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夏休みの一幕 sideレイア

 住宅街が密集している都市の辺境に、白く普通な建物が一つあった。それは病院のような清潔感ある外装の建造物であり、周りに溶け込むように建っている。


 それがレイアにとっては、どこか異様に感じた。


 何故なら、ここは兄弟子が運営する『魔物の生態調査の研究所』であり、師であるグレイダーツの持つ『国に報告してない隠し研究施設』だからだ。


 もしこの施設が魔導機動隊にでもバレたら、暫く逃亡生活をする羽目になるだろう。

 何故なら違法施設なのもあるが、実は今現在魔物が1匹、研究施設の地下にいるからである。その魔物は、蛸のような見た目をしているが、人と同程度の知識を有する異質な魔物であり、自分が《契約》を結んだ友人でもある不思議で異質で、奇妙な存在。


 しかし、魔物である事に違いはない。つまり、魔物を匿っている事がバレれば、指名手配される可能性もある訳で。


 さて、これだけ言えば何故異質に感じるか分かると思う。平和な住宅街に紛れ込んだ研究施設。自然に溶け込んでいるのに、建物の実態を知っているから不自然にしか見えないのだ。それが、言葉にし難い違和感を生み出している。


 それに……まさか一般人の方々が、自分家の近くに魔物が住んでいるとは思わないだろう。


 レイアは額に流れる汗を手の甲で拭い、研究施設の外壁にあるチャイムのボタンを、親指でグッと押し込んだ。すると遠くで「ピンポーン」と軽い鐘の音が響く。

 押してから数秒ほど待つと、若い男の声が備え付けのスピーカーから聞こえてきた。


『どちらさんでー、おっとボスか』

「僕で悪かったね。あとボスって呼ぶなって何回言えば……」

『おいおい、怒んなって。待たせて悪かったな。今鍵開けたから勝手に入ってくれ』


 それだけ言うとチャイムが切れた。と、同時に、玄関の鉄格子が自動で開き、施設の奥へ入るように促してくる。


「はぁ、暑い……」


 そして、レイアはふらふらとした足取りで、エアコンの効いた室内を求めて研究施設へと足を進めた。


…………


 研究施設の一階は、何処にでもある普通の一軒家と同じ内装だ。個室のトイレと風呂、20畳程のリビング、8畳程の個室が2つ。そのどれもが、脱ぎ散らかした衣服や括ったゴミ袋などが散乱し嫌悪感を抱いた。


「まったく、姉さんもルークの奴も、ズボラすぎる」


 ルークとはこの住宅の所有者である青年の名前である。因みに自分の6つは歳上で今年22になる兄弟子だ。

 姉さんと読んでいる女性は、ここに居候している姉弟子だ。幼い頃から交流があった為に自然と「姉さん」と呼ぶようになった。

 勿論血は繋がっていない。本名は『ネイト・サリア』。サリアが家名らしいので、心の中ではネイトさんとも呼んでいる。


 そんな彼、彼女は生活よりも研究を優先するような性格で、かなり不規則な生活をしていた。

 レイア自身、今は理由あって通ってはいるが、この惨状を見て、やはりこれからも定期的に様子を見に来た方がいいなと思った。


 臭いが無いだけまだマシだと自身に言い聞かせ、ゴミの無い歩ける床を歩き、リビングに入る。

 リビングは所々に中身の入ったゴミ袋が落ちてはいるが、まだ比較的綺麗だった。女性ものの服は至る所に落ちてはいるが。姉さんには女性としての自覚が少ないと思う。


「あとで洗濯しないとね」


 用事が増えた事にげんなりしつつ、レイアは入ってきた扉へと振り返り、壁の一部に手を触れた。

 すると、木製の壁の一部に小さな電子音が響き、手の形を謎って仄かに光る。光は一定間隔で手を下から上になぞるように通り過ぎ、「ピッ」と小さな電子音を響かせ、壁に擬態していたモニターに『Unlock』と表示を浮かべて消える。


 同時に、小さな駆動音を鳴らして床の板が徐々に動く。床は形を階段のように変えて、地下への道を開いていった。


「毎回思うけど、無駄なギミックだよね、コレ……。いやまぁ、セキュリティ面で見ればコレが正解なんだろうけど」


 そんな事を呟きながら、レイアは出現した階段に足を付けて降りて行く。


 階段を下り切ると、リビングとは比較にならない程に清潔感のある、壁と床の白い廊下が姿を現わした。無機質な感じの空間だが、息苦しさは感じない。


 レイアは(何で上の階も同じように綺麗にしておけないのか)と小言が頭に浮かんだが、やっとエアコンの効いた部屋に入れたおかげか、小言はスッと喉の奥へ引っ込んでいった。やはり、暑さは人を苛つかせるようだ。


