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夏休み③

露骨なエロが嫌いな方は読み飛ばしてください

 時間は流れて。

 事は夕食を終え風呂に入っていた時の話である。


 予想していなかったと言えば嘘になるが、入浴中に案の定、ルナとセリアさんが一緒に浴場へと入ってきた。


「お姉様ー!! お背中お流ししますよ!!」

「リアさん、前を洗ってあげるわ」


 なんて建前を言ってはいるが、2人の目には欲望の色がありありと輝いているように見えた。いや、セリアは全く建前なんて使ってなかった。寧ろ恥ずかしげもなく堂々とした立ち振る舞いだ。


 まぁ、しかし、いきなりの乱入。いつもなら……どうだっただろう? いや、数ヶ月前から自分の精神構造は常に女性視点へと変化している為に、恥ずかしく感じる観点もズレてきているらしい。

 ルナの裸体に対してはもう慣れた。今までも全裸で風呂に乱入が何度もあったのだから、幾ら何でも慣れるというものだ。


 しかし、セリアさんは別である。家族以外で歳の近い女性の裸を見たのは初めてだったリアは……思ったより気恥ずかしくはなかった。


 なんでだろう、と頭を捻る。セリアは美人で可愛いく、スタイルも良い。肌も陶器のように白く滑らかだ。乳房も大きく、肉付きも女性特有の柔らかさを感じさせる。紛う事なき美少女だ。


 そんな女性から、体を洗ってあげるなんて言われたら普通は顔を真っ赤にする筈なのに……。冗談にせよ本気にせよ、慌てず受け流せる余裕があった。


 それに、価値観や論理感は男の時の残滓がこびりついてはいるが……今は女なのと、彼女達を性的に見る事はあまり無い。


 そんな訳で、ふらふらと手を振って2人に返事をする。


「前は自分で洗うから背中だけ頼む」


 ルナの目が丸くなった。セリアがいる事も考慮して、おそらく「出て行け」とでも言うと思ったのだろう。だが、リアの精神は日々変化しているのだ。最早、女性の裸を見たくらいでは取り乱したりはしない。特に家族であるルナになら、別に全裸を見られたところでどうって事はないのだ……。

