彼の用事が被っていたから二人でそれを済ませて帰ってきたの。そうそう、クレイグさんから訊いたけど、王子様は昨日熱が出たって。でも今日もし熱が下がったら明日お見えになるそうよ」


 簡単な説明と報告をすると、彼女の顔にみるみる複雑な表情が浮かんだ。たぶん表情を要約すると“熱が出た”のは心配だけど“会いに来るかもしれない”のは嬉しいのだと思う。


「というか、戻ったのに気付いていたんなら食堂に来たら良かったのに。まだ部屋で課題をやっているのかもと思って声をかけなかったのよ?」


 私がそう言うと彼女は“ニヤッ”としただけで何も言わなかった。何なのだろうか、もう--。食事をしている私に「今日はお化粧してどこに?」と訊いてくるので男子寮に行って先日のデザイン画を玄関先に張らせてもらい、寮生の反応を教えてもらうのだと説明する。


 これは私の個人的な意見だけれど“いきなり制服が変わります”よりは“こんな制服になる案がるらしいけど、どう?”と先に訊かれた方が心の準備がしやすいと思うのだ。


 ごく僅かでも今のデザインを気に入っている生徒がいたら気の毒だし。いや、まぁ、いないとは思うけれど......。


 説明を聞き終わった彼女は何故か断固ついて来ると言ってきかなかった。出来れば女子寮の寮生を、しかも彼女のように可愛い娘を連れて行くのは気が進まないのだけど頑として私の“お断り”を受け付けてくれないので仕方ない。


 女子寮のようにほぼ全員いないということはないだろうが少なくともそんなに大勢生徒も残っていないだろうということで、朝食後、私とエメリンは二人連れ立って男子寮へと出かけることにした。



***



 身支度をする時間を与える為に玄関で彼女と待ち合わせて、寒さを我慢してさぁ出発するぞ! と意気込んで門を出た時だ。


「--あぁ、良かった。まだ中にいたんだな。なかなか出てこないからもう出かけた後かと思ったぞ」


 私達がまだいるかも分からないのに、寒空の下で門柱に背を預けてずっと待っていたらしい長身の相手はそう言った。


「クレイグさん!?」


「......おはよう」


「え、えぇ? おはようございます......って、そうじゃなくて何でここにいるんですか!」


「貴方が昨日男子寮に行くと言っていたからだが--と、違ったらすまないが......今日は化粧をしているのか?」


 だからそれで何故ここに立っているのか。あと二人してそんなに私が化粧をしていることが意外なの? 私だってTPOくらい守りますよ失礼な。それにしてもエメリンといい彼といい、どうして男子寮にそこまで興味があるのか。確かに向こうの方が規模が大きいけれど、それにしたって女子寮の方がまだ華やかで良いじゃない......ではなくて。


「エメリン、食堂でお湯を沸かしてきて。 クレイグさんも早く寮の中に入って下さい。出かける前に一度温かいものを飲みましょう」


 私の言葉にいち早く反応してくれたエメリンと違って、クレイグさんは不思議そうな顔をしている。いやいや、不思議なのはこっちです! 昨夜さらに雪が降って気温が下がったというのに何を考えているのだろうか? 結局再びお茶をしたせいで出かけるのがお昼時にずれ込んでしまった。


 向こうの方と時間の約束をしていなくて本当に良かった。それでも早くついた方が良いのは確かなので、心持ち急いで歩く。男子寮の管理人が去年のままなら優しそうなお爺さんだった気がするな--などと雪道で考えごとをしながら歩くのは危険だ。


 案の定ズルッと雪に足を取られる。そのまま転ぶことを覚悟した私を両側からエメリンとクレイグさんが支えてくれた。その時になってようやく私は理解する。


「二人がついてきてくれて......とても助かりました。ありがとう」


 たぶん二人とも私がこうなることを見越してついてきてくれたに違いない。それが分かってしまえば恥ずかしすぎて顔から火が出そうだった。


 悲しいけれど......ついに眼鏡を買い換える時が来たのか。このままでは私の形見になりかねないもの。マリーが帰ってきたら選ぶのを手伝ってもらおう。


 二人は落ち込む私を慰めてくれたけれどそれが返って辛い! もうさっさと--足下には注意して男子寮を目指すことにした


 昨日と同じく街に人気がないこともあって、いつもより王子様の話を訊きやすい環境が揃っていた。エメリンはクレイグさんに熱のことや食欲があるかなどを事細かく質問し、クレイグさんも簡潔だけれど丁寧に答えている。私もそんな二人の会話に相槌を打ったり質問をしたりしながら進む。


 話題が三人の趣味の話に差しかかる頃に男子寮に到着した。女子寮の規模よりやや大きい男子寮は小さな王城といった風情をした建築で、迫力というか圧迫感があるため街の中心部から結構離れている。


 二人ともこの街にいながら初めて訪れるらしく、その大きさと重厚感に素直に感心している様が微笑ましい。確かに毎年訪れる私やここの寮生くらいしかこの辺りまでやってくる人はいないので、それ以外の人には物珍しいのかもしれない。


 ちなみに三人の趣味の内容はクレイグさんが“無趣味”。いきなり話の根本を否定。


 エメリンの趣味は“筋トレ”。あぁ、朝の熱量の行き先はここに行くのね。つまりこれが本当の女子“力”。


 最後は私“読書と洋裁”--うーん、趣味の定義とは......。


「じゃあ私は先に管理人同士の新年の挨拶をしてきますから、終わったら二人を呼びますのでそれまでここで待っていて下さいね」


 門前でそう二人に言い残して私は先に男子寮の玄関先に向かう。そこで呼び鈴を鳴らしてお爺さんが出てくるのを待つ間、形式的ではあるものの新年の挨拶を頭の中で確認する。と、玄関ドアの内の一つの鍵が開く音がする。


 挨拶の口上もしっかり頭の中で組み立てたので大丈夫だ。いよいよドアが開いて、さぁ挨拶をと思ったら---。


「お、あんたが爺ちゃんが言ってた女子寮の管理人さん? 新年オメデトさん。それからこれはオレから初めましてのハグ~」


 突然騒がしくて軽薄な“誰か”の腕に抱きしめられた私は、新年早々ここ数年来上げたこともなかったような悲鳴を上げることになってしまった......。



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