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The call of darker ㉑

「結局のところ、全部成り行きになっちまった訳だが。取り敢えず戦闘準備をする前に、アンタの手帳……《情報の保管庫》とパスワードについて説明してくれ。コレなに?」


 ダルクは赤い手帳をオクタに投げ渡すと、真面目にそう言った。理由としては自身の知らない魔法陣や幾何学模様ばかりで興味だけが先走っているからだ……。が、しかし口元はほんのり笑みを浮かべているあたり、面白い事でも期待しているようだ。

 一方で、ライラは《情報の保管庫》という台詞に反応するも口を開く事は無かったのを……リアは不思議に思いつつ。


 手帳を受け取った彼は『少々、長くなるので早口になるが……』と前置きして。


『この手帳には、私の魔力の一部と記憶の中にある数少ない魔法の情報を刻んである。狙いはヴァルディアに捕らわれた時に、この魔法の存在を知られないようにする事。そして《契約》した者に譲渡する為。パスワードは察しているだろうが……レイア、君の名前だ』

「へ? 僕?」

『私が信頼に足ると判断し、闇に堕ちる事は無いと思った優秀な魔法使いを対象にするよう設定した。

 つまりは、まぁ君に。私の魔力全てを込めた、ある魔法を託したいんだ』

「リアからの説明で大凡、何を言っているのか分かるっちゃ分かるけど……君が使うんじゃ駄目なのかい?」

『言ったろう。これは信頼の証であると、そして私が死にたくないが為に見つけ、思い出し、構築して隠した物だ。ついでに……この魔法は人でしか扱えないものでな。結局のところ、知っているだけで私は使えないんだよ。そして作ったのは遠い昔の人間だ。元となった魔法の原本は、マリアナ海溝の中腹辺りにある遺跡に沈んでいる」


 オクタはそう説明してから、手帳と万年筆、それからパスワードの紙をレイアに手渡した。


『それからあの繭について説明しておこうか。レイア、君の魔力と人間性が私に蓄積される際に、私自身に残った清い魔力をあの繭に残したんだ。あそこならば監視もあり、魔法による侵入対策もバッチリだろう? それに繭自体は私の覚えている魔法でも1番の防御力を誇っているのでね』

「成る程?」

『そして今しがた、繭より魔力を回収してきた。だから出来れば……澱みに勘づかれる前に起動して欲しいのだが』


 オクタは、テーブルに紙を置き、万年筆を器用にペン回しをしながら赤い手帳を捲っていたレイアに言った。レイアは「分かってるよ、けどね……」と呟きながら。


「未知ってのは、誰しも怖いものなんだよオクタ君。僕が君に初めて出会った時も、最初は恐怖を感じたくらいにね。だから、せめてどんな魔法が起動するか教えてくれないかい?」


 普通に当たり前の疑問であった。同時に、良い魔法使いの思考回路をしているとオクタは思いながら、頭の中に声を送る。


『手帳に封じた記憶、それは魔力で形成される《槍》だ』

「……槍? なんで槍?」

『形状に関しては私自身も理由は知らない。ただ、この魔法の正式名称は《イースの落槍》という』

「全く知らない名前だね。イースか、なんでその名前なのか分からないけど。どの道は僕しか起動できないならやるしかないか」

『怖くないのか?』

「未知とは恐怖であると同時に、蠱惑的なものなのさ」


 すんなりと受け入れ、レイアはパスワードの用紙に自身の名前を素早く書き込んだ。すると、オクタから眩しくない光量の白い魔力が溢れ出し、手帳に流れて行く。


 手帳はオクタの魔力に反応すると、ひとりでに開き、1ページ毎に刻まれた魔法陣を空中に浮かび上がらせる。どこか魔法とは違う、そんな浮世離れした構築の様子に見入っているうちに、魔力が急速に一点へ収束すると、一本の槍を形成して行く。


