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The call of darker ⑧

誤字、脱字の報告ありがとうございます。

 眼前に手を翳せば、それに合わせて照準が揺れる。なんとも厨二心の擽られる。

 それからライラの指示にて、リアとレイアは共にメニュー欄を開き『決闘』の項目をタッチ。すると、幾つかのルールを設けた決闘の欄が現れた。


 HP制や、点数制、打点制。ダウンやカウントで決着をつけるものから、一撃で決着を決める特殊なルールもあった。


 これはもう、決闘という古臭いものとは思えない……一種のスポーツのような『競技』へと変化できるポテンシャルを秘めているのではないだろうか。そんな風に思えるくらいのレベルで、この装置が世に出れば古臭い『決闘』のイメージはガラリと変わる様子が容易に想像できた。


 ただ……まだルールに関しては練りが甘いとも感じる。だからこそ、ライラは自分達にモニターを頼んだのかなとリアは思った。


「それで先輩、俺達はどのルールを試せば良いので?」

「正直なところ何でも良いのだが……クライアントの要請で、出来ればHP制ルールのデータが欲しい」

「HP……ますますゲームっぽい感じですね」

「寧ろゲームっぽい方が今の若者にはウケるだろうと思ってな。だが、ダメージ判定はガバガバだ」


 間違ってはいないとリアは頷く。ここまでワクワクするのも久し振りなくらい、リアのゲーマー魂が、それから1人の魔法使いとしての魂が興奮している。


 それはレイアも同じらしく、彼女は「それで、どうやったら開始できますか!?」と詰め寄りながら早く早くと続きを促した。


「押すな押すな。えっとだな、マッチング検索で出てきた名前……そうそう、それだ。互いに押したらマッチングするからHP制を選んで同意ボタンを押せば開始のカウントが始まる」


 言われた通りに操作すれば、30と数字のカウントが表示され、徐々に数を減らしていく。


「うわっ、もう始まった?」

「えっと……離れた方が良い?」

「決闘の開始場所については好きなようにしてくれ。残りあと21秒だ」

「ええっ!? じゃ、じゃあ1学期に決闘したみたいに、互いに距離を取って向かい合う形にしようぜリア」

「オーケー」


 2人して真夏の砂浜に駆け出す。同時に砂浜を駆け巡るようにスキャンのARの線が広がり、視界の端にあるマップが更新される。


(本当にゲームみたいだ、すごい)


 小学生レベルの感想を抱きながら胸をドキドキとさせる。


 そして……カウントが進む毎にHUDの更新も始まり、上にHPゲージらしき緑の横棒と『1000/1000』というHPの数値らしきもの。それから、対戦相手の名前とHPの表示がメニュー欄の下に現れる。


 いよいよ、カウントが10を切った。始まりの合図が迫る事に、心臓の鼓動を落ち着け魔力の巡りに集中して……いたのだが。


 突如、真ん中あたりに『AI:ティガがログインしました』と表示され、その事に驚き集中が掻き消えた。

 そんなリアとレイアのイヤホンへと、平坦なティガの声が流れてくる。


『お2人共、申し訳ありません。マスターより言伝です……「今回はあくまでデータ採取が目的であり、試作機もそれの他に一機しかない為、本気で暴れるな。あとここは公共の場だから、節度ある決闘を」との事。まぁ、周囲に被害が及べば警察沙汰、下手をすれば魔導機動隊も出張ってくると推測されますので、程々に……と提案します。では』


 一方的に素早く言い切ると『AI:ティガがログアウトしました』と表示され、音声もパタリと途絶えた。同時にカウントダウンも0となってしまった。


 なんとも締まらない展開に困り、レイアとリアは互いに目線を合わせるとメニュー欄から『無線通信』を選び、相談する。


「どうするリア?」

「と、言われましても。ま確かに本気で魔法を使う場ではないけどさぁ。足場も砂浜で悪いし……。うぅん、微妙にやる気も削がれた事だし、軽い組手とかでいいんじゃない?」

「組手かぁ……」


 リアの提案にレイアは「いいね」と即座に肯定すると、魔力を巡らせ、前方に大きめの《門》を一つ展開した。


 そして中からゆっくりと鋼鉄の擦れる音を響かせ、一体の西洋甲冑が姿を見せる。

 突然の展開に驚きながらも、《門》で呼び出された西洋甲冑を見る。陽の光を受けるも、ギラギラというよりは鈍く光を歪ませる銀色の甲冑は魔法で作られた質感とは思えなかった。