「涼しい、生き返る」


 都内の平均気温は30度近く、湿気も多い。もしかしたらサウナよりも暑苦しいかもしれない。


 正直、《門》で直接来た方が良かったかと後悔した。魔法というものは便利だが、時に人として堕落してしまうので普段は極力魔法に頼らない生活を心がけているのだ。


 移動の際も、怠惰にならないよう極力足を使うようにしていたが、しかし今日ばかりは無理をしない方が良かったと。それくらい外の燦々と降り注ぐ陽の光は、暑すぎて地獄であった。


「近々リアの住む田舎にでも遊びに行きたいなぁ」


 非常に失礼だろうが、緑豊かな田舎は都市部より涼しいイメージのあったレイアは、ため息混じりに呟きながら、服の襟首に指を引っ掛けてパタパタと風を送りつつ、目的の部屋へ向かった。


 とは言っても、数メートルしかないので直ぐに目的の扉に辿り着くのだが。

 部屋の扉は自動扉になっていて、扉の前に立つのと同時に「シュー」と音を立てて横にスライドしていった。部屋の中は廊下とは異なって、コンクリートが剥き出しになった壁と床だけで作られている。少しだけ閉塞感のある部屋だ。

 その部屋の右と左の壁には大きな本棚が備え付けられており、色とりどりのファイルが陳列している。


 それから部屋の全面にある壁の前には大きなテーブルと、複数のPCモニターが並び、今も何かの記録を取っているのか忙しなく画面が揺れ動いていた。テーブルの上には2つのキーボードとマウス、それから書類らしき紙束が散らかっている。


 そんな部屋の中央には、何時ものようにバンダナを頭に締めた青年……ルークが、テーブル前のオフィスチェアに深々と腰掛けていた。


 少しだけ、秘密基地っぽいなと、レイアは思った。揶揄われるので口にはしないが。


 そして、ドアの開閉音に気がついたルークが、椅子を反転させて振り返る。


「来たか」


 気さくにルークは手を挙げ歓迎の意を示す。


「来たよ。ほら、コレ頼まれてた奴」


 レイアは買い物袋に手を突っ込み、ジュースの入ったペットボトルを投げ渡した。ルークは放物線を描いて飛んでくるペットボトルを器用に片手でキャッチした。


「おーっ、サンキュー!」

「まったく、それ、最近のスーパーじゃ中々売ってないんだからね」

「そうだなぁ、今度通販サイトでまとめ買いしとくわ」

「今miturinが夏季セールやってたよ」

「なら今すぐに注文しとくか」


 パソコンのマウスを動かしてキーボードを素早く叩きながら、ルールはペットボトルのキャップを開き、中の黒い液体を喉に流し込む。


「くぁーっ、うまい!! 疲れた時のドクペは最高だな」


 中身を半分ほど一気飲みし、満足気に息を吐く。それからキャップを閉めて、ペットボトルを「トン」と机に置いた。


「んじゃ、早速隔離部屋に行くか」

「進展は?」

「残念だけど全くねぇよ」


 1番奥の部屋に向かう。ここも自動扉になっており、近づくと勝手に開いた。


 すると、奥からぶかぶかの白衣を着た女性が近寄ってくる。


「あら、ボスにルークじゃない。また観察しに来たの?」


 ……もうボス呼びに対して何も言うまい。無駄だから。レイアは出かかった何時もの口愚痴を飲み込み、出てきた彼女に目を向ける。

 迎えに出てきたのは、ここに住み込みで研究している姉弟子のネイトだ。ボサボサで枝毛だらけの長い茶髪に、目下には濃い隈ができている。

 まだ20代で若く、更に美人で肌も綺麗なのに、ズボラな性格で色々と台無しだ。毎回彼女の姿を見る都度(勿体ないなぁ)とレイアは思う。


「また不健康な生活をしているのかい?」

「大丈夫よ、ちゃんと寝てるから」


 その隈で言われても説得力が無いと思ったが、結局言ったところで聞かないので、レイアは出かけた言葉を再び喉奥に押し込んだ。


……………


 さて、なぜ僕がここに訪れているのか。それは1学期の終わり頃に、僕が《契約》していた蛸の魔物に、ある変化が訪れたからだ。


 その変化とは、この地下施設の1番奥の部屋に入れば直ぐに分かる。


 部屋は研究室と兼任しており、部屋の半分には防弾ガラスの仕切りがあった。こちら側は、様々な測定機器や資料が散乱していて散らかっているが、防弾ガラスの向こう側は逆に全く物は無い。