 そんな訳で別に一緒に風呂へ入る事は拒否する理由は無し。


 けど……慣れたとはいえ、他人に身体の前を洗われるのは抵抗がある。これは倫理観の問題だ。そこは普通に恥ずかしい。


 それに、言ったのはセリアだ。ガチレズだと恥ずかしげも無く公然と言い放ち、隙あらばセクハラしてくる、あのセリアなのだ。


 絶対洗うのが目的じゃないだろう……。


 ……そんな思いからルナの善意だけを受け取ったのだが、ナチュラルに省いた結果となったセリアがルナの隣から、いじけた顔で呟いた。


「私の申し出は断るのかしら? もしかして、嫌だった? うぅ、親睦を深めようと思っての提案だったのだけれど……」


 悲しそうに言ってはいるが、騙されてはいけない。


「嫌とか、そういうのじゃないんですけど……セリアさん、絶対俺の胸とか揉むのが目的でしょ?」


 ジト目を向けて問うと、彼女は白々しい表情で口元に手を当てる。


「うふふっ、まぁいいわ」

「……誤魔化したな」


 言うや否や、彼女は素知らぬ顔で目線を背けた。完全に図星だったようだ。

 リアは睨み、セリアが顔を逸らす。その奇妙な間に、ルナが割って入った。


「まぁまぁ、いいじゃないですか!! じゃ、お姉様、失礼しますね」

「んっ」


 セリアとリアを窘めながら、ルナは最愛の姉の背後に寄ると片膝をつき、手に持っていたタオルにボディーソープを付ける。

 リアとセリアはそんなルナの行動に……無意識に、揃って笑みを浮かべていた。ルナの行動一つで、空気が陽気なものに変わる。それはルナの人柄が成せる技だろう。

 毒気の抜かれたセリアは、リアの隣の席に腰かけ、蛇口を捻り桶に水を溜めた。


「そうね、まぁ……お楽しみは後にして、私も体を洗う事にするわ」


 セリアは自分の持っていたタオルでテキパキと体を洗い始める。一方で、ルナもリアの背を洗った後は自分の体を洗い始めたので、リアはお礼代わりにルナの背中を洗った。


 そのあとは湯船に浸かって身体を温めたら上がるだけ、なのだが、身体を洗い終えた辺りで、セリアがいきなり小さな小瓶を取り出した。


「これ、湯船に入れてもいいかしら?」


 小瓶の中では、ドロっとした白い液体が揺らめいている。


「……なんですか、これ?」


 ルナが警戒しながら聞くと、セリアは瓶の蓋を開けながら語る。


「ふっふっふ、これは私の開発した入浴剤よ。身体の疲れを落とす効果があるわ」

「本当ですか?」

「嘘は言ってないわよ」


 腹の探り合いのような会話だが、先に湯船に浸かっていたリアはセリアに向けて手を伸ばした。


「疲れが取れるなら有難いです。俺が入れてもいいですか?」

「えぇ、どうぞ」


 セリアは天使のような笑顔で、手の上に小瓶を乗せた。

 受け取った小瓶の匂いを嗅いでみる。なんというか、洗剤に金木犀を混ぜたような良い香り。どうやら、入浴剤というのは嘘ではないようだ。


「お姉様、本当に入れるのですか?」


 ルナが警戒心を全開にして聞いてくるが、セリアの笑顔に邪な感じもしないので


「……大丈夫だろ。肩とかの凝りが解れるかもしれんし、試してみる価値はある。それに、善意は素直に受け取るべきだ」


 言葉に含みを持たし、暗に「この入浴剤は大丈夫だな?」と、セリアに確認するような目を向ける。すると、彼女は天使の笑顔を保ったまま両手でサムズアップした。


「大丈夫よ、それに効能は保証するわ。特に『肩凝り』や『マッサージ』が効くわよ」

「へぇー」


 セリアの声を右から左に流しつつ、リアは小瓶を逆さに向けた。

 とろり、とした白い粘液は瓶を伝い、湯船に落ちると即座に薄く溶け広がっていく。


 それから手で湯をかき混ぜる。

 しかし、湯の色に変化は無い……と思った時だ。ん? と変化に気がついた。身体の血行が良くなってきた気がする。それに、何かゴリゴリと身体の部位を押さえつけられているような……。


 その時、右から受け流した言葉が脳裏に蘇った。

 ……っておい、ちょっと待てよ。セリアがさっき効能の説明してたけど、そこに変な単語が無かったか?


 ……入浴剤なのに効能が『マッサージ』?


 いやいや、マッサージって何だよとツッコミを入れる為に口を開こうとした時だった。凝り固まった太ももや肩の筋肉をほぐすように、水が蠢き揉みしだくような動きをし始める……。


「んんっ!? あぁっ……?」


 突然の事と、水のツボを押すような動きが気持ち良くて、声を跳ね上げながら身体をくねらせた。


「な、なにっ、これぇ」


 呂律の回らない口調で説明を求めるリア。その表情は朱に染まり、瞳はトロンとして涙で濡れそぼっている。吐き出す吐息は乱れ、声には熱と艶があった。


 身体をマッサージするように蠢くお湯の動きが、気持ち良い。凝り固まった筋肉が解れ、血行が良くなる。

 全身の肉体がマッサージのような動きで揉まれる度に、ダラしなく「あぁ、んっ」と喘ぎ声を漏らしてしまう。


 そんな姿を見せてしまっている事に羞恥を覚えるも、抗えなかった。例えるならそう、真冬に入る炬燵のような魔力があるとでも答えようか。暖かな湯で疲れた身体をマッサージされるのは、それ程に気持ち良い。


 セリアはそんなリアの姿を恍惚の笑みで眺めながら言った。


「うふふっ、ここ2日の成果がこれよ。名付けて、『マッサージスライム』!! 安心して、魔物じゃなくて私が作ったものだから、それと……実はそのスライム、魔力で操作できるの」


