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来世で待つと君はいう  作者: 南のあかり
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隊商の隊長リュウセイ

「ハクトお兄ちゃんなんで行っちゃうの?ククリのこと忘れちゃった?」


幾つもの人の目がこちらを驚いたように見ている。思った通りだ。

このままだとククリまで変な目で見られてしまう。


「おい放せ」

「なんで?」

「いいから放せよ」


「だめ。怪我してるもん。こっちきて」

「こんなのすぐ直る」


「傷を甘く見ちゃいけないってソハヤ様がいつもいってるもん。こっちきて」


ハクトはククリの勢いにのまれ、ずんずんと芝居小屋の裏口まで連れていかれた。


少女と呪われた皇子の組み合わせに、道行く人々は戸惑いの視線をむけているが

ククリはお構いなしに小屋へと入っていく。


ククリが小屋に入っていくと ”お帰り~” とククリに声をかける人や 

”おやお客さんケンカでもしたのかい?”と気軽に傷だらけのハクトに声をかけて

くる人もいる。


「ここに座ってまっててね」

ククリは長卓に椅子がいくつもおいてある場所まで来ると、ハクトを座らせ急いで

出て行った。


簡素な椅子と卓だけがおかれている部屋だが、明り取りの窓が設けてあるのか

梁がむき出しの屋根から柔らかい光が差し部屋の中を明るく照らしている。

急ごしらえで作られた芝居小屋の内部はおざなりなものでなく、居心地良く

暮らせるような工夫がされているようだった。


ここは芝居小屋で働いている人々が集まり食事をする場所なのだろう。

何処からかおいしそうな匂いがただよって来ている。


きゅるるハクトのお腹が、おいしそうな匂いに反応した。

「腹へってるのか」


金色の目をした整った顔の男が湯気を立てた椀を片手に入ってきた。

この顔立ちの良さと目の色は間違いなく龍族の男だ。

しかも、ぴりぴりと額に感じるこの感覚はかなりの力をもつ男だとわかる。


ハクトは急いで立ち上がり、男と距離をおきながら出て行こうとする。

まだ龍族の力の発現途中のハクトには到底敵わない相手だ。


「いやいや待て待て。」

男があわてたようにハクトに声をかけるとククリが戻ってきた。


「あっ隊長。あのね。このお兄ちゃん。この前助けてくれたハクトお兄ちゃん

 です。」


ククリが男にハクトを紹介すると、満面の笑みを浮かべ両手でハクトの手を    

思いっきり掴み握手をしてきた。


男の握力は龍族だからか殊更強く、ハクトは掴まれた手が痛くなった。

”この隊長、かなり剣もつかえるのか?”


初めて近づいた龍族の男にハクトは興味を持ち始めた。

リュウセイの明るい声がハクトに向けられる。


「ああそうか~そうだったのかあ。私はこの芝居小屋と隊商の商隊長を

 やっている。リュウセイといいます。うちのククリがお世話になりました。

 本当にこの子は薬草の事になると他の事が目に入らなくなるんでね。いつも

 冷や冷やさせられるんですよ。」


ハクトは話についていけずに思わず

「薬草?」

と首をかしげる。


「わたしね。あの湖の中に生えている藻がど~しても欲しくて水の中に入ったの。

 その藻はね痛いときのお薬になるの」


「ククリは泳げないんですよ~」

商隊長のリュウセイはククリの説明不足に重要な補足事項を告げる。


「はあ?おまえアホだろう。」

「・・!っあっあほじゃないもん。」


ククリはハクトの言葉にむぅっと睨み返す。


「あの湖は相当な深さがあるんだぞ。泳げない奴が気安く入れると思うなよ」


ククリはハクトに返す言葉が見つからず顔を真っ赤にしてパクパクと口を

開けたり閉じたりした末に、うな垂れた。


「ごめんなさい。」


ククリは小さな声でハクトとリュウセイに謝る。。


ハクトは素直に謝るククリに何て返せば良いか分らず押し黙る。

目の前のククリは今も自分を嫌わずに無邪気に接してくれる。

あの湖で会った時のままだった。


なんだか嬉しくて、ハクトは唇がほころびそうになるのを知られないように頬に

ぎゅぅと力をいれた。


二人のやりとりを面白そうに見ていたリュウセイに

「さあさあここに座って」


と椅子にすわらさられた。


ククリが手際よくハクトのあちらこちらにできた傷を消毒し丁寧に軟膏を

塗ってくれている。


だれかに世話をしてもらうことに慣れなくて、体を縮こませてしまう。

リュウセイはハクトの緊張した様子を気にもとめず色々な話をしてくれた。


ククリは怪我をしている人でも動物でも放っておけないらしい。

どこからか怪我したネコや犬、子供、はては森で罠にかかった大型獣まで・・

(どうやら小熊だったらしい)を連れてきては自ら作った薬で治療する。


今日はハクトがククリの放っておけない相手に認定され、芝居小屋に連行    

されたらしい。


リュウセイは国中を旅しながら商品を売り歩く隊商を率いているそうで、客引きの

一つとして笛や太鼓を奏したり、曲芸をしている。


これがどこでも至極好評で、芝居や芸を見せる隊商としても有名らしい。


芝居小屋での芸人も俳優も手前味噌で、隊商の商人や商隊長のリュウセイで

やっているのだが、商品を市場バザールで売るときは、芝居小屋の出演者たちが

売り子もしているので、芝居を観たお客たちは彼ら見たさに店にも足を運んでくれ

商売繁盛、笑いが止まらないらしい。


リュウセイは抜け目ない商売人なのだろう。

どちらにしてもこのリュウセイの外見なら商品を勧められた相手はイチコロだろう

と納得した。


ククリが軟膏を塗り終わるとリュウセイはハクトの為にと湯気の立の椀を手渡して

くれた。


「ハクト少年よ食べなさい。大きくなるんだぞ。」


ハクトは龍族のこれほど力をもった大人と話すのは初めてだったが、ハクトの血の半分

が龍族だからなのかこのリュウセイは自分を絶対傷つけないだろうと感じた。


龍族の大人はみんなこんな感じなのか、それともリュウセイが特別なのかハクトは判断

できるほど龍族のことを知るすべをもたなかった。


ハクトが椀の中の汁物に口をつけ、その美味しさに思わず一気に平らげてしまうと、

リュウセイが”ほら食え”とお代わりを差し出してくれた。


ククリがちょこんと隣にすわり、薬類をせっせと片付けている。

自分を気にかけてくれるククリがいて、暖かい食事があって、ハクトは今一人

じゃないんだと思えた。


途端に切ない思いが胸にせりあがりそうになったハクトは気持ちを逸らすように

ククリに話かけた。


「ククリお前、湖の中にあるっていうその藻がまだ欲しいか?それ俺がとって      

 きてやるよ」


「ほんと!じゃあククリも見てていい?」


「ああ。けど湖には入るんじゃないぞ」


「!・・・・」


「お前やっぱアホだよな。」


ぷくーっと膨れたククリの顔を見ながらハクトは笑った。

自分が呪われた皇子だとククリに分かるまで、あとどのくらい時間があるのだろう。

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