 白色で淡く光り続ける、先端にあたる穂には厚めのブレードが付いており、無駄な装飾の無いシンプルな槍が完成した。


 ただ、槍の銅金部分には……見たことの無い象形文字が細かく刻まれている。


 つまり、『文明』の残り香があるという証明だ。しかし歴史好きの自分も見た事の無い文字は、ちょっと……いやかなり気になる。

 レイアですら気になるのだから、側で見ていたティオの好奇心は天元突破した。


 本当なら、もっと情報共有や作戦を練ったり、武器を用意したりしたかった。


 だが、この槍の形成によってか事態は急速に展開し始める。

 日が落ち始めたのかと思うほどに、雲によって辺りが暗くなり始め、波の音が異様なくらい大きく響き始める。パラつき始めた小雨が、海を喧しくしていく。


 目に見えた海の変化に、全員の顔色が変わる。そんな中、どこか蚊帳の外であったライラがテキパキと指示を始めた。


「じゃあ討伐しに行きますか。私の家を守る為に。その槍の扱いについては、レイアに任せるしかないから……じゃあ援護はリアとダルクに任せる」

「まてコラ、サラッと前線に立てって言うな」

「でもお前なら行けるだろ?」

「そう信頼されると断り辛いじゃん……」

「精一杯頑張ります!!」

「ティオは水薬とかの救護準備をしてくれ、負傷は想定の範囲でいい。私はそうだな……遊撃に徹するとしよう。あとティガ、念の為に国に納品する予定だった電磁砲をいつでも撃てるようにセットしてくれ。照準の修正は専用の演算プログラムを使えばいい」

『納品予定のアレを? 宜しいのですか? 1億もする装置を勝手に使って……』

「ドローンカメラを無数に飛ばして映像を記録する。魔物討伐に用いた証拠があれば国も文句は言えないだろう。ま、見た奴の精神異常の有無は知らんがな」

『……結構ドライですね。まぁどちらにせよ私に断る権限は有りませんし、了解しました。準備が完了次第、シストラムの調整にも入ります』

「完璧だ。あとは……精神安定剤か気つけ薬なんかがあればな……」


 そう呟いて悩む彼女に、オクタは何処からか、指輪らしきアクセサリーを全員分取り出した。レイアは、その指輪の材質があの繭と同じ物だと気がつきつつも。


「オクタ君、これは?」

『精神を安定させる効果と、半径50mの空間干渉を妨害する指輪だ。要は《門》などが近くに現れなくなる効果とでも考えてくれ。これは……私に人間性をくれた彼女が作り方を教えてくれた』


 器用に触手で手渡していくオクタに、受け取ったライラは不敵に笑いながら言った。


「なるほど、中々良いなこれは。んじゃ、作戦概要は以上。取り敢えず全員、指輪を装備して駆け足だ。急げ急げ!!」


 ライラの普段聞く事の無い、妙に気合の入った号令に、各々が返事をするのだった。


………………


『マスター、何故、自分までも戦闘に参加なさるので?』


 ティガは大凡、この場の戦力を把握している。だからこそ、ライラもどちらかといえば遠距離からの援護に徹した方が良い。なのに、自分から戦うというのだから……意外に思いながらも心配しての言葉だった。


 そんなティガに、ライラは深く溜息を吐くと。


「良い機会だからだな。私の操作次第にもよるが、この戦闘はシストラムのプロトタイプを各国に売り込む為のプロモーション映像に役立てる」

『プロモーション映像ですか。シストラムをお売りになるので?』

「オリジナルよりも性能は落とすがな。グラル・リアクターもお前の制御プログラムだけを移植すれば稼働できそうだし。それになにより、魔導機動隊に存在を知られた以上、無理に隠し通すと社名に傷が付く。それなら自身から売り込んだ方が良いだろ?」

『……理由は分かりました。確かにその通り、各国では少なからず動きがあったようですね。あくまでもネット上の情報ですが。しかしマスター、シストラムは充分に魔法使い相手に通用すると思いますよ? 軍用にと考える人間が現れるのでは?』


 高機動で動くロボット兵器など売り込めば、どうなるか。そんな心配を浮しているティガの頭をライラは指で撫でながら。


「連合国は下手に軍を待てないから大丈夫だ。だから主に魔物討伐や救護兵器として売る事にしよう。あとリアクターは特許取得済みだし、搭載の際に周りのロックを強力にすりゃいい。武器の搭載も必要最低限だけスロットを設けるさ」