 しかし『物』は無いが『者』はいる。


 監獄のような四角く大きな一室。その中央に張り付くような形で、丸い大きな楕円形の球体が鎮座していた。

 その球体は、まるで何万もの糸が絡み合い作られたかのような造形をしていて、一言で表すなら『繭』である。


 そう、蛸の魔物がこの繭の中にいるのだ。ルークが言うに、朝起きたらこうなっていたらしく、繭を作った過程や理由は全くの不明。

 だから無闇に外へ持ち出す訳にもいかずに、こうして姉さんとルークの2人は付きっきりで監視と検査を続けている。


 だが、レイアはこの繭を見る度に思う。


「本当に、オクタ君が中にいるのかな……」


 繭の大きさは人が2人入れる程度に大きく、しかし蛸の魔物が入るには些か小さい。だからか、本当にこの中にオクタ君が居るのかすら分からないのだ。


 レイアの呟きにネイトは溜息を吐きつつ、「やれやれ」と両手を振った。


「そこんとこは私もルークも謎なのよねぇ。なんせX線とかの電磁波すらも通さない、魔法も浸透しない。それに加え刃物すら通さない硬度があるのだから。謎すぎて手の施しようがないのよねぇ」


 そう。困った事に、謎の究明以前に、まず検査ができない状況なのだ。

 一見すると、糸(の様な何か)が編み込まれて作られた柔らかそうな繭なのだが、その強度は異常なまでに高く、ありとあらゆる物質や光を弾く『未知の素材』でできていた。彼女がこの部屋に入り浸るのはそれが理由だ。ネイトは魔物研究において、かなりの最先端を行っている。だから、蛸の魔物が作り上げたこの奇怪な繭を解明しようと躍起になっていた。


 それから『何故こんな繭を作ったのか』、これが一番の謎である。


「未知とは、探求すればする程に広がっていくもの。だけど、全くのノーヒントだと私ではどうしようもないわね。錬金術で《崩壊》《分解》《破壊》しようにも、物質が解明できない限り不可能だし」


 ネイトはどちらかと言えば召喚魔法より錬金術に特化した魔法使いだ。しかし、錬金術の基本は『知識と理解』。その為、構造を知っていなければならず、物質不明の繭に対しては全く意味を成さないのだ。


 だからこそ、レイアがここに通う理由が生まれた。


「さて、じゃあそろそろ」

「んっ」


 そう言われて、買い物袋をネイトに渡し、レイアは防弾ガラスの直ぐ手前まで歩いていく。本当は向こうに入りたいのだが、以前に危険かもしれないからと止められたので、渋々従っていた。


 そして、僕がここに通う理由の1番……それは膠着した現状を進める策が、一つしかなかったから。

 

 錬金術や現代科学でも研究が進まない為に、残る手段として《契約》の魔法からアプローチをかけているのだ。

 2ヶ月前から始まったアプローチで、最早習慣となりつつある。


 僕は手に魔力を通わせ《契約》の魔法を起動させた。煌々と赤い魔法陣が輝き、心臓の鼓動のように「とくん、とくん」と脈動する。


「オクタ君、《契約》の名の下、僕の声に応答してくれ」


 シンと、室内は静まり返る。まぁ、分かってはいたが。


「やっぱ、今日も反応無しか」


 残念残念と、感情の籠らない声でルークが呟く。レイアは頷いて肯定した。


「《契約》自体は途切れてないんだけど、やっぱり今日も繋がらないみたいだ」


 呼びかけは出来るが、応答しない状態。言うなれば、留守番電話にずっとコールをし続けているようなもの。


 だから、本当にあの『繭』の中にオクタ君が居ると断言できないのだ。


 苦い顔を浮かべ溜息を吐くレイアの肩を、ネイトはポンポンと慰めるように優しく叩いた。


「急いでも仕方ないのだし、ゆっくり探っていきましょう?」

「……そうだね」


………………


 やることは終わったので、レイアは部屋の掃除をする事にした。勿論家主のルークと居候のネイトも一緒だ。しかし、もちろんごねるように2人は嫌がった。ので、レイアは2人のケツを蹴り《戦乙女》に監視させながら部屋の掃除を強行したのだった。


