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ジーニアス・サマー③

 グラル・リアクターが頂上中央部にある小窓から、淡く青白い光を放ちながら小さな駆動音を響かせる。

 これだけ見れば「なんか駆動してる?」と勘違いしてしまうが、残念な事に『ただ魔力が光っているだけ』であった。


「なぁ、ライラ」


 機械をテーブルに置き、ティオは独り言のようにポツリと呟く。


「これ作るのに幾ら使った?」

「……機材代抜いたら、数百万くらいだと思う」

「これの……合金類を錬金するのに、私幾ら使った?」

「……材料費だけなら数十万くらい」

「今度からもっと計画性を持って行動しようって胸に刻んだぞ我」


 場のノリと勢いでここまでやってしまったが、割と空想の産物は予想よりも高い所に存在していて……簡単には手が届かないのだと思い知らされたティオ。ライラも勿同様に残念な気持ちでいた。


「っていうか、このガラクタに数百万って……これだからブルジョワは……」

「喧嘩を買う気力も無いから、有り難くその言葉を受け取っとくわ」

「喧嘩売ったわけでは……」

「分かってんよ」

「そうか……」

「……」

「……」


 痛い沈黙だ。


「元から練った魔力を流し込んだ所で意味も無し、か。『機械に魔力を閉じ込める』までは上手くいったし、冷媒ガスで発熱も抑えられて……割りかし良いところまで行ったのにな」

「希望を持てば、失敗した時の絶望もデカイってこった。だって、本当にそれだけでこれ『魔力が高速で流動しているだけ』の機械だもんな」

「……せやな」


 ティオは口調が訛ってしまう程に、やる気と根気が抜けてしまっていた。それから投げやりにソファへ身体を預けつつ口を開いた。

 アイスの棒を口に挟んで遊んでいたライラへと。


「……ってか、何1人でアイス食ってんだライラ。我の分は?」

「コンビニ行ってこいよ」

「……薄情な奴め」

「嘘だよ、冷凍庫からとってこい」

「動きたくない」

「怠惰だなぁ」


 言い合いながらも2人はグダリとソファに寝そべっている。

 例えるなら、友達の家に来たは良いがやる事がなくなって、惰性で会話しているような状態だ。


「んぁー、やる事ないなー」

「やる事ないなら改良案を寄越せ」

「あったらこんな所でダラダラしてはおらんだろ?」


 そうして、最早惰性でダラけるという矛盾した行為で時間を無駄にしていた2人に……今まで黙っていたティガが、グラル・リアクター(仮)の上に腰掛けながら……ある提案を口にする。


『……あの、1つ私から宜しいでしょうか?』

「んぁ? どうしたティガ?」

『いえ、お話を伺って思ったのですが……この動力炉、私に制御できませんか?』


「「……うん?」」


『私はAIで機械ですが、しかし確固たる自我が有ります。ですので……魔法使いの真似事を出来れば、この動力炉の魔力を私が制御出来ないかと』


 ライラは純粋にティガがこのような提案をしてきた事実に驚いた。たった数日で……ここまで人らしい自律思考ができるようになるとは、思ってもいなかったから。

 さらに、彼女の発言に伴い閃くように案が浮かぶ。


「AIの魔法使い、か」


 ……妙な感覚だった。言葉にすればとても簡単なのに、まるで大きな事を成す直前のような……。

 魔法使いの成す時代に、新たな風が吹き込む瞬間、時代の変わり目に当面したような高揚感が頭の中に広がっていた。


………………


 時刻は0時。深夜の研究室に、少女2人の喧騒が響く。


「いくぞオラァァ!!」

「YEAH!!」


 ライラとティオは今、今年最高のテンションで舞い上がっていた。興奮度はMAXである。

 そのテンションは留まることを知らない、パーセンテージにすれば100などゆうに限界突破済みだ。


 実を言えば、ティオの発言で閃いたとしても……数時間前まであまり期待していなかった。


 それなのにティオの思考回路をリアクターは繋げると、本当に成功してしまった。

 魔力を操る……その感覚を《情報の保管庫》でプログラム式に置き換えて(といっても、継ぎ接ぎだらけの文字列でプログラムとは言い難いが)ティガにインストールしてみた所……本当に流れる魔力を操ってみせたのだ。

