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#4 西へ

▼西へ


 荷造りを弟子に任せ、よし乃は終に雅樹と泊について行く事になった、ここ恐山下。凍てつくような風は吹いて無く、穏やかな冬の一日の始まり。

 昨日は、逆指定されて、苛立った。でも、こうなった限りは白虎なる物を捜し当てなくてはならない。分かってはいる。ならば早くそうしなければと思っていたが、突然の事の成りゆきに、肝心のよし乃の支度が出来て無かった。ので、一日あの小屋に泊めてもらい、支度が済んだ今朝、出発となった。  

 しかし、よし乃の姿は流石にイタコとしての服装ではまずいと判断し、雅樹自ら持っている男物の皮ジャンとセーターとジーパンを貸した。丈が少し長いが、よし乃が普通の女性よりスラリとしているが、大きな体つきをしている為みっともない着こなしにはならなかった。そう、男性の着こなしがある意味一段と色っぽさが増した感じに見受けられる。こう言う事になったのは、肝心のよし乃が、一切私服を持ち合わせていなかったからであった。

 山下からタクシーを拾い、最寄りの駅で電車に乗る。今度は当て所も無い旅となった。雅樹は依然とイライラとした感情を引きずっていた。身柄は確保出来たものの、白虎捜しなんて大いに荷が重かった。まるで竹取物語の一説である、男達に自分が重なって感じられたからであった。無理難題を押し付けて、自分は安全地帯に逃げ込んでる調子の良いかぐや姫。その求婚者の一人では無かろうか?悶々とした感情が渦巻いてた時、

「よし乃さんのその入れ墨は、目が見えないのにどうやって彫ったんじゃ?」

 突然泊は不思議に思ったのか……よし乃自身に訊き始めたのである。

 そう言えばその通りである。盲目の彼女が、虎と言う事をどうやって知り得たのか?それに、虎を彫るように言ったのか?だとしたら、また何故?

「あたいは生まれつき目が見えなかった訳じゃありませんよ?中学生になった時に視力が低下したんですの。もともとイタコの才は持っていたのですが……まさかこんなに完全に見えなくなるとは思ってはいませんでしたが?」

 よし乃は、余り過去の事を語りたくは無さそうだったが、訊かれた事に正直に答えた。が、意味ありげな笑みを携えていた物であるから、どこ迄本当の事を語っているのかは半信半疑に思える。

「自らの宿命に従う……なんて、余り気持ち良く無いでしょ?入れ墨にしてしまおうかな?なんて少し反抗してみたり……」

「宿命?イタコと言う職に就くって事がか?」

 泊は、少しだけ同情した。宿命、運命なんて物に縛られて生きて来た自らを思い出したからである。

「……二の腕にあったのは……本当は痣だったんですわ。虎模様の痣。小学校時代、半袖を着る事が嫌でしたわね〜チラチラと硯かれる癒が不気味に感じられたし、目につく所にあるものだから、不審げに尋ねる者もいれば、見て見ぬ振りをする者も居たから余計にね〜」

 イタコになった事には触れないで話を続ける。まるで独り言を言っているかのように。

「あの頃は女としての意地で長袖を着る事にしたものですわ?完全に目が見えなくなった頃には、いまいましいから入れ墨で誤魔化す為に彫ってもらったし。痣よりはマシかなって思えましたもの……それに……イタコとして生活すれば、彫り物が見える事もありませんし?」

 ツラツラとよし乃は語りはじめる。しかし、イタコは、朝夕水垢離みずごりもして修行をするはず。その時は、周りを気にしないのか?あ、イタコのほとんどは盲目なんだったか……話を聞きながら泊は考えを巡らせた。雅樹にはその修行の事など眼中には無い。だから何も訊く必要性は無いと判断し、口を挟む事は無かった。

「でも、痣があったからって、それが白虎とどう繋がるのだ?儂には理解が出来ん」

 それもそうであった。よし乃は何故、陰陽師としての自分を知り得たのか?白虎が関係していると分かったのか?話を聞いている限り、中学校に普通に上がって凡人として生きていたはずである。なのに、何故?

「夢のお告げと言うのは、摩詞不思議な物ですわね〜あたいとしても、その辺りは信じれなかったけれど、信じるしか無い事象と言う物もあるのですから」

「信じるしか無い事象?」

 泊は問い返した。彼女は一体どんな夢を見たと言うのであろうか?次第によし乃の話に聴き入っている自分を感じ始めていた。

「夢は、神からのお告げなのかも知れませんね。そう感じた事ありませんか?」

 興味無く聞き流していたハズの雅樹であったが、この言葉にだけは反応した。以前、自ら行った事と重ね合わせたからであった。

 朔夜、叶と初めて一戦を交えたあの事。

 自らが神のように夢を操り、そして、人の心に囁き掛けた悪意。それは自らが持ちかけた最善の策だった。

夢とは、未だ科学的に解明されていない物である。だから、人の心を自在に操る事ができる強力なエキス。だからこそ、そこにつけ込んで事件を起した。実際、人はその事に魅入り、そして、事件は起きた。

「視力を無くして行く、あたいの眼に焼き付いた最後の映像は、夢でしたわ。今でも見続ける事が出来る、唯一の夢。それが、あたいの出発点でもあり、全てなのかも知れません」

「一体どんな夢を見たと?」

 泊は、出し惜しみしているその事柄を問いただした。

 それを誇らしくそして、自慢げにしながらよし乃は軽く笑った。

「一匹の大きな白い虎が言うのです。動物の声を聴く事は今迄も普通にありはしましたが、この時だけは別でしたわね。語りかけると言うよりは、身体の中から坤きあげる声のようで……そして、言うのです。『視力を失う代償として、俺がお前に憑く』と。『そうすれば、五行の陰陽師とし生き長らえる事は出来る。その代わり、イタコとして今は生きろ。そして、捜し出せ。我が半身を!』夢から醒めたあたいの眼には何も映らなかった。だけど判った事は有りますわね。より先を目指す為には、白虎を捜し出すと言う事なのだと」

 夢の通り、視力を失った。そしてイタコになり、今この時点で白虎捜しが始まった。と言う訳であった。

 皮肉なことだ。もし自分がそう言う一生を送っていたならば、一体どうであろうか?泊は、考えただけでもゾッとする。

 眼が見えないと言う事事態お先真っ暗な感じだろう。それを、イタコとして今迄生きて来たのかと思うと、若いのに気の毒だなと思うしかない。まだ自分の方がマシだと思える。そう、人は上を見るか?下を見るか?そうやって自分の今いる地点をはかる。物差はその辺りにしか無い。比べてどうだ?それしか無いのだ。

「……で、全く当てが無いのか?」

 雅樹は、一部興味を持ったのか?それとも、少しでもこの状況下を打開したいのか?泊りには判らなかったが問い始めた雅樹を見遣った。

「当て?西ですわね〜白虎とは西の守護神で有りましょ?あたいは青森から外に出た事の無い身……学校で習った地理でしか、名前を見知る物は無い。ですわね?」

 よし乃は、それだけ言うと、黙り込んだ。もしかしたら、見えない闇の先にその場所は判るのでは無かろうか?泊はそんな事を思った。

「西か……ならば、東京から西を目指すか……」

 雅樹は、一瞬考えが鈍ったのか、言葉を詰まらせて小さく言葉を発した。一先ず本拠地東京に舞い戻らなければと。

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