「ボスよぉ、その戦乙女で掃除してくれな……」

「そんな事をしたら、君の為にならないだろ? ほら、2人ともテキパキ動く!! そこ、燃えるゴミと燃えないゴミ、缶と瓶はちゃんと分けて」

「面倒くさい。全部原子レベルに分解して焼却してしまった方が早くないかしら」

「そしたらリサイクルにならないだろう!! もう!! 駄々こねてないで動く動く!! 夕方までに終わらないよ?」

「でもねぇ……リサイクルって言うなら、私が錬金術で《分解》《再構築》した方がはやい気がするのだけれど?」

「錬金術で何に錬成し直すのさ?」

「……」


 黙り込むネイトに、レイアはジト目を向けながら深くため息を吐いた。


「……もぅ、分かったわよぉ。そんな目で見ないで」


 先に折れたのはネイトの方だった。彼女は「ふー」とわざとらしく息を吐くと、さっきよりも1.5倍くらいの動きで掃除を開始した。それでも動きは遅いが。


 そうして漸くやる気になったネイトに変わって、今度はゴミをまとめ一息ついていたルークが口を開いた。


「ところでよボス。学校で友達できたんだってな」

「あ? 唐突に何だい」

「……あのボスにも、漸く友達ができたんだなと、微笑ましく感じてなぁ」

「君は僕のお母さんかい? 久方ぶりにしょうもない事でイラッとしたよ」

「はっはー、お母さんはネイトの方が適任だぜ?」

「ちょっとルーク、私、まだそんな歳じゃないわよ?」

「sorry、sorry。俺が悪かったからその手の注射器は仕舞おうな?」


 明らかにヤバそうな緑色の液体が入った注射器で脅されて、ルークは必至にネイトをたしなめた。それから再びレイアへと顔を向け話を続ける。


「あのソファで寝てた子だよな? ボスには勿体無いくらい可愛い子だった……綺麗な黒髪少女、いいね」


 レイアはジト目に少しの睨みを加えてルークを見た。


「ルーク、もし僕の友達に手を出したら……分かってるよね?」

「ヒョー怖。まぁ、そんな事ぁしねぇよ。ただ、まー、良かったな。友達できて」

「……ふん」


 純粋な好意からの言葉だと分かったからこそ、憎まれ口で返す事が出来ず、レイアは少しだけ赤くなった顔を背けるのだった。


………………


「それはそうとボス、もう召喚士のイベントやらは企画しないのか?」


 スッキリと綺麗になった部屋で、ふとルークが尋ねてくる。

 レイアは暫し考えつつ、とりあえず思っていることを口にした。


「それなんだけど、当のオクタ君がこの状況だし、未だオクタ君以外で知性のある魔物も見つかっていないから……」

「別に魔物じゃなくても良くね? 召喚魔法を格好良く披露すりゃ、興味を持つ奴も増えんだろ?」


 ルークの短絡的な意見に、横で話を聞いていたネイトが口を挟んだ。


「馬鹿ねルーク、召喚魔法がなんで不人気か忘れたの?」

「難易度だったっけ」


 合点がいったと、ルークは1度手を打った。それと同時に、眉根を寄せて「んー」と唸る。


「でもよ、結局のところ、使役できるような魔物が見つからない以上、オクタ君が使えたとしても、結果的に本末転倒じゃね?」

「……」


 レイアは口を半開きにさせながら、黙り込んだ。かと思えば、目に見えてがっくりと項垂れる。


「その通りだね……」


 ……オクタ君以外で《契約》を結べる魔物は、せいぜいスライムくらいだろうか。自身に害の無い魔物を使役できたとしても、はっきり言って役に立たない。それに街中に魔物を連れ込めば、重罪で即刻逮捕なので呼び出す事もできないのだ。

