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来世で待つと君はいう  作者: 南のあかり
3/13

ソハヤの鏡

4話目は16日0時予約投稿いたしました。

獣人の鳥族は翼こそ持っておらずともそのスラリと長い手足と重力に抗うような

跳躍力は、確かに古の昔彼らは翼で大空を制していたことを思わせる。


そして彼らは今、星人が作り出した鳥型を操ることで再び空に舞い上がる。


彼らの天性の能力でしか操れぬまやかしの翼で国中を瞬息の間で

飛びまわるのだ。


わたくしの目となり耳となる間者の”トリ”の中でも一番の速い乗り手に

ソハヤの言うとおりの鏡を持たせた。


トリが風をよみ天高く飛び去るのを見届けるとソハヤをイツキ姫のために

宮殿内の庭園に設えられた東屋へと招き入れる。


「この鏡に番いが映るとな」


「あのトリに持たせた鏡で番いを映せばこちらの鏡に映ります。」


人払いしてある東屋で、長椅子にソハヤと二人で座る。

二人の間には大人の上半身がゆうに映るほどの大きい楕円形の鏡が置いてある。


「番いがこの世に生まれているのであれば、なぜ殿下はすぐに気づかぬのか」


イツキ姫は疑問を口にのぼらせると、思わぬ言葉がソハヤから返ってきた。


「その時を待っているのかもしれませぬ」


「その時とな?」


「イツキ姫様。私が視たものをちゃんとお伝えするには分からぬことが

 沢山あります。私には番いが何かも分かりませぬ。私に視えたものは

 第二皇子様がその者を”番い”と呼び、イツキ姫様が華宮に居られなく

 なる景色です」


”自分がこの華宮を追い出される。”


屈辱的な未来がソハヤの口から語られたことで体が強張りそうになった自分を

イツキ姫はぐっと息を飲みこらえた。


子どもであろうと弱みを握られてはならぬ。


いくら強い力を持つと感じても、所詮5つの子供と気を緩めて接していたのが

不味かった。ソハヤの言葉で自分が動揺したことが、この敏いソハヤに悟られずに

いられたかどうか生まれて初めて覚束ない心持になったのだ。



「映ります」


イツキ姫の気持ちを余所にソハヤの幼い声がかかると、二人の間に置いてあった

楕円の鏡の表面が唐突に光を放つ。


鏡の中に映りこんだのは、緑深い森の木々に囲まれた草原で歓声を上げて走り回る

子供たちだった。皆簡素な服をきている。

快活な声とその足運びの俊敏さは獣人の子供とわかる。


「どの者が番いなのじゃ?」


イツキ姫はソハヤに声をかける。

子どもの動きが早く、一人一人の顔さえ判別できない。


「ここに」


瞼を閉じているにも関わらず、迷いなくソハヤが鏡を指さす。

すると子供たちが突然振り向き、名前を呼び嬉しそうに我も我もと抱きつく

人影がうつる。


そこには抱きつかれた大勢の子供達を抱え、品のない大きな口をあけて

笑い声をあげた一人の娘が映っていた。


年の頃は15~6歳くらいの子だろうか?つぶさに見ようとイツキ姫が鏡に顔を

近づける。その瞬間鏡に映し出された娘が消え、鏡はつるりと元の変哲のない

楕円の鏡に戻った。


「誰かがトリに気づいたみたいです。」


イツキ姫のトリたちは隠密に情報収集をする能力に長け、他者に気配を

悟られることなど滅多にない。

そのトリに気づく者がいることに驚き、疑念をもつ。


獣人は生来、危険にたいする第六巻に鋭い部族だが、それにしてもトリに気づき

追い払うことが出来るとはかなりの手練れに違いない。

そのように優れた者があの子ども達の近くに偶然いたとは思えぬ。


一体ソハヤが見せたあの番いの娘は何者なのだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




長い長い回廊にコツリコツリと靴音が響く。


手をひかれずとも私は歩むことが出来るのに、この人はその場所まで手を繋ごうと

私の手を包んだ。大きな暖かい手だ。母上の柔らかく繊細な手とは全然違う。


深い声を持つこの人は幼い私を飽きさせない様にと思ったのか、ポツリポツリと

私に問いかける。


私の視える力にしか興味を示さない大人は、常に何が視えたと

問いただすことばかりなのに、どうしてこの人は私にどんな遊びが好きかとか

宮殿の住み心地はどうかなど聞きたがるのだろう。


「ソハヤ様こちらがその場所です。さあお手をかざして下さい」


その人は私の手をひやりと冷たい石の扉に置いた。

表面のおうとつが精緻な彫刻によるものだと気づき、文様を指でたどる。

すると、私の手をかざすのが合図であったかのように音もなく扉がひらいた。


「ああやはり」


その人の声に喜びの色を感じたのは気のせいなのだろうか?


「さあ瞳をあけてあなたの求める答えをお探しください」


ああなるほど。

私は母上と約束した通り、まなこを開けて良いと言われた唯一の相手に

瞼をゆっくりと開いた。


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