 つまり、AIの魔法使いが誕生したのだ。思いつきで。世界で初めての快挙だろう。


 リアクターの方は、キュゥゥン……と駆動音を鳴らしながら、出力の数値。未だ上がり続けていた。

 それと同じように2人のテンションも上がっていった。


「エネルギー反応きたぞ!! パターンは青だ!!」

「きたか青……いや適当言ってるだろ!? 冗談言ってる場合ではないぞライラ!! これ、ちょっと出力高すぎないか!?」

「限界突破だ!!」

「限界突破したら、軸が暴走してここら一帯吹っ飛ぶんじゃ!?」

「そうなったらその時だァ!!」

「やめろ!!」


 衝突加速器が暴走気味になり、冷却が追いつかずに本体温度が急上昇しているのを見て、ティオは急いで制御装置を稼働させた。


 やがてリアクターの稼働が落ち着き、それから互いの謎テンションが落ち着く頃合いを見計らって……ティオはライラに問いかけた。


「……これは成功でいいんだよな? テンション爆上げと強烈なノリでここまで進んでしまったが」

「……最高記録が、簡易観測で毎秒1gjギガジュールくらいのエネルギーだったし、成功だろ」

「ジュールと言われてもピンと来ないのだが?

 原子炉より低いくらい?」

「たぶん? というか私、原子炉の電力知らねーし」

「軽く調べてみたが、予想より高い出力だったぞ。流石に原子炉1基よりは低いが」


 ガチでエネルギー革命が起きてしまった事に、少々戦慄してしまうティオ。そう、目の前の小さな機械が、この世のありとあらゆるエネルギー生産をも上回る記録を叩き出したのだ。もし世界に公表すれば……少なからず混乱が起こるだろう。


 そんなリアクターの立役者……もとい、彼女がいなければ成功はあり得なかったであろう、ライラの自信作である人工知能は、リアクターを低域稼働状態にすると、機械と繋がっていた無線システムを切り離して立ち上がる。


『ドヤっ』


 小さなホワイトブリムを揺らし、ティガは腰に手を当てドヤ顔を決めてみせた。ライラは可愛さに心を貫かれながら、ティガを両手で優しく包み頬ずりするのだ。


「よくやったぞ!! 流石私の……娘?」

『マスター……そこは疑問系でなく、言い切って欲しかったです』


 AIではあるが、ライラが自ら生み出した知性ある存在だ。見方を変えれば充分に娘と呼べるのではないだろうか。

 そうして、彼女らのコミュニケーションを微笑ましげに眺めていたティオだったが、後にライラのスリスリが自分に来るとは、思いもしなかったのであった。



 こうして、多少の精査は残っているが……グラル・リアクター1号機が完成した。



「しっかし、ここまで大きなエネルギーを得られるとなると……なんか作りたくなるな」


 安定して稼働を続けるグラル・リアクターを指先でなぞりながらライラが呟く。それにティオはジト目で応じた。


「いやいや、今日はもう寝ようぞ? 我疲れた」

「……それもそうだな」


 興奮はいい風に冷めて、気分は高揚しているものの、ひと段落ついたお陰で心地よく眠れそうだ。そんなこんなで、2人は寝室に向かうのだったが、道中でティオがある不満を口にした。


