#3 東北へ
▼東北へ
朔夜達一行は、纏まった意見を二度確認した後、直ぐさまホテルのロビーを出た。そして、JR広島駅に辿り着く。この旅の為に決められた席順。一般車両だが、予め問題が起きないようにくじ引きで決められた席、それは次の様で有った。
朔夜と潤と籠の中に入れたミヤ(かえでが付けた白虎の名前)、叶と直紀、かえでと水城と言う取り合わせであった。何となしげに上手く席分け出来たのではなかろうか?と、朔夜は思った。がしかし、そんな中、
「ほら、塚原。約束のものだ!」
直紀が自らのアタッシュケースの中から一つの茶色の紙袋を手渡した。お土産かと飛びついた叶はその中身を嬉しそうに見てみると、中身は冷め切ったさつま芋が三個入っている。
「何やねんこれは!直紀〜おんどれはなめとんのか〜!」
ワナワナと肩を震わせ怒りを露にしている叶に、
「約束だったであろう?俺は嘘をついてはいない。ただ、お前達と逢うのが遅かったのが悪いのだ!俺に非は無いぞ?」
本当は自分で食べようかとも思ったのだが、この待ち続けた時間の勿体無さを知らしめようと直紀は考え付いた。よって、直紀のリベンジは或る意味成功した訳である。
「食べもんを粗未にするなや!ぼけ〜かす〜なんて可哀想なさつま芋なんや〜!こうなったら、オーブンレンジが無いか訊いて来る!」
叶の言葉が周りに響く。そしてバタバタ通路を駆け出していた。直紀はクククと勝ち誇って笑っている。そのやり取りを聞き、やはり間違えた席順だったかと横目で見ながら朔夜は苦笑いした。
朔夜の隣に座っている潤は、ミヤが入ったケージを抱えて大人しく座っている。表情が少しだけ明るくなったかなと、潤の横顔を眺めながら朔夜は胸をなで下ろしていた。初めの自暴自棄な荒んだ表情はそこには無かったからである。
「なんじゃろ?」
朔夜の視線に気がついたのか?急に潤が顔を朔夜に向けてきた。
「いえ……何でも無いですよ?どうですか?こうやって新幹線に乗る気分は?」
朔夜は心の内を悟られまいと、話を切り出した。
「そうじゃな〜何か違和感は有るけども。こんな鉄の固まりで移動出来ると言うのは……でもこれが今の世の常なんじゃろ?」
潤は頭の中に色々と浮かぶ事を整理がつかないと言った感じで語り出した。
「じゃけど、何となくわくわくするし面白いと思うんじゃ……上手くは言えんのじゃが……」
そして、はにかむようにニコリと笑った。
「そうですか。それならば良かったですよ」
朔夜も落ち着いた気分で微笑み返す。
自らよりも年が離れ過ぎているこの少年と普通に会話ができるのは有る意味不思議ではあったが、これが潤の持ち味なのだろう。きっと、今迄の長い時間が潤を育んで来た。人々に愛される性格を持ち合わせていたのであろう。とそう思わずにいられなかった。
「キャーッ!このお菓子、水城にくれるの?」
朔夜の直ぐ後ろを占めている、女所帯の席は遠足にでも行くかのような華やかさで満ちていた。水城がお菓子好きだと言う事に気がついていたかえでは、買いだめでもするかの勢いで荷物として買い込んでいたのである。
「良いよ〜水城ちゃん好きでしょ?お菓子。ポテチとクッキーとチョコレートと……こんなに有るけど、どれが良い?」
「えっとね〜水城は〜」
ガサゴソと漁りはじめる水城に、かえではニコニコと微笑みながら一緒になってお菓子を選び始めていた。
「えーん。選べない〜」
「じゃあ、片っ端から開けよっか?」
かえでは、そう言うなり全てのお菓子を開けはじめる。そして、二人して摘みはじめた。暫くしてから、分け前を皆に配ろうと、
「ねえ〜朔夜ちゃんと潤くんも食べる?」
直ぐ後ろから身を乗り出すかのようにして、顔を覗かせ、かえでが問い掛けて来た。
「え?お菓子ですか?」
朔夜は滅多にお菓子類を口にする事は無い。果物を口にする事は有るが……
「朔夜おじちゃんは、お菓子嫌いなの?」
畳み掛けるかのように、今度は水城が顔を覗かして来た。
「あはははは……では一つ頂きましょうか?和菓子のようなものがあれば嬉しいんですが……あ、潤君も食べますか?」
自分の事もさることながら、一応潤にも声を掛けるようにしようと思う。それが、良い人間関係の運びとなるのだから。そう朔夜は思っていた。
「和菓子ね〜朔夜ちゃんはお茶受けが好きだものね?お煎餅買ってたかな?潤君は、チョコレートとか食べてみる?美味しいよ?」
ガサゴソ、買い溜めたお菓子類をかえではまさぐっていた。そんな時、
「あっ!何や美味しそうなものがあるやん!俺にも頂戴な〜!」
底抜けに明るい声が後方から聞こえて来た。言わずもがな、叶である。
「あんたにあげるようなもんは、一つも無いのよ!」
かえでは、ツンっと顔を背ける。
「酷いいわれ様やな〜俺はこの可哀想なサツマ芋が食べれんで、悲しい思いをしとるんやで?それを……全ては直紀が悪いんや!あの男は食べ物を何やと思っとるんやろか!」
茶袋を鷲掴みにして喚き散らしている叶。そこに通路を通ろうとしている、車内販売の女性が、困り顔で叶の前にいるのに気がつき、
「塚原。お前、邪魔!」
直紀が、叶の腕を取って席に座らせる。車内販売の女性は少し困惑した表情で、各々に注文が無いか聞いた後、そそくさとその場のワゴンを転がして去って行った。
朔夜と潤は、日本茶。叶と直紀はコーヒーを、そして、かえでと、水城はミックスジュースを頼んでいた。それは、和気あいあい?な旅の始まりであった。