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来世で待つと君はいう  作者: 南のあかり
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予期せぬ異変

5話16日1時に更新します

イツキ姫は山間部から戻ってきたトリの報告に眉をひそめた。

「今度は火山とな」


王妃様のお加減が優れない。

龍王陛下は王妃の枕元から一時も離れないらしい。

龍王にとって番いとは国の政より大事な存在なのだろうか。


公務は第二皇子が代行することとなった。

第一皇子はずいぶん長い間、遊学と称し宮を出たきり

いまだ戻らないらしい。

 

イツキ姫が華宮に入ってから一度も

第一皇子の帰還を耳にした覚えがない。

放蕩者なのだろう。


最近は国境の瘴気が殊更強くなっているようだ。

国境の村人たちへの魔物の被害が大きくなり第二皇子は

魔物討伐に兵を動かし、穢れを払う神官団を送り出した。


国中の作物の出来も悪くなっている。

そして先ほど火山の麓から硫黄の匂いがし始めたとトリたちが伝えてきた。


国境からじりじりと穢れが国の中心に滲みこんでくるような感覚を

イツキ姫は感じていた。こんな事態は生まれてから初めてだ。


現龍王陛下在位200年余りの間、同じような事態になったことがあるの

かもしれないと星人の記録書をひも解いても、このような事態は一切見受け

られなかった。


イツキ姫の故郷、星人の領地への被害も例外はなく、祈祷の願いが続々と

やってきていた。そしてこれまでの瘴気の被害や田畑の不作はイツキ姫の

祈祷で簡単に祓うことが出来ていたのだった。


だがここに来てイツキ姫の祈りの力の効力は、瘴気という大火にひしゃくで

水を投げ入れるようなものに等しかった。


「一体何がおきているのだ」


豹変したのは国の事態ばかりではなかった。

第二皇子が公務を引き継いでから、イツキ姫へ夜の訪れをしなくなった。


もとより頻繁でなかったため当初は気にならなかった。

しかし流石に来る日も来る日も、この華宮のどこにいても皇子と顔を合わさない

状況が続いた時点で、これは妙だと胸騒ぎを覚えた。


”皇子の様子と、番いの娘の動向を探るべきなのか・・トリを放とうか・・”


イツキ姫はもう一度、あの番いだと言われた娘の姿をこの目で確かめたくなる。


”そうだトリに再びソハヤの鏡をもたせよう。”


「これ誰かソハヤをここに」


正直なところ本当にあの娘が第二皇子の番いなのか半信半疑であった。


イツキ姫は龍王の番いである王妃の姿を思い出し、次の番いだといわれたあの娘と

比べていた。


第二皇子の客人扱いであるイツキ姫は、王妃に直接の謁見を許される立場では

なかったが、遠目で幾度かご挨拶申し上げたことがある。


あの時感じた王妃の身から溢れる力。

それは何とも判ぜぬ未知の力であり、イツキ姫はなるほど番いの持つ力がこれほど

特殊であるが故に、龍王に格別に扱われるのだと納得したのだった。


だからこそ、ソハヤの力を疑う訳ではないが、例の番いといわれた娘が龍王を選ぶ

という大役を果たせるような力も、またそれに比例する美貌も持ち合わせていない

ように思えた。


万が一にもと、トリに番いの娘を調べさせてみても、イツキ姫の最初の印象を覆す

事実は何も上がってこなかった。


番いの娘は獣人の武門の名家、狼族の娘であった。

獣人の遠き祖先は神獣であったと伝えられており、その容貌は星人の色素の薄い

髪色や瞳や儚い美しさと異なり、濃い色素と生命力溢れる容姿に魅かれる星人や

龍族も多い。


狼族、鳥族、熊族、栗鼠族の四部族で構成されるが、その呼称の由来は各部族が

もつ特徴的な身体能力や保持する能力を示す。


彼らは龍族や星人に比べ数が多く、煌国の中枢において文官、武官と多岐に渡って

活躍している。


そのなかでも狼族はその統率力から獣人の頂点に立ち、武門では並び立つものが

いない。煌国の将軍は獣人の狼族から必ず輩出されている程であった。


なかでも番いの娘の家は数多くの将軍が生まれた名門の武家であり、現将軍は娘の

叔父にあたる者であった。


しかし、当の娘はその武門の家に育ったため剣術をたしなんではいるものの、その

日常は名門の家の娘らしくなかった。


野山を子供たちと駆け、農作業をこなし、どう考えても平凡な村娘と同じであった

のだ。


「何の力も魅力もない娘が、煌国の次の龍王その人の唯一無二の番いなのか?」


第二皇子の言葉を思い出す。


”ひとたび私に番いが顕れれば 私は番いの他は目に入らなくなります。”


あの娘と比べたら、能力も美貌も教養も明らかに自分の方が遥かに上であろう。

この50年皇子は一度も他の娘をお側におこうとなさらなかった。

それは、わたくし以上に優れた娘がおらず、わたくしに満足されている証拠。


何もかもに秀でた皇子が、あのような平凡な娘に魅かれるとは到底考えにくい。


思案している中、イツキ姫の元へソハヤが鏡を伴いやってくると、内緒話をする

ように小さな声でソハヤが告げた。


「イツキ姫様、どうぞ女官たちを下がらせて下さいませ。」


ソハヤの気配がどこか張りつめている。何かを視たというのか。


イツキ姫は内心の動揺をおくびにも出さぬよう、ゆっくりと微笑みながら女官の

前で演技をする。


「おやソハヤ何か困ったことがおありかえ?このわたくしで良ければ存分に

 聞こうぞ。よいよい皆さがれ」


イツキ姫の芝居に騙された女官達は、幼いソハヤがイツキ姫を母と慕い二人きりに

なりたいのだろうと微笑みながら退出していった。


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