「……ところでライラ、前々から疑問だったのだが、何故ベッドが1つしかないのだ?」

「不満か?」

「不満というかなんというか……恥ずかしいのだが」


 顔を赤らめるティオと違い、ライラは本気で恥ずかしがっている意味が分からなかった。


「シングルだけど、無駄に広いから良くないか? 私もティオも、ソファじゃ眠れないタチだろう?」

「そういうもんか? ライラがいいならこれ以上何も言わないが」

「別に変な事する仲でもねーしな」

「むぅ」


 言い淀むティオに、ライラは首を傾げてみせる。それを見たティオは、頰を指で掻きながら続けた。


「あと話はそれだけでなく……来週末辺りに、リアとレイアが泊まりに来るんだろ?」

「成る程な。確かに寝る場所が無い」


 言いたい事が伝わり、合点いったとライラは手を叩いた。ナチュラルにダルクが省かれているのだが、2人は分かっていて指摘はしない。


「新しく、ベッド一つ注文しとくか」

「我も半分出そうか?」

「別にいらねーよ。今研究してる変化薬の研究資金、カツカツだろ?」

「スポンサーとして出してくれても良いのだぞ?」

「うちの会社は今、投資はやってねーから、頼むなら父に直談判してくれ」

「それもそうだな、当たり前のことだ……」

「ってか金が必要なら学会の方に頼めば良いんじゃないのか? ティオ、お前はその辺の研究者や魔法使いの間では有名だろ?」


 ライラは思いついた案を提示してみる。すると、ティオは怒りのまま頰を膨らませて、噛み付くように、話へ乗った。


「私だって申請はしたのだぞ!! しかしだッ!! 学会の連中、DNA強化薬など眉唾物だと否定してかかりおって融通は一切無し!! そう、1円も寄越さなかったのだぞ!? どうせ溝に流す金なのだから少しくらい融通してくれても良かろうに!! 脳みそが時代遅れなんだアイツらあぁぁぁ思い出しただけでも腹が立つ!! 煉獄の炎でアイツらの研究室焼き払ってやろうか!!」


 多分それだけじゃなくて、単に天才に対する嫉妬か子供扱いされてんじゃないかとライラは思ったが……口にせず、ティオの愚痴に相槌を打つ。

 めちゃくちゃ物騒な事を喚き散らす様を、かなり久し振りに見たので少々、新鮮に思いながら。


…………………


 翌日の昼下がり、ライラは茹だるような暑さの外とは隔離された室内にて、冷房をガンガン効かせながら撮り溜めていたアニメを見ていた時だった。


 隣にて、昼飯の素麺を啜っていたティオが突然箸を置くとこう言った。


「ロボットを作ろう」

「……はぁ?」


 思わず、といった風に呟くライラに、ティオは無い胸を張りながら


「リアクター……と続けば、やはりロボットだろ!! 大量の動力源があるのなら、駆動力や推進力を簡単に得られるし……なにより余った鉱物類を有効活用できる!!」

「乗った…….とでも言うと思ったか? 資金も設計も私頼りじゃねぇーか」


 ティオのキラキラとした瞳とは真逆に、ライラは表情を曇らせつつ叫ぶ。確かに余った鉱物類や、機材は勿体無いが……最も肝心な事がある。

 それは魔法に頼って『加工』しきるのは無理だという事だ。あと設計図を描くのはおそらく自分になるだろうから……ティオが言うよりも自分への負担は大きくなる。


 そんな訳で、ティオの提案に少々ご不満な様子のライラだったが……。


「待て待て。これには理由がある。これを、共同制作として卒論の一つにしようではないか!!」

「卒論? 私らは……完成しただろ?」


 ライラは正直言えば、なんだかんだで発明してしまったこのリアクターかティガの存在を卒論代わりにするつもりであった。1年の頃から感情や人との会話等を《情報の保管庫》やPCにデータとして蓄積し、収集して作り出したAIのティガを卒業論文代わりに……もしくは思いつきで成功してしまったこのグラル・リアクターも充分に提出できるスペックがある。だからこそ、新たに大きな開発や発明をする意味がイマイチ伝わらない。


 ちなみにティオはDNA変化薬の完成形を卒論にするつもりであると前に聞いた。


 最後に余談だが、グレイダーツ校は入学当初から卒論の受付をしている。というのも卒業する為に必要な条件は一定の履修点を納める他に、下記の3つのそのどれかを満たす必要があった。

 1つ目は、卒業論文を提出しグレイダーツ校長に認められる事。

 2つ目は、卒業用のテストを受け、全問80点以上でクリアする事。

 3つ目は、新たな魔法を作り出す事、だ。


 そんな。要領を得ないライラにティオは麦茶で喉を潤しながら話を続けた。


「まぁ……確かに私達は今、必死こいて卒論を集める必要はないが、な。しかしだぞライラ、どうせかの有名な魔法学校に通ったならば……歴史を残したいとは思わないか? この魔法学校に『私達が居た』という歴史を」


 詩を語るように、喉を弾ませて語るティオに……ライラは頭の中で(中二病め)と呟きながらも頰を緩めていた。


「いいな、実にクールだ」

「ライラならばそう言うと思ったぞ!! では早速……」


 立ち上がり研究室に駆け出しそうなティオを、ライラは「どーどー」と押し留めて咎めるように言った。


「その前に手元の素麺を食い切って皿洗ってこい」


………………


 こうして早くも1週間が過ぎて夏休みも折り返しに差し掛かった頃。ライラの研究室の黒い台座には、大きな人のような立体の設計図が出来上がっていた。ティオと共に「あーでもない」「こーでもない」と言い合いながら作った。