『……それならば大丈夫そうですね。特にリアクターを解析されると厄介ですし。しかし、こう改めて考えれば考えるほど……人の社会は面倒ですね』

「だから人でもあるって言えるんだが同感だ。さて、話は変わるがブレードの取り替えは終わってるか?」

『完了しています。しかし、あのスライムは魔力を吸収するのでしょう? 大丈夫ですかね?』

「指輪の効果を信じるか……もしくは、持論を今から行動で証明、検証して良い結果を願うしかねーな」

『持論?』

「ティガ、AIのお前は……何処から何処までが『魔法』だと思う?」

『科学と魔法が入り混じった現在では、中々に難しい問いですね……。例を挙げればキリがありません』

「そうだな。だが、例えば魔法で着火した炎を薪に移した場合、燃料になるのは……」


 そんな考察や会話をしながら、2人は出撃ドックに向かって歩いて行った。


………………


「丸投げされた感がぱねぇんだけど。つーか、あのきっしょいスライム、魔法が効かねぇのに……どーすんの? 2人はさ?」


 ダルクのもっともな問いに、2人も少し困り顔で応える。


「僕は……本物の西洋甲冑との魔力接続が出来なければ、この槍で突撃するしかないかな……。《門》は指輪の効果で使えないし」

『私は水の魔法ならば多少使える。海の水を使って、高圧水流のカッターで削りながら、主人を援護しよう』

「俺は結界使って、高い位置から立ち回るかなぁ。魔力を吸収する以上《境界線の狩籠手》の構築が保てるとは限らないし、魔力消費もキツイから使うのは躊躇う。ので当分は、近くに落ちていた、この鉄パイプでしばこうと思います」


 リアは2メートルほどもある鉄パイプを肩に担ぎ苦笑いする。その姿に、ダルクは乾いた声で笑ってから。


「プランもクソもねぇな。ってかライラの奴サラッと無理難題を言ってくれるぜ。戦場は海の上だってーのによ。私は水を凍らせて足場にするつもりだし、リアっちは結界を足場にするから良いとして、レイアはどうすんの?」

「それなんだけど、実はオクタ君と契約して以降、足裏に魔力を込めれば水の上、走れるんだよね」

『私の加護のようなモノだな』

「マジかよ、羨ましいなおい。オクタくーん、私にもその加護くれない?」

『すまない、契約者限定の加護なのだ』

「つっかえ」


………………


 一方、1人だけ戦闘不参加を言い渡されたティオだったが、不満そうな顔で鋼鉄の筒を手に取ると。


「物理攻撃ならば、後方からでも援護が出来るではないか。それに電磁砲の照準は人の手で合わせた方が確実だろう……。全く、かつて煉獄を支配した我をパーティーから外したのは貴様だ、貴様の責任だぞライラ。救護待機なんてやってられるか。水薬なら腐る程に貯蓄してあるんだから勝手に使えばいいじゃないか。我は我で、好きにやらせてもらうぞ!!」


 ハブられた不満をぶつけるように、鋼鉄の筒……RPG7の砲塔に、菱形の弾頭を取り付け武装を開始するのだった。


…………


 槍を作る魔力につられてか、オクタの出現に勘付いてかは分からないが。静かに潜んでいた化け物は、勢い良く海上から姿を現した。蛸のような外見を保とうとしているようだが、側から見れば無数の触手を携える、歪な形をした化け物である。


 そんな化け物……澱みを見た観光客や住人は海から急いで離れ、逃げるように神社などの避難場所や屋内に閉じこもった。


 海側に傾いていた太陽が厚い雲に隠れて、辺りは夕暮れのように仄暗い。また、細かな小雨が降り注ぎ、風に煽られ肌を叩いてくる。


 海は先程の穏やかさを無くし、嵐の前触れのごとく波を打つ。


 しかし、それでもリア達は逆に海へと向かう。

 この町に深い思い入れは無いが、魔法使いとして、倒すべき敵を見据える。人々を守る為に戦うと決め、澱みを睨み鉄パイプを肩に担いだ。


 急展開ではあったが、それぞれの準備はどうにか終わった。


 そして、覚悟の出来た魔法使い達は、迷いの無い一歩を踏み出す。

The call of darker

前編 END

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