~朝日なんか登らなきゃいいのに4~
問題を起こした娘の雅(絶賛反抗期中の小学6年生)を迎えに行くために乗った電車でコスプレ少年エステス(自称神と名乗る)を不憫に思い、新たな服を買ってやろうと一緒に小川駅に降り立った。
しかし、ここで俺はとんでもない間違いを犯していた事に気がつかなかった。
「と、いうわけで、エステス?多分、本名じゃないよな。名前、ちゃんと教えてくれる?」
「・・・?」
言葉が通じないわけじゃない。少し、そう、人よりちょっと、言葉というか色々伝わりにくいだけなんだ。やっぱり、言葉通じないのかと不安になってくる。
「エステス」
だー。やっぱり言葉通じてなくね。まあ、子供だし、仕方ないよな。そんな子供にこんなコスプレ服きせて、可哀想に。ってか、この状況だと俺が自分の息子にコスプレ強要してるみたいにみえるんじゃ・・・。
慌てて、俺は自分のスーツの上着を少年にはおらせた。あんなふざけた格好よりマシだろう。
エステスが不安げに見上げてくる。大丈夫だって、両親がモンペだったら、俺も一緒に怒られてやるし、ついでに怒ってやるから。
とにもかくにも、雅の回収が先だ。俺はエステスをひょいと抱えると、改札を通って、学校へと走る。待たせた分だけ、雅の怒りは三百六十度回って俺にむかってくるだろう。それも、親子の愛とかで受け止めてやるドンとこい!!
しかし、そう思っていた俺を待っていたのは容赦ない侮蔑の視線と困り顔の教師だった。
「おそい!」
まるで、待てができない犬でも叱り飛ばすように雅は俺にむかって声を荒らげた。
「おいおい、俺は犬か召使かっての!?いいか、先生を困らせたのは、お前だろう?雅」
「は!?バカ親父の癖に説教する気」
する気もなにも、親が子供に説教するのに理由もなにもない。いつからこんな子供に育ってしまったのだろう。小さい頃はパパと結婚するとか言ってた可愛い時期もあったのに・・・。
今はそんな思い出に浸っている場合ではないのだが。
「説教するにきまってる。とにかく、その、バカとかつけるのやめないか」
「はィ!?誰にむかって口聞いてんのよ」
妻の遺伝子が強く受け継がれた雅はとんでも小娘に成長していた。この様子じゃ、学校では更に酷い状態であったのは想像に容易い。教師を国の社畜奴隷とでも呼んでいたのだろう。同じあだ名を考えた人を一人知っている。
「お前こそ、口の利き方をわきまえなさい」
「ただのATM如きが何様!?」
おうおう言ってくれるじゃないか。父親をATMだと。ほうほう。もう、二度と小遣いは無いと思えコンチクショー。可愛くねだっても二度となんも買ってやらないからな。
「お前」
「そのお前ってのやめてくんないーい?誰かが考えたキラキラネームで呼んでもらってもいいですかー?」
ぐうの音もでないとはこの事である。確かに若気の至りで、雅というキラキラネームをつけたのは他でもないこの俺だ。人生を左右する名前に雅・・・。きつすぎる。俺が会社の人事なら一発でおとすし、私立に受からなかったのも、この俺が考えたキラキラネームのせいだと断言できよう。だからと言って、ずっとそれを根に持ち続けるのはどうだろう。人生、悪いことだらけじゃない。雅って名前はその・・・、そう個性的で、独創的じゃないか!?
「すまん」
「分かればいいのよ。さ、パパ、帰りになにか食べて帰ろ。私、お腹へっちゃった」
もはや父親としての威厳や尊厳は消えた。犬として生きていくしか、俺には道はなかった。
いや、あの時は本当にいい名前だと思ったんだけどな・・・。やっぱり姓名判断とかに頼っておくべきだったな。