~妻の家出先3~
あれから数時間たった。
娘達にごはんを提供し、和穂を風呂にいれ、雅の風呂嫌いをなんとかして、風呂にいれ、洗濯機を回して、食器を洗い・・・、とにかく、俺は現実逃避をした。
しかし、妻はテレビ画面の向こうで、淡々と魔道士の仕事をしているようだった。
見たくない。だが、しかし、見てしまう。
見た瞬間にやっぱり、現実か・・・と、落ち込む。
これを何度繰り返したのか分からない程だ。
少しの救いと言えば、和穂が妻を恋しがることはなく、むしろ魔法を使う妻に釘付けになっていた事と、長女の雅が現実として受け入れていることくらいだろう。
いや、むしろ、何故に娘達はこんな荒唐無稽な話をいとも容易く現実と受け入れられるのか!?
その答えは雅が簡単に説明してきた。
「パパさ、ニュース見てないの?」
長い黒髪をドライヤーで乾かしながら、雅は不機嫌そうに言った。
ああ、若い時の妻にそっくりなその表情と態度。学生時代にも同じ態度で校長を殴ってた事を思い出させる。
とにかく、雅の話によると妻のハマっていたMMORPGに不思議要素満載のメールが送られてきて、そのメールにたいして、イエスと答えると、そのMMORPGに吸い込まれてしまうらしい。
なんでも、全国規模で起こっている超常現象で、管理会社がやっきになって原因を追求しているらしい。
「てかさ、パパのせいじゃん?」
不機嫌な眼差しのまま、雅が俺を睨みつける。
それに同意するように和穂までも同じように「ぱぱのせー」と言ってくる。
娘達よ。一体、俺のどこが悪かったというのか・・・。
「気づいてないとか、マジでないわ」
救いようのないバカを見るような蔑みの目で、雅が俺を見る。
こんな娘に育てた覚えは俺にはない。
「おい、雅、父親にむかってなんだその口の利き方」
「はあ!?今更、父親ぶるの?ちゃんちゃらおかしいんですけど」
こういうのはちゃんとしつけておかないと、将来ろくな大人にならない。
俺が手を挙げようとした瞬間・・・。
「だめーーー!!」
何事かと思えば、妻がこちらにむかって、大声をあげていた。
先ほどの冷たく、氷を思わせるような魔道士の姿で、いつものような妻の言動にいささかギャップがあってついていけない。
「ゆうくん、女の子に手をあげちゃダメ。雅ちゃん!お父さんの事をそんなふうに言っちゃダメでしょ」
「だって、ママが家出したのもパパが原因なんでしょ!?」
「うん。でも、それとこれは別。雅ちゃん、パパに謝れる?」
「誰がこんなクソ親父に謝るか!二度と顔見せんな!!バカ親父!!」
そう言うなり雅はドライヤーを俺に投げつけて、濡れた髪のまま、自室へと戻ってしまった。
妻はため息をついて、肩をすくめた。
「悪いけど、ドライヤー持って行ってあげて。部屋の前においてくるだけでいいから。多分、あの子も反省してるし、髪の毛濡れたままじゃ風邪ひいちゃうから」
「わかってる」