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The call of darker ⑮

 棚から抜いた1冊のノートは、酷く経年劣化していた。虫喰いは無かったが、黄ばみ具合から、少なくとも十数年は経っているのではと、素人目でも分かるくらいだ。


 そんなノートの表紙を捲る。そこには文章が隙間なく刻まれていた。

 何処で、何があって、どうなったか……誰が何処で、何をしたとか……。

 そういった日常の文句や笑い事が書き込まれていて、これが誰かの『日記』だという事が分かった。


 ならばと、リアは文の上をなぞりながら、掠れた文字を読みつつ……『数字』を探す。日記ならば、日付の他に年号も書いてあると考えてだ。そして数秒後、年号を見つけると同時に、驚いて目を見開いた。


 52年前。


 丁度、人魔大戦が始まる2年前の日記という事になる。

 リアはふと取ったこのノートを、読んでみる事にした。言葉には言い表せない期待感と、遠い過去の事柄に興味が湧いた。それと、もしかしたらデイルやグレイダーツ、それからクラウ・リスティリアの事。そしてヴァルディアという存在についても何か記述があるかもと考えたからだ。


………………


『7/12

 私は今日で18歳になった。まぁ、だからと言ってとりわけ何か特別な事があるわけではないが、最近サボっていた日記を書こうと思う。

 そうだな……今日も夏晴れでクソッタレな太陽が憎々しい1日だった。そんな中で元気に遊び回れるクラウのスタミナはどうなっているのか。あいつと……あとグレイダーツの奴は時々、自分とは違う人種に思えてくる。あの無駄に無駄な行動力は、はてどこからくるのだろう』


『7/13

 そういやぁ、夏休み前に進路調査の紙を提出しなくちゃあならない事を失念していた。無駄に勤勉なデイルの野郎に「お前なんて書く?」と聞かれ……まぁ、昔からの夢であった考古学か民族学って言った。

 そしたらアイツ、私の答えを聞いて「てっきりボケるかと思ってたんだが。真面目に答えるとか夏の暑さでオツムがやられたのか?」などと喧嘩をふっかけてきたので、足を引っ掛けてみぞうちに一撃入れてやった。今日はぐっすり、良い気分で眠れそうだ』

 

『7/14

 友達として付き合ってきたが、やはりクロムとヴァルディアは頭おかしい。クロムに進路を聞いたら『魂についての研究』ときた。ヴァルディアにいたっては『人の死の近くに居たいから、葬儀屋でもやろうかしら?』と、いつも浮かべている貼り付けたような笑みで言いやがる。

 キモい、この2人はもう……駄目だな』


『7/15

 来週から期末テストだヤッター(棒読み)

 ま、私はグレイダーツやデイルとかの天才勢では無い為、トップを狙ったりなんてしない、というか普通に無理。

 だが、実技も筆記も赤点だけは回避せねば。夏休みだけは欲しいからな。18歳の夏、満喫せねばなるまい。

 あー、あー、クッソ。昨日の日記に散々な言いようで書いたが、この中で1番筆記テストに強いのはヴァルディアだ……。明日から勉強の手伝いを頼んでみようかな』


『7/16

 ヴァルディアとクロムが協力して、人の魔力の流れを色として見る眼鏡を開発していた。テスト前なのに何してんのお前ら? いや、こいつら頭のネジはイかれてるが、頭脳は明晰だから勉強しなくても大丈夫なのだろう。口にはしなかったが、世の中理不尽だぜと憂鬱になった。

 でも、2人ともテス勉に付き合ってくれたのは、ありがとう。心の中で感謝を伝えておいた。心の中で(大切な事なので2度)』


『7/17〜7/30

 テスト期間と夏休み前で忙しかったので割愛。決して日記を付けるのを忘れていた訳ではない』


……………


 1ページ目を読み終えて、リアは感慨に耽った。


「ヴァルディアって奴は魔王とか最強のテロリストだとか言われてたけど、意外と普通の人だったのか? いや、普通の思考回路はしてないかもしれないが。まだ変人の域だよな」


 日記の中の情報だけでは推測しか出来ないが、しかし色んな人と交流しているのは分かる。社交性があり、尚且つあのクロムと仲良く出来ているという事は……多少変わっていても狂っているようには思えなかった。


