答え 1/10
夜風に当たりながら男は酒を呑む。
天には月、山肌を覆う木々、月の光を映す湖、遠くに街の光。
男はただ、杯を片手に景色を見ている。
『回ってしまった歯車は、どれかひとつだけをとめる事ができない』
かつて言われた言葉を思い出し、口元が緩む。
小さな妹が、集まった兄弟に言った言葉。
哀しそうな様子で言葉は続く。
『始まってしまったことは、とめられないし、とまらない』
あの時、もう一人の妹は彼女のそばで、弟は自分の横でその言葉を聞いていた。
『その先にあるのが破滅か希望か、行き着くまではわからない。でも』
哀しそうなまま、そこまで言った小さな妹が顔を上げる。
まっすぐに長兄である自分を見る。
『この世界が好きだから、破滅はいやだなって思うの』
小さな妹が好きだと言ったこの世界が壊れるような、自分たちの望まない結末になることだってあるだろう。見守るだけになるかもしれない、ただ見届けるだけなのかもしれない。
酒のすすみがはやいのは、離れた兄弟を思い出したからなのか。
ビュービューと吹く風は相変わらず冷たい。
あの時自分が返した言葉は小さな妹に届いたのだろうかと思う。
届いていなくても、その言葉がとどまっていればいい。
天には傾いた月、薄明るい山肌、月の光を映す湖、遠くに街の光。
男は杯をおいて立ち上がった。