 こんな幼稚園児ですら分かりそうな根本的な問題を忘れていたとは、我ながら恥ずかしいというレベルじゃない。穴があったら更に数メートル掘って籠りたいくらいだ。


 ……そう考えれば、あの時のイベントは本当に浅はかな考えで実行してしまったな、とレイアは遠い目で後悔した。結果として何ともなかったから良かったものの、今は友人として付き合っているリアや、場合によってはショッピングモールにいた多くの人達に多大な被害をもたらしたかもしれなのだから。


 「はぁ」と色んな理由で肩を落とすレイアを見兼ね、ネイトはそっと優しく肩を抱きしめる。


「まぁ、それでもまたやってみたらいいじゃない。なんだかんだで、召喚魔法を使ったショーやイベントは人気なわけだし」


 召喚魔法は難易度から不人気だが、しかし格好良さは他の魔法の中でも随一なのだ。魔物の使役で誰でも召喚魔法を……な計画は、もはや泡沫の夢になってしまったが、それでも比較的簡単な召喚魔法が広まれば、知識を求める人は増えるかもしれない。


 魔法とは探求するものだ。探究心さえあれば、誰だってどんな魔法でも身につけられる。それは将来、召喚魔法を主とする魔法使いの増加にも繋がるかもしれない。


 レイアの夢の一つは、こうして召喚魔法が廃れないようにする事でもあるのだ。


 ……しかし、ネイトが自分のように明瞭な目的を念頭に据えて、今の発言をした訳ではないだろうと察していた。寧ろ、彼女は自身の得にならない提案はしない人間だ。


 そんな訳でネイトの母性すら感じられる優しい笑みに対し、レイアは半眼で睨みながら言葉を返した。


「……それっぽい事言ってるけど結局、姉さんは研究資金が欲しいだけでしょ?」

「……うふふっ」


 図星を突かれ笑って誤魔化したネイトに、レイアは今日1番の深い溜息を吐いたのだった。


……………


「そういや、ルークはまだ『民間公魔法使い』をやっているのかい?」


 『民間公魔法使い』とは、簡単に言ったら民間の、つまり国から認められた魔法使い達の事である。彼らは国からの資格とライセンスを取得し、魔導機動隊とは別に個人での魔物退治や魔法が必要な依頼を受け生計を立てたり、荒事以外で魔法が必要な人達の手伝いなどを主にしている。とは言っても、『民間公魔法使い』の大半が魔物の討伐や退治を主にしている節がある。つまり、害獣駆除の専門達の事だ。


 そして兄弟子のルークも魔物のサンプルを採取するのに便利だからと、ライセンスを持っていて、時折依頼を受ければ魔物退治に出ているのをしっていた。研究資金の一部は、こうして稼がれていたりもする。


 しかし最近は別の要素で忙しそうなのと、尚且つ自分も稼ぎ口を失ってしまったので、今の研究施設の運用資金が気になったのだ。


 そんなレイアの気遣いに、ルークはぽりぽりと頭を掻いた。


「いや、まぁ街中に入り込む魔物なんて滅多にいないからなぁ……。《門》で遠くまで狩に行くのも面倒くせぇし」

「えっ? ならここの運用資金はどうなってるのさ?」

「んー、実は今は、あの師匠から資金提供してもらってんのよ」

「師匠が資金を? ……珍しいね」

「確かに何か裏がないか疑っちまうけど、師匠も師匠で、研究室の一角を使ってっからさ。たぶん、それが理由なんだろうよ」

「研究室の一角って、奥の部屋かい? 僕は入った事無いけど……あそこで何の研究をしているの?」

「詳しくは聞いてないけど……ドラゴンの血と肉の運用だとよ」

「あぁ……あれね」


 そういえば、あの肉と血を回収してたなと、屋上での一連の出来事を思い出した。

 それから納得した。確かに、近場で何をするにしても、ここ程誰にも見つからずに、しかもやりたい放題でき、更に機材の揃った施設はそうそう無いだろう。


「けどさ、師匠はあの肉と血を使って、何を作ってるんだろう?」

「さぁ? 俺が知る訳ゃねぇだろ?」

「うっさいな、分かってるよそのくらい。君には聞いてない、僕の独り言だよ。一々反応しないでくれるかい? 何気にイラッとするんだよ」

「ボスはほんと、俺には強く当たるよなぁ」

「君が僕の呼び方を変えたら、対応も考えてあげる」

「へーい」


 ルークはレイアの言葉を聞き、心の中で(それでも、飲み物とか頼んだら買ってきてくれんだよなぁ)と、可愛い妹分を見るような生温かい視線を向けた。

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