 《召喚魔法》ではなく本物の西洋甲冑を呼び出した張本人であるレイアは、甲冑の肩に手を置くと再び通信を送ってくる。


「たぶん絶対にみんな一度は考えた事だろうけど、僕はどうしても一つだけ訂正したい事があるんだ。態々《門》で呼び出さずとも《召喚魔法》で充分じゃない? 難しい《門》の魔法で《召喚》するのは非効率だし、あんまり意味無くね? って、みんな《召喚魔法》に対してこう思ってるだろうって僕は考えている。リアも思った事ある筈だ、どうだい?」

「まぁ……」

「だから、今回はこいつを使うのさ!! 《門》で呼び出した西洋甲冑を僕が魔力で操ることで《召喚魔法》に《門》はいらないという先入観を改善してみせる!!」

「あ、はい」


 謎の意気込みに気圧されながらも、リアは拳を構えながら口を開いた。


「んじゃ俺も夏休みダラダラとしてた訳じゃねぇってとこ、見せてやるぜ」


 腰を落とし、右拳を前に、左拳を腰付近で構えた。これが初速の構え、剣でいうところの抜刀の構えのようなものだ。


 ギルグリアから教えてもらったのは、魔力を使った格闘戦術。故に足技もあるにはあるのだが、今回は足捌きと拳技のみである。


 名を『朧戦華術』。


 かつて、月の名を冠した龍が人と戯れる為に作り出したとされ、後に人が魔力を用いた戦闘術として昇華していった、流派の一つだそうな。知名度が無いのは、隠れて継承されていった技で、習得している人物はギルグリアも知らない……らしい。


 因みにリアが必死で覚え体に技術を叩き込んだ理由の一つが『隠れた流派』という部分に浪漫とスタイリッシュさを感じて、惹かれたのが一因でもある。


 好きでもない事の特訓など長続きはしない。それは、リアとて例外ではない。


 そして意外と早くに基本技能を習得できた理由は、単にデイルの剣術から足捌きと感覚を流用できたからである。案外、デイル自身も古くからある別の剣術を元に、剣を振るい独自に流派を確立させたのかもしれない。


 それはさておき、この戦闘術には通常戦闘形態を基本とし、続く形で技が存在する。拳と足技含めて数は十二。

 名前に華とあるように、最初は華やかさを求め作られた必殺技らしいのだが、今は完全に一つの武術へと変化、昇華され、威力と実用性のみを求めた技になっていた。


 そして技一つ一つがまるで奥義のように強力であり、魔法使いに充分通用するものであった。ただ、魔力を込めただけの拳でしかないのに、それがとてつもない威力を持つのだ。もはや、破壊魔法に分類しても差し支えないくらいであった。

 しかし、だからこそ必要となる技量の高さや魔力の扱いが難しい。


 ゆえに、リアは未だ未完成で、3つの技しか習得できていない。最終奥義なるものもあるらしいのだが、習得には年を要するだろう。


 けれどもその3つは完璧で無いとはいえ、使えるようにはなったのだ。それは言い換えれば……リアは夏休みという短期間で、3つの魔法を習得した事になる。


……………………





 ……きっと、この決闘が引鉄だったのかもしれない。

 海に潜んだ者は、人の魔力に敏感だった。


 ある魔法使いの魔力を喰らう為に。それから自身の『欲』を満たす為に。

 時が経ち朽ち始めた遺跡という檻の隙間から……張り付き、こちらを覗く。

 古くから怨みを溜め込んだその目には、深海の闇をはめ込んだかのように暗く澱んでいた。





……………………


 リアは足場の悪い砂浜だとしても、大丈夫だと自信を持って言えるくらいには濃い鍛錬をしたと自信を持って構えを取る。

 どこか気迫すら放つリアの構えに一瞬たじろぎながらも、レイアは《門》から取り寄せた西洋甲冑に魔力を流し込み起動させた。


 頭部はバーゴネットの兜で、そのスリットから眼光のように赤い光を迸らせ、空中に線を描きながら立ち上がった。

 武器はグレートソード。刀身は2メートルもあり、西洋甲冑とほぼ同じ。しかし西洋甲冑は重厚感のあるグレートソードを、軽い羽根のように担ぎ上げてみせた。


 鎧の関節からは、炎のように魔力が揺れている。もしかしたら、レイアも密かに鍛錬をして熟練度を高めていたのかもしれない。


 そうして、戦いの準備は整った。同時に……2人は開戦の合図を目配せだけで済ますと、突発的に決闘を開始した。


……………….


