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閑話2

 リアはふと不思議に思っている事があった。それは、先日の一件で《逆式強制契約》の魔法が反応していた筈なのに、向こうから授業以外で過度な干渉が少なかった事である。

 心配してはいない……訳ではなさそうだ。デイルと同じくらいに気遣う言葉をよくかけられたから。しかし、普段の行いを見ていると控えめとも言えた。


 自分に興味が無くなったのだろうか?


 それなら別に良いのだが……しかし普段の鬱陶しさや、一応師を仰いだ身としては、何故か胸がモヤモヤして寂しいような気がした。


………………


 誰もが寝静まる深夜の事。黒い影がリアの寝室へと侵入する。侵入者は、見た目だけなら渋い老人で紳士的なギルグリアであった。彼は、スヤスヤと寝息を立てるリアに近づくと、片膝をついて寝顔を愛おしそうに眺める。


 月明かりに照らされた彼女。

 タンクトップとパンツのみに身につけた身体は妖艶さを纏い、あどけなく無防備に曝け出された寝顔と柔そうな体には、男ならば貪り尽くして自分色に染め上げたくなるような魔性の魅力で溢れていた。


 足からお尻にかけての肉付きや、腰回りの細さ。母性の象徴である胸。大きいのに張りがあって形の良い胸が月明かりに照らされ、黒いレースの下着が浮き出ており、胸の形を更に強調しているかのよう。

 ただ寝ているだけなのに、とても妖麗であった。


 普段は男勝りな言動なのに、こういった部分で無防備なのは、女性として如何なものか。


(女が好きという可笑しな女もおるというのに……なにより我に襲われるとは考えないのだろうか)


 そうは思うギルグリアは……しかし、襲うまで欲情する事はなかった。何故かと言えばらギルグリアは紳士的な心持ちだったからだ。その要因はここ最近の付き合いで、リアに対しある心境の変化があったから。


 以前ならば、リアに対し抱くのは女と男の愛と情欲であった。目の前の女を、人間として見てはいるが同時に1人の『雌』としても見ている、そんな感じだった。

 だが……鍛錬する彼女と付き合う内に、少し落ち着いた『恋慕』のような、思春期男子が抱くような気持ちに変化したのだ。


 更に、つい数日前にほんの一瞬《逆式強制契約》が反応した事があった。本来は契約者に危険が及べば、刻印が警報の如く赤く光る筈なのだが、一瞬だった為に訝しんで向かう事はしなかった。少しだけ、鬱陶しがられるのを避けたかったという理由もあるが。


 そんな彼だったが、後にリア自身から1日の出来事を話題代わりに語られた時、ギルグリア自身を強い後悔の念が苛んだ。


(何が守る為の契約だ……)


 たった一瞬でも、彼女の危機を知らせたならば……例え地球の反対側に居ようと向かうべきだったのに。愛していると口では言いながらこの体たらくだ。情けない。


 ……いや、逆に言えばそれだけ、稽古を付けていく内に、リアの強さを信用していたのかもしれないが。


 しかし、今回に限ってはそう易々と割り切れるものではなかったのだ。きっとリアに言えば余計なお世話だと一蹴するだろう。だが……惚れた女を守りたいと思うのは、種族が違うとしても男ならば当然の事で……誇りに傷が付いたような気持ちだった。


「今度は絶対に力になると誓おう。我の、龍としての誓いだ」


 ギルグリアはそっとリアの頬を撫でると、無言で部屋を出て行った。


……………


 ベットの下で事の顛末を見ていたルナは這い出ながらほっと、バレなくてよかったと溜息を吐いた。


「にしてもあのクソドラゴンは何をしに来たのでしょうか? 散々くさい台詞を言っていましたが」


 ブーメランな台詞を呟きをしながら、ルナは立ち上がると。


「ま、そんな事はどうでもいいです。ようやく2人きりですよお姉様……」


 そう言って意識を切り替える。最近また、愛するリアが構ってくれずにうら寂しい気持ちが積もってしまって……リアが寝たのを見計らい布団に潜り込む事にしたのだ。


「最近は大人しくしていましたからね」


 学校へ通っている間は共に寝ていたせいか、最近は夜になれば度々、人肌(リア限定)が恋しくなっていた。だからこうなるのも時間の問題だったと、ルナの理性的な部分が言い訳をした。


「では、お邪魔します」


 ……そっとベッドに視線をやれば、無防備に眠るリアがいる。心の奥から欲望が湧き上がり、どこか体が熱くなってくる。

 ギルグリアが長い間眺めていた理由が分かった。これは確かに、綺麗だとルナは思う。そんな彼女を今から独り占めにできるのだ。


「んふっ」


 起こさないようにそーっと掛け布団に忍び込むと、そっと腕を取り抱き枕がわりにする。


「……冷んやりします」


 心の奥底を打つような安心感が、脳裏から全身を駆け巡った。それはさながら、冬に入る炬燵のような心地良さだ。

 ……ルナが眠気で落ちるまで、そう時間は要さなかった。


……………


「私がいるというのに、悲しいわルナさん……」


 2人の様子をクローゼットの中から見ていたセリアは、言葉とは裏腹に深い笑みを浮かべる。


「これは私も、一緒に寝るしかないわね」


 何が私も……いやそれ以前に、どうしてクローゼットに入っているのかとか問い質したいところだが、残念ながらリアもルナも眠りこけている。


 そして……セリアはリアの隣に潜り込んだ。ちょうどルナとセリアで挟み込む形である。


「ふふっ、ではおやすみなさい」


 嬉しそうな声色のセリアは、不気味な程に妖艶な笑みを浮かべた。

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