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来世で待つと君はいう  作者: 南のあかり
7/13

ククリとの再会

連日更新の予定です。

陽の光が二人を温め、濡れていた衣服が乾いていく。

ハクトは少女を抱き込んだまま、うとうとと眠ってしまったらしい。

遠くの方で誰かが呼んでいる声でハクトは目を覚ました。


「ククリ~お~い どこだぁ~」


少女は目をこすりながら、ぱっと起き上がった。


「あっ!行かなきゃ。」


立ち上がりニコリと少女はハクトに笑いかける。


”今泣いたカラスがもう笑った。”

くるくると表情がかわる少女にハクトはぼんやりとそんな言葉を思い出した。


「あのねわたしククリっていうの。お兄ちゃんは?」


「ハクト」


「ハクトお兄ちゃん。じゃあまたね~」


こちらに手を振りながら、ククリと名乗る少女は出会いと同じように慌た    

だしく、彼女を呼ぶ誰かのところに駆けていってしまった。


「なんだよあいつ」


抱えていたぬくもりが急に消えてなくなった。

ククリに置いてきぼりをくわされたような心持になってしまったハクトは、

その気持ちを掃うように勢いつけて立ち上がり元来た道を戻りながら考え

ていた。


もうあの子とはこれきり会えないだろう。

ましてや自分が呪われた皇子だと知れば、あの子もきっとみんなと同じ    

になってしまうだろう。



あれから数日が経った。

ククリの事は忘れてしまった方が良いと頭の中で何度も繰り返す。

ハクトはあの湖に行けばまたククリに会えるかもしれないと、期待して

しまう自分が嫌だった。


だから余計な事を考えないように鍛錬場ではいつもより長時間、剣の     

稽古に明け暮れた。


物心ついたころから自分の養育係となったキバ将官はハクトを伴い

国中を回り、各地に派遣されている隊を視察している。


だがこれは名目でハクトが一か所に定住すると呪われる祟られると

民たちが恐れないように移動を続ける生活を送っているのだと、流石に

ハクトも数年前から気が付いていた。


此度の視察地はハクトの母の出身地にある隊であり、王妃となる前の    

母を良く知る者たちばかりが所属していた。


それゆえに、ハクトが前髪で常に隠している左頬の深い傷は母親であ    

る王妃が、彼を生んですぐに王妃自らの爪で抉り傷つけたものだと皆が    

知っていた。


獣人の母性は星人や龍族のそれと比べると格別に強く、幼い子供を常に

抱え込むよう育てる部族であると知られている。


故に彼らにとって母親が赤子を自らの手で傷つけるという事態はあり

得ない行為であり、ましてや王妃になる以前の母はこの領地の子供たち

皆に慕われているほど愛情深い人だったらしい。


そう、そんな女性が自分の産まれたばかりの赤子を傷つけるなど想像も

しなかったろう。


だから彼らは考えたのだ。王妃様がおかしくなられた訳じゃない。

生まれた子供に何かあるに違いない。


今までだって何処に行っても居心地が良かった場所など何処にもなかった。


呪われた皇子だという噂は国中に広がっているのだ。

けれど、皇子という立場である自分をあまり粗略に扱えないため、相手は

自分に無関心であったり放っておくことで、関わりあいにならないように    

している者が大半であった。


だがここでは、里の人々や隊にいる兵たちも自分に嫌悪感をぶつけてくる。

それは自分たちの慕う王妃を苦しめた元凶だといわんばかりだ。


無関心と嫌悪感どちらもハクトにとっては自分の存在を否定される点では

同じこと。心が千切れそうになるのも同じこと。


獣族の男は弱さは悪だと考える。

最初にこの場所に来て、ハクトが受けた洗礼は鍛錬場での訓練という名の

兵たちとの容赦なしの総当たり戦。


剣の刃をつぶした模擬刀でなければ何度死にめを見たのか数えることすら

意味がない。


養育係のキバは鍛錬でハクトが大怪我を負い、失神しても言うことは常に

同じだ。


「獣人の狼族は常に強くあらねばなりません。ましてや龍族の血を引く

 ハクト様は獣人の兵などの前に倒れるなどあってはならぬことです。」


ハクトはキバにそう言われるのが心底嫌だった。

狼族にも龍族にも自分は受け入れられたことなどない。

それどころか親であるこの国の王に疎まれている。

なぜ強くならねばならぬ。なぜ生きなければならないのか。


とうとうやり切れなくなって、暗い思いを抱えたまま、ハクトは

里に入る道を歩いていた。湖に行くためだ


今日は特に集中できぬままに兵たちとやりあったため、普段にも増して

傷だらけだった。


数日はなんとか誤魔化したが、やはりもう一度無邪気なククリに

会いたかった。そして湖で全てを洗い流したかった。


この土地はいつもいつもハクトの粗さがしをするような視線が

纏わりつく。


店が軒を連ね人通りが一番多い道を通りかかると、聞いたこともない

楽しげな笛や太鼓の音が芝居小屋らしき場所から流れてきた。

確か数日前は空き地だった場所だ。


「ねえねえ見た?リュウセイ様。もう凄いイイ男なんだからあ」

「見た見たあ~素敵だったわねえ。どうにでもしてって感じ」

「俺は月姫役のコリンちゃんが好みど真ん中だったなあ」

「もうあんたなんかに聞いてないわよ」


里の人々が夢中になって話をしているのは、どうやらあの芝居小屋に

かかっている芝居のことらしい。いつもより行きかう人々も楽しげに

見える。


ハクトはあまり人目を気にせずに通り過ぎることが出来そうだと

足を早める。


「ハクトお兄ちゃん?やっぱりハクトお兄ちゃんだ!」


ハクトは急に声をかけられ、ぎくりと振り向くと会いたいと思っていた

あのククリがこちらに駈け出してくるところだった。


”マズい”ハクトは急いで踵を返すと足早に立ち去ろうと歩を進めた。

だが、一歩遅くぎゅっと後ろからククリに衣を掴まれ立ち止まらざるおえな    

くなった。



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