 近年のロボット工学においては『人間に近づける』事が密かなブームとなっているが……目の前の設計図はそう行ったブームとは逆を向かうような……例えるならば人と獣が混ざったキメラのようなデザインをしている。人であって人ではない見た目は、独特の雰囲気があった。

 機体全体もあまりゴツくはなく、滑らかで美しい骨格をしているのも、人にも見える要因なのかもしれない。


 機体の本体となる骨組み(フレーム)のネームは《魔法使いの杖骨(ロッドフレーム)LTT-001》と名付けた。

 フレームの主原料はチタンなどの鉱物に、魔力浸透をさせ、細かい多金属を合成した魔力合金である。魔力を浸透させる事で組織体の繋がりが強化され、例えれば酸化しずらかったり、柔軟性はあるのに折れにくかったり、また熱に強いといった利点がある。唯一の欠点は、魔力放散の防止処置が頗る面倒くさいところだ。


 そしてフレームの命名理由なのだが、古い魔法使いにとっては命と同じくらいに大事だったとされる『杖』からピンときて名付けた。

 今ではにわかに信じられないが、昔杖は魔法を放つ為に必要な媒体だった頃があったらしいから……新たな時代にも通用する代物をという意味では、中々にナイスな命名ではないだろうか?

 違うか、違うな。やはりネーミングセンスはあまり無いらしいとライラは溜息を吐いた。


 それから、肝心の機体のネームであるが、ライラは『シストラム』と名付けた。『猫』繋がりで連想し考え調べまくった結果だ。下手に付けるとおかしくなる。


 その次に塗装や暫定スペックについて

 機体のメインカラーは『黒』。副カラーは『紫』で統一して、バーニアやスラスターの内側は金に見えるように少しばかり錬成し直してある。

 重量は推定『約15t』で高さ『約16m』と比較的中型に留まった。

 それからメインの冷却システムは『冷媒ガス』と、スラスターの排熱は装甲下部のファンから『空冷』で済ませてしまっているが……宇宙空間に出るわけではないのだから、これで充分だろう。


 次に頭部の主な用途になるが……メインカメラ&センサーで、パッと見だと鋭い目つきをした猫のような印象が強く、更に目に当たる部分のカメラアイは等間隔に6つも取り付けられていた。

 更に、耳に当たる部位には左右2つずつの計4つ、猫耳のようなデザインの突起が伸びている。……何処か猫のキメラにすら思えるデザインの頭部は、神秘的でいて……しかし、もの静かな雰囲気を醸し出していた。見方を変えれば、たかが機械の筈なのに背筋がぞくりとしてしまいそうになる程の、しっとりとした雰囲気だ。


 因みにバーニアやスラスターといった部位は外側を紫で統一して塗装してある。そういった場所はかなり拘って設計した。


 ……説明に戻ろう。

 ちょうど胸の中央、人でいう心臓のある付近にコックピットを備え付けた。しかしそのせいで、少し装甲が迫り出してしまった。だが残りは下のフレームの上から纏うように、薄い装甲が取り付けた。そのおかげか比較的スマートな見た目になったのでプラスマイナスゼロだ。


 そう、これでいい。……どうせ後々、改造すればゴツくなのだから。それに、別に戦争の道具を作っている訳ではない為、装甲の硬さへ無理に拘る必要はあまり無い。


 そんな訳で装着された装甲達だが、その隙間を這うように太いエネルギーパイプが左右2本ずつ張り巡らされている。

 動力炉のグラル・リアクターは廃熱をほぼほぼリアクター内に収められる為、コックピットに内蔵するつもりだ。だから、比較的外に露出するエネルギーパイプは少なくて済む。


 場所は変わり、背中のバックパック。その中にはジェネレーターとメインスラスターに、推進剤のガスが内蔵されている。言い方を変えればエネルギーパックだ。


 そんなバックパックから外へ広がるように3本のワームが伸び、左右3枚ずつ……計6枚の翼状型スラスターが先端に取り付けられている。まるで、天使の翼のようである。

 羽達の形状は長い菱形で、風の抵抗や推進力を殺さないような設計がなされている。


 それから腹部には、人の腹筋のように六つの装甲が装着されており機械なのに妖艶な程の括れがあった。更に腹筋の下は両足へと繋げるための強硬なフレームで出来ていた。無骨で大きいながら、線がハッキリしているせいで形は人の骨盤に近い。