「《結界魔法》」


 が、しかしである。


 砂場であれ、戦えるように鍛えた……とはいえど、やはり足場は頑丈な方いい。そう思いリアは周辺の砂浜直下に結界の足場を作り、それから《身体強化》で筋力を上げる。


 ……ARのUIに『魔力反応』の表示と範囲が表示され、レイアは周囲を警戒する。結果、足場の変化に即気がついたようで、彼女はリアが結界を展開した隙を突くように西洋甲冑を動かす。ドンっと豪快に踏み込む音と共に、重量に反して軽やかな動作をもって西洋甲冑は突貫する。そして手に持つグレートソードに勢いと自重を乗せ振り払おうように薙いだ。


 リアは当たれば致命傷になる攻撃を、大きく上体を反らして回避した。


 大きな風音を響かせながら、西洋甲冑はグレートソードを空振る。

 レイアは目の前で動かずに回避した彼女に凄まじい度胸だと驚愕しながらも、明確な隙を晒してしまった西洋甲冑を急いで立て直そうと魔力を操る。


 しかし、態々危険を犯して回避したリアがこのチャンスを逃す訳がない。


 反らした身体を引き上げると同時に地面を砕く勢いで踏み込むと、引き絞った拳を突き放つ。魔力の青く淡い光が線を描く。


「五の型《皐月華戦(サツキカセン)・改》ッ!!」


 充分に溜めを作り繰り出された1発の拳は、西洋甲冑の胸部に直撃。クレーター状に胸部の装甲はひしゃげ……内部の空洞すら震わせながら背部にまで衝撃波が駆け抜ける。


 これは、拳の一撃と同時に魔力を解き放ち衝撃波を与える単純な技だ。

 しかし、単純故に魔力の込め方を間違えれば己の拳ごと砕ける危険な技でもある。まぁ、とは言え《境界線の狩籠手》を纏えばデメリットは解消できるのだが……魔力消費の激しさと、この決闘補助装置を壊してしまわないか心配な為、今回は使わない事にしていた。


 因みに元々は、魔力を華のように散らすだけの技だったそうな。


 それはさておき。

 リアの一撃をもろに受けた西洋甲冑は、グレートソードと合わさってかなりの重量があるにも関わらず、数メートルは吹き飛び、砂埃を巻き上げながら転がった。


 確かな手応えに(決まった)と思ったリア。しかし次の瞬間、砂埃の向こうから銀色の光が煌めく。


「《結界殴打》!!」


 リアは反射的に結界で空間を殴りつけると同時に、飛来してきた物……西洋甲冑のグレートソードがぶち当たった。グレートソードは錐揉み回転をしながら持ち主の元へ戻るかのごとく宙を舞う。


 砂埃が晴れると、何事も無かったかのように仁王立ちする西洋甲冑が見え、戻ってきたグレートソードの柄を器用に掴み取った。


 ……予想では、先の一撃であれば充分に魔力に帰す事が出来ると思っていたが……本物の鋼鉄で作られた西洋甲冑の耐久度を甘く見ていたと痛感すると同時に、繊細な操作の技量に舌を巻いた。


 西洋甲冑はグレートソードを構え直す。そして、甲冑の背後で操作しているレイアは不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「いつから格闘家になったのかとか……色々と問いたいところだね。後でじっくり聞かせてくれよ?

 ……さて、じゃあ仕切り直しといこうか? たかが組手とは言え、やられっぱなしじゃ格好つかないからね」


 レイアが言った次の瞬間、西洋甲冑の隙間全てから赤い魔力の光が噴出する。同時にリアが与えた打撃跡が瞬く間に元に戻り、新品同様に修復されてしまった。


 リアはその光景を見て、素直に(なにそれ自己修復できるのかよ、聞いてねぇぞ狡い!!)と内心思いながらも。成る程、《召喚魔法》ではなく、態々《門》から西洋甲冑を呼び寄せた理由はそこにあるのかと納得するのだった。

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