#5 ステップ
▼ステップ
樹達が、白虎捜しで青森空港から東京に向わんとしている頃、朔夜達一行は広島駅を出て大阪に辿り着こうと言う頃であった。
大阪……ここは叶の産まれ育った土地。何事も無くいつも流されているであろう、駅のアナウンスが聞こえて来る。朔夜はちょっと気になり叶が座っているシートの方を見た。叶にしてみれば、この土地から始まった五行捜しの旅。朔夜自らもこの土地に足を向けた。直紀と共に。
一体この五行捜しの結末は?意味ありげな謎の怪文書…予言。それは何を告げたいのであろうか?時々思う。この旅の先、本当にこの日本を巻き込むような事象が巻き起こってしまうのか?ならば、集まる以前に放っておいた方が良かったのではなかろうか?集合する危険性。それがもたらす先……広島で出逢ったハーム。そして夢に現れたハームもこれからの事を何かしら言いたげであった。『今は休め』と言う事は、この先何か重大な事が起こる前触れに対処するように…とのことなのかも知れない。色々考えが巡る。
雅樹より先に仲間捜しをして、これを阻む。そうする事が良策だと考えたからこそ、今、皆はこの場所にいる。分かっていても、今自分が造り出している影から手が伸びて来て、引きずり込まれそうな印象を、感じずにはいられない。何も案ずる事の無い平和に落ち着いたこの明るい今の状況下。だからこそ、よけいに不安になる。
「どうしたの、朔夜ちゃん?」
背後に座っているかえでが、物思いに耽っている朔夜に声を掛けて来た。
「え?」
自らが静かである事は、性格上判り切っているだろうに……かえではそれでも問いただして来た。
「だって、上の空って感じだもんね?」
今度は、水城が声を掛けて来る。小柄だから靴を脱いでシートに乗っかって身を乗り出すようにしていた。ちょうど潤の頭の上に顔を覗かせている形である。
「潤君?朔夜ちゃんとお話でもしたら?」
「え?」
ちょっと困った顔をしている潤にかえでは今度は話を振り始めた。余りにも静かな面々がここに居座っているのが可笑しいとでも言いたげである。確かに。だけどこれが一番居心地が良いスタイルだ。
それに反して、叶と直紀の席は賑やかである。あれは、叶の場合、暇が有れば何でも話をしたがる性格だから致し方ない。読書に勤しんでいる直紀を道連れにしている。
高校時代からそうだった。あの二人は或る意味ボケと突っ込みを演じていた。
もちろん、叶がボケ役。直紀が突っ込み。で、自らはそれをサボートする仲介役。その場所に位置しているのが一番自然だった。なんて昔の事を思い出して朔夜はクスリと笑った。
「僕達はこのままで良いんですよ?かえでちゃん」
「そうじゃとも。このままで良いんじゃ」
朔夜と潤は顔を見合わせて笑った。
それに対してかえでと水城は顔を見合わせて不思議そうに小首を傾げた。それは、それで楽しいのかとでも言いたげな表情だった。
そう、かえでと水城もワイワイ遠足にでも来ているかのように騒いでいた。で、前二人が静かなのが疑問で仕方なかったのであろう。女の子にしてみればこの男達の様子が不思議で堪らないのだろう。
「せっかくの旅行だよ?もっと楽しく行こうよ!」
不満だったのだろうか?かえではヤケに要求して来る。
「旅は何の為にしているんじゃろうか?」
潤は逆に問い返していた。まるで、問答のようである。別に険悪になるような問い返しでは無いけれど、聞く人によったらこの言葉は邪険に聞こえるかも知れない。だから、
「かえでちゃん?旅行は色んな楽しみ方が有る物だと思われますよ?人それぞれではいけませんか?」
朔夜はやんわりと話を切り出した。これで分かってもらえたら有りがたい。
「う〜ん。確かにそうだよね?」
かえでは少し考えてから、そう言った。取り合わせがそうなってしまったんだと思う事にしたのだろう。静かにその場を引いた。その様子を見て、水城も元のようにシートに着く。
暫くしたら二人の笑い声が聴こえて来た。別段気を悪くした様子は無い。流石のかえでも、余計な押し売りはこの二人には必要は無いんだと理解したみたいだった。
朔夜は、ふと横に座っている潤を見た。外の風景を楽しんでいる様であった。それもそうだろう。こんな風に外の風景を見る事で、眼に映る物から、今の日本がどうなっているのか実感出来るのだから。
それを確認した朔夜は、徐に今度は自ら持って来ていたノートパソコンを開いた。そして、自分宛に届いてないか?いつも日課にしているメールの確認を始めたのであった。
その頃には、叶と直紀達も落ち着いて、自分達の時間を過ごし始めていた。直樹は読書。そして、叶は、あれだけ爆睡したにも係わらず、シートに頭を寄せて眠りに入っていた。