 そんな事を考えながら、リアはページを捲る……。


『赤点取ったぜ!! クソが!!』


 ノートのど真ん中に書き殴るように、赤ペンでそう書かれていた。リアは(あ、この人多分……残念な人だ)と失礼な感想を抱きつつ、苦笑しながらまた一枚ページを捲った。


………………………


 宮の扉前でダルクは訝しげに首を傾げる。彼女の両手には歪な形をした鉄製の棒が二本握られており……扉を閉ざしていた南京錠が地面に落ちていた。


「……魔法で守られてるって考えてたけど、ロックピックで普通に開いてしまった」


 鍵を忘れた事に気がついたが、魔法が無いならば旧式の南京錠など余裕で開けられる。自慢できる技能ではないが。しかしとは言え……大事な御神体を護るにしては不用心すぎる。

 ダルクは少なくともそう感じた。


「さてさて、じゃあ神様へ謁見するとしますかねぇ」


 丁寧にそんな事を口走りながら、ダルクは勢いよく扉を開く。神様へ謁見などと言いながら、礼儀なんて毛程も無い行動だ。


 彼女は……神様が例え居るとしても、己に対しては何ら干渉する事は無いと考えるタイプの人間だ。だからこそ……どれ程無礼を働こうとも、天罰が下るなどと考えることも無い。

 いつだって、悪い事は過去からやってくる。過去の行いが、未来への道に続いているのだ。だから……全ては己の所為である。だから彼女は、神様が例え目の前にいたとしても敬う事など無いだろう。


 が、今回に限っては半信半疑だが一つの可能性を予測しているからこその不敬な行動でもあった。


「……ないな」


 想像通り、宮の中には『何も無かった』。

 だが、壁や天井、床のいたる所にお札らしき紙が貼られていたり、無数の魔法陣が刻まれていたりしており、重要な場所ではあったのだろう事が窺える。そんな適当な感想に耽っていると、背後からやる気の無い声が聞こえた。


「ダルク、貴様何をしている、とは聞くまでもないな。にしても……やっぱり何もなかったか」


 ハーディスの抑揚の無い呟きに、ダルクは顔だけで振り返る。


「やっぱりって事は、神社の人含めて全員、ここには何も無いって知ってたんすか?」

「……残念、だが正解に近い」

「じゃあ先生の家系の人だけが知ってるって事かな?」

「勘のいいガキだな」

「嫌いじゃないでしょ?」

「私はな」


 ふわりと竹林を風が吹き抜ける。地面に落ちた葉っぱが舞い、静けさが幕を下ろす。それを区切りに、ダルクは話を仕切り直す事にした。


「……突然ですが、私の予想では先生のお母様と、ここの御神体が消えたのは同時期だと予想してるんすけど。そこんとこどうです?」


 ダルクは名推理でしょ? と言いたげなドヤ顔を披露する。そんな彼女に溜息を吐きながら、ハーディスは言葉を濁らせた。


「そうかもな。でもそうじゃないかもしれない」

「……何か隠し事があるなら、詮索はしません。けど、その情報が先生のお母様探しに繋がるかもしれませんよ?」

「いや、隠し事ってほどの事じゃないさ」


 うん? と、ダルクは予想に反した返しに眉根を寄せつつ、話の続きを聞く為に黙る。


「確かにこの場所が管理されなくなったのは母が居なくなった時からだ」

「荒れ具合から見て数年とは考えてました。それで?」

「実を言うと、母以外は御神体を見た事がない」

「はぁ?」


 神社の御神体がどれ程大切な物かは……無神教のダルクとて理解している。だからこそ、彼女の言葉が色々とおかしい事が分かる。

 管理を1人でする意味、家族にも……神社の関係者にも隠す意味、そして御神体が此処には無いが厳重に管理されていた意味。


 解らない、分からない。だからこそ点を線で繋げる為に一つ、ダルクはハーディスに質問をする。

 一つだけあるのだ『御神体』が何だったのか探る質問が。


「その御神体について、先生のお母様は何か言ってました?」

「それは重要な事なのか?」

「『この私が真面目になるくらい』重要です」

「……分かった、別に隠す必要はないしな。ただ、まぁ母が呟いていたのを聞いただけだから確証は無い……」


 そこまで聞いて、人格は抜きに聡明な彼女は、真っ先に頭に浮かんだ存在を口にした。


「蛸」

「そうだ。干からびた『蛸』のようだと……なに?」

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