 骨盤フレームの両端には、推進力と慣性制御の安定性を図るために、中型のスラスター兼バーニアが取り付けられている。


 次に、肝心な両手足の解説も。主にこの機体における両手足は『攻撃』と『防御』に特化したデザインに落ち着いた。(最初は調子に乗ってプラズマライフルやグラル・リアクターの出力を使ったビームソードを装備させようとした)


 両腕は機械仕掛けの仕組みが付いた、大きな包丁のようなデザインで、まず手首から先がない。その代わりに、この包丁のようなデザインのフレームには特殊な金属(主に魔力を練り込み密度を上げた物を指す)で出来ており、グラル・リアクターの出力のおかげで半永久的な強度を得る事に成功している。


 峰に当たる機械の部位には、全体から見てもごく小さなスラスターが間隔を開けて4基搭載されており、瞬間的な切り込みの速さを目的に使用する予定だ。


 それから最後に脚部。実はこの脚部においては……地上に着陸する際に地面と接触する事を想定していない。


 何を言っているのか意味不明だと思うので、詳しく……いや、できるだけ簡単に説明してしまおう。この脚部も実は、腕部と同じように、ブレードのような形をしており、両足首に当たるはずの先端は斜めに尖っているだけだ。このような状態で着陸した場合には間違いなく機体重量で下部がひしゃげてしまう。だから、格納庫に仕舞う時以外は常に『浮いた状態』をキープしようと考えた。


 そうする事で脚部フレームの強度を上げる為にゴツくする必要もないし、それから着地時における足首や脚部の角度調整用に部品や駆動力を回さずに済むのと……背中の翼状スラスター同様に、大きな推進力となってくれる。


 その証明として、太ももに当たる部位の左右には姿勢制御用にバーニアが2基ずつと、踵に相当する位置には中型のスラスター兼バーニアが取り付けられている。慣性制御の難しさを簡略化と、推進力の増加をしようといった狙いもあった。


 最後に両手足をブレード状にしたのには理由がある……それは、単にマニピュレーターまで操作する余裕が無いことに気がついたからだ。


 これこそが、荷電粒子砲やレーザーソードを諦めた理由でもあるのだ。


 よくよく考えて欲しい。ロボットアニメや漫画などでは当たり前のように『腕や指を動かしている』が……それをパイロットが行うにはどれ程の瞬発力や操作性が欲求されるかを。

 ライラ的には『やろうと思えばできる』のだが……手首から先の操作というのはコンピューターのキーボードを早打ちできるレベルの素早い指使いでなければ、上手く扱えないのは明白。それと、無性に腕や手が疲れそうなのもある。


 そう言った惰性的理由も吟味した上で、このロッドフレームと命名したロボットは地上よりも空での行動を主に設計する運びとなったのだ。


 ……まぁ、とは言っても設計図が完成しただけであり、まだ飛ぶ以前にバックパックのメインスラスターしか出来てはいないのだが。しかも、あれやこれやと飛ぶ為の推進力を追加したはいいが結局の所、飛んでみない事にはどうとも言えないのが実情だ。


 だから、今から完成が楽しみすぎる、が……まずは保管庫の確保が優先だ。


 元々、軍事用のヘリなどを退かして作った仮の格納庫に本体を、基盤やアクチュエータなどの機械類は出来るだけ研究室でといった流れで……気がつけば夕刻。


 フレームに関しては元より、他方からパク……参考にさせて頂き人型に近い為、あまり苦労はしなかったが肝心な事は次だ。フレームの強度を上げる為に使った合金の他にも、スラスターやバーニアに塗布するタイプの合成金属を作らなければならない。

 この部位の放熱をしっかりしておかなければ、耐久値の減りも早くなるのと事故率が下げれる。


 空を飛ぶ以上、安心感はとても大事だ。


 そうこうし時間が進むのがやけに早く感じてしまう2人だったが、しかし夏休みの残り1週間以内には作り切る自信があった。勿論、技術的な面で自信がある。


「よっし、やるぞ!!」

「気合い入ってんな」

「ロボットは科学者だろうと関係なく、皆の憧れなのだよ!! 格好いいからな!!」

「そうだな。ふふっ、では……いくぞ」


 ライラとティオは互いに拳をコツンとぶつけ合う。


「プロジェクト開始だ」

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