~朝日なんか登らなきゃいいのに1~
朝がきた。眠れやしないと思っていたが、案外、人間は現実逃避したい時ほど眠れるのかもしれない。
そうだ!昨日のことは全部悪い夢で、実はしこたま酔っていたせいなのかもかもしれない。
意気揚々と俺はリビングのドアを開けた。
しかし、そこには依然として最悪の現実が待ち構えていた。
「おっはー」
「まま、おはー」
「和穂ちゃん、ねれた?」
「うん。ひとりでねんねできたよ」
「さっすが~」
愛娘の和穂とテレビ画面の妻が楽しげに会話をしていた。
朝日がとんでもなく忌々しい。むしろ、朝日なんて登らなければいいのに。
妻は俺に気がついたようで、こちらに視線をむけて、「おはよう、ゆうくん」と声をかけてきた。
夢ではなかった事に愕然としながらも、時間は待ってはくれないので早速、朝ごはんの調理に入る。
トースターでパンを焼きながら、目玉焼きを作り、一緒にベーコンも焼いておく。
日課になりつつあるインスタントコーヒーを適当に作ると、食卓に並べて、愛娘二人を呼び出す。
「雅、和穂、朝ごはんだぞ~」
雅が長い髪を結い上げもせず、くちゃくちゃ状態でリビングのドアをあけて入ってくる。
昨日の事もあってか、こちらには目線すらよこしもしない。
あくびをしながら、首筋をポリポリとかいて、いつもの席に座る。
和穂は相変わらず、妻ときゃっきゃと遊んでいる。
そんな和穂を抱き上げて、席に座らせると、今度は和穂からブーたれた言葉がでてくる。
「ままといっしょがいい」
そりゃそうだよな。家と会社しか往復していない俺なんかより、妻と食事したかろう。
悪いが今は我慢してくれ。
「あのさ、ぱぱ。これ、焦げてんだけど」
席に座って、開口一番、雅が料理にいちゃもんをつけてきた。
今まで妻の料理を食べてきた雅にとってはとんでもないゲテモノ料理に見えるだろうよ。
なんと返したらいいのかわからない。雅は絶賛反抗期真っ最中なのだから。
「あー、悪い。次からは気をつけるよ」
とにかく、こちらに非がある以上、反抗期だろうと謝っておく。
決して、娘に嫌われたくないからとかではない。
「ゆうくん、がんばれー」
と、テレビ画面の妻は呑気に焼き魚を食べながら、応援してくる。
おいおい、その焼き魚はなんだ!こっちは必死で目玉焼きを作ったと言うのに。
妻は美味しそうに焼き魚を食べて、デザートのプリンに手を伸ばしている。
それをみていた、雅と和穂はふたり揃って言った。
「ママと一緒のやつが食べたい」
「ままとおなじのがいい」
あー、そうなるよな。そうなりますよね。父親が作った得体の知れない焦げた目玉焼きとベーコンより、美味しそうな焼き魚とプリンの方がいいよな。当たり前だ。
イヤミかコンチクショー。
「雅ちゃんも和穂ちゃんもパパのご飯食べなきゃだめだよ~。これは、ママのぶんでーす」
こうして、今日も賑やかすぎる我が家の食卓はなんとか終わった。
俺は遅刻&ブーイング覚悟で和穂の弁当を作り、和穂を保育園に送り届けて、会社に向かった。
当然、遅刻。もちろん、会議も遅刻しておじゃんである。