~朝日なんか登らなきゃいいのに3~
早上がりどころではなく、遅刻した上に早退を余儀なくされた。
今の気持ちはもはや泣きっ面に蜂の一撃をくらって、タンスの角に小指をぶつけて骨折したくらい、もんどりうっている。ホームドラマなんかじゃ、母親がいなくなった後は長女が母親の代わりになって・・・などよくあることだろう?むしろ、それを期待した俺のどこが悪かったというのか。そもそも、預けている間くらいはきちんと面倒見るのが、学校の努めだろうが。
しかたなく、俺は上司のつばの飛ぶ説教をくらって、学校に取って返した。
娘―――長女の雅は小学6年生で近所の小川小学校に通っている。いつも、俺が帰り道に通っている場所だ。
小川駅からはすぐなので、とにかく、一番早い電車に飛び乗って、小川駅を目指す。
昼過ぎくらいだからだろうか、誰もいない列車はいささか、不気味な気がした。
というか、いくら昼過ぎといっても、快速列車に一人も乗客がいないとはおかしくないか?
ここで、俺はようやくなんとなくだが、異様な事態が起こっている事に気がついた。
そう、異常なコスプレした変な子供が乗っていた事に。
あ、なるほどね。誰もこの列車に乗らないわけだ。
てか、親御さん、子供ちゃんと学校に通わせてますか!?育児放棄ですか!?ネグレクトか!?
今は授業中だろ。早めに学校に戻れ、子供。あー、まあ、こんな格好で学校に行けと言われた子供の気持ちもなんとなく察するので、俺は何もいわないでおこう。うん。逃げもしないぞ。
自分が究極的な災難に遭っていても、腐っても二児の父親だ。子供の気持ちやなんかは大切にしたいと思う。まあ、さっきまでは度し難いほど娘たちの事を面倒がっていたが、今はなんというか、気持ちが持ち直した。今までやってこなかった分、むしろ頑張ろうと思うくらいだ。コスプレ少年、ありがとう!!
「ふふ・・・、おじさん、変な人だね」
ん?俺はなにか少年に言っただろうか?いや、別に何も言ってはいない・・・はずだが。
いや、もしそれで、少年の心が開けたのなら、むしろ、おじさんはそれでいい。
「妻ちゃんさんが何となく、この人選んだ理由わかるなー」
ちょお、待って。今『妻ちゃん』と言ったか、少年よ。
昨日知った事実なのだが、妻はバカ丸出しのハンドルネーム『妻ちゃん』を使っている。(全国のハンドルネーム妻ちゃんには謝罪する)とにかく、その名前と、その格好といい、まさか・・・。
「おじさん、僕はランド:エアフォースの最後の鍵守エステス。あなたの奥さんをエアフォースに招待した・・・神様かな」
もはや、信じられない事が起こった。もう昨日の夜から驚かされっぱなしだから、大抵のことでは驚かないとは思っていたが、小学生の時点で厨二病とコスプレを併発している子供を見つけるとは。
神?冗談じゃない。俺の妻が異世界だがMMORPGだか良くわからん世界に行ったのは、よくわからん超常現象のせいであって、神などというあやふやな存在によってではない。いや、例え神のせいだと仮定したとして、だからなんだと言いたい。
「あなたが・・・、あの人の答えだから」
自称神様は意味のわからない事を言って、寂しそうに目を細める。
とにかく、こんな事を言っていたら、友達もできんだろう。痛々しいからな。
俺はそう思って、自称神様、エステスに目線を合わせるように、しゃがみこんで言った。
「大人をからかうな」
そう。まずはこれが大前提だ。子供は大人をからかって遊ぶな。大人は大人なりに大変なんだ。年食ってから思うと、子供の頃にしていた事は、大人になってから帰ってくる。だから、まずは人をからかってはいけない事を教えなきゃいけない。
確かに、昨今の教育は知らない人からモノをもらっちゃダメだとか、他人が怒るとキレるモンペなどいるが、俺はちゃんと言いたいね。悪いことしたら、子供は素直に怒られるべきだ。
「それから、その服装じゃ、学校行きにくいだろ、おじさんが新しい服を買ってやるからついてこい」
確か、小川駅から少し歩けばショッピングモールがあったはずだ。去年、あそこで娘達と妻の浴衣を買ったから覚えているが子供用の服も置いているはずだ。
俺は有無を言わさず、子供手を取って、小川駅におりた。
「あ・・・」
子供、いや、えすてすだっけか?は、不意をつかれたように驚いて、そして、小川駅に足をつけた瞬間、いままでの事が嘘のように手に体温が宿った。
「来ちゃった・・・現実世界」
もしかして、引きこもりだったりしたのだろうか?だとしたら、久しぶりの外は異世界に映るだろうよ。
とにもかくにも、雅を連れて帰って説教しなければならん。ここは父親としてはっきり、きちんとけじめをつけておく必要がある!