~朝日なんか登らなきゃいいのに6~
三時ジャスト。携帯電話が恐ろしくがなり立てるのをサイレントモードにして無視してから、俺はエステスと自分の娘―――雅を連れて、小川駅のそばに建てられた交番に向かった。
俺は誘拐犯ではない。そう自分に言い聞かせながら。傍から見れば、間違いなく誘拐犯だが。
交番には警察官が一人、ボケっと突っ立ているのが見えた。
おや、暇そうで何よりです。俺は極めて人の好さそうな笑顔でもって、警察官に話しかけた。
「あの、迷子になっていたようなので、保護をお願いします」
警察官は俺の言いたいことをわかってくれたようで、色々と聞かれたりはしたが、とにかく、列車で迷子になっていたとかなり苦しい言い訳をして、エステスを警察官に引き渡した。
エステスはと言えば、じっと俺を見た後酷く怖いことを言ってきた。
「捨てるの?」
おいおい、それじゃ俺が子供を捨てに来た父親みたいだろ!?警察官の人ももはや疑いの眼差しだ。
いや、あのえっと、多分誤解が生まれてますよ。
「あの、誤解です。俺には娘二人しかいないので」
なんなら、家に帰って保険証を見せてもいい。俺の扶養家族にエステスの名前はない。っていうか、俺は自分の息子につける名前を決めていて、その名前はエステスじゃない。とにかく、ご近所で不倫だのなんだのと事実無根の噂を立てられては本当にたまらんので、ここは雅大先生になんとかしてもらおう。
と、俺は雅に向かってちらりと視線を向けると、ため息をつきそうな顔で雅は口を開いた。
「うち、娘二人だけなんで、パパの言ってること間違いありませんよ」
流石だ。パーフェクト。雅の言葉によって、警察官は俺へ疑いの眼差しを向けるのをやめて、「わかりました」と言って、エステスを預かってくれた。じゃあな、あばよ!エステス!コスプレさせる親だったとしても、流石にこれで懲りるだろう。大丈夫、人生それなりに色々あるってもんだ!頑張れよ!
こうして、俺はエステスを最寄り機関に届けて、早めに和穂を迎えに行った。