 セリアの指先から魔力の青白い光が淡く光る。そして指をクイっと動かすと、リアは自身の体を抱きしめながら身悶える。


「ひやっ、あぁ!? ぁ、そこ、そこぉ!! はぅ、うぅ」


 さらなるマッサージを強請るリアの姿を、顔を真っ赤にして見ていたルナは思わず、ぽつりと呟く。


 リアの豊満な肉体の至る部分がグニグニと形を変え、その度に喘ぐ姿は、只のマッサージだとしても。


「なんかエロいんですけど……」


 とても淫靡で、背徳的な光景に見える。美少女が肉感のある裸体を、ねっとりとした動きのスライムに揉まれていて、しかもそれを拒否する事なく受け入れているのだ。


 そんな光景、エロいとしか形容しようがなかった。


 ルナはリアの姿に見惚れ、暫し傍観していた。そんな時、隣にいたセリアがルナの肩にポンと手を置いた。


「どう? 何か文句はあるかしら?」


 ドヤ顔で言うセリアに、ルナははキリッとした顔でサムズアップを返した。


 ルナの賞賛を受けたセリアは満足気に頷き、彼女の背中をトンと押した。そう、突然押したのだ。ルナは押された勢いに抗えず、体制を崩し、前のめりに倒れていく。


「はっ?」

「さぁ、貴方も快楽に堕としてあげるわ!!」

「ちょ、まっ」


 こけてタイルに尻餅をつく寸前、湯船から蛸の触手のように水が伸びて、ルナの華奢な身体に絡み付いた。そして、そのままリアが悶えている湯船に引き込んだ。

 湯船に入ってしまったルナは、隣で喘いでいるリアに目を向けた。そして、今から同じ事をされると悟り、ほんの少しだけ恐怖感を感じ震える。堕落してしまいそうで。


「あ、あのっ!! 私は別にマッサージはいらないっ、はぅ!? な、何ですかこの動きっ!! あっあっ、なにこれっ、気持ち良いっ……だ、駄目になるぅ」


 全身を揉みしだき、凝り固まった肩や足を同時に解すようなスライムの動きは、予想よりも遥かに気持ち良かった。

 そして、あまりの気持ち良さに即堕ちしたルナは、セリアのされるがままにマッサージされていく。

 透明なお湯のせいで、2人の其々違った魅力のある美しい裸体が鮮明に映り、スライムはその柔肌を蹂躙するがごとくマッサージを繰り返した。マッサージには勿論、胸やお尻も含まれている。湯船の中で良いように弄ばれる姉妹を見たセリアは、2人の痴態にうっとりと、舐め回すように視線を這わせた。


「はぁ、はぁ、あぁ……いいっ!! 2人とも可愛いわ!!」


 興奮で鼻息が荒くなる。湯船に浸かってすらいないのに、逆上せそうな程に身体が熱くなってくるセリア。「このままでは倒れてしまいそうだ、程々で辞めなければ」と自制心を保とうとするも、魔力の光る指先を止める事が出来なかった。

 もう少しだけ、もう少しだけと欲望が湧き上がり、セリアは理性がくずれるのを気力で留める。本当は自分も混ざりたいが、それをしてしまえば嫌われてしまいそうなので自重する事にした。否、同じ湯船に浸かれば間違いなく理性が崩壊し、2人を弄びながら如何わしい行為をしてしまう事は必須だ。


(抑えるのよ私。今はマッサージ、そうマッサージに集中するの)


 頭の中で自分に言い聞かせる事で、崩壊しそうな理性を押し留めた。

 こうして、姉妹揃って身体の隅々までセリアにマッサージされるのだった。


 ……そう、これはあくまで『マッサージ行為』であって、決して如何わしいものではない。


…………


 浴室前の脱衣所で、3人の少女が着替えながら満足気な笑みを浮かべている。皆同じような笑顔、しかしその根本にある感情は全く違うものだ。


 未だ下着姿のリアは、まるで羽毛のように軽くなった肩を回しながら、マッサージスライムの感想を言葉にする。


「あぁぁ気持ち良かった!! また頼むよセリアさん!」


 憑き物が落ちたようにスッキリとした満足気な表情と、清々しさ全開の声色で頼むリア。しかし上気して朱色に染まった頰や、湿った髪、頰を伝う汗などが色っぽい雰囲気を醸し出していた。本人は気がつきはしない事だが。


 そんな彼女に頼まれて、断れる者などいない。


 それに、リア自身はスライムマッサージに忌避感を抱くどころか寧ろ、全身の疲れがすっかり抜け落ちた事で若干気に入ってすらいた。例え気持ち良くて変な声が漏れ出ており、それを聞かれたとしても、別に如何わしい事をされた訳ではないので、リアは恥ずかしく思わなかったのも理由の一つだ。


 そして、その効能は間違いなく本物なので、この先の夏休み中、身体を酷使しそうなリアからすれば渡りに船な入浴剤だった。修行する上で、身体の体調は良くしておくに越した事はない。


 そんなこんなでお礼とお願いをするリアに対し、セリアは艶々とした頰と、荒くなりそうな息を抑えながら返答した。


「えぇっ、全然いいわよっ。ただ材料が足りないから、明日は無理だけれど」

「それくらいは分かってますよ。また次を楽しみにしておきます」


 嬉しそうな声で言うリアに、まるで自分の心が汚れているような錯覚に陥るセリアだが、今更だなと開き直った。

 それに……セリアとて、自分の欲望を満たせるので拒否する理由が無い。まさにWin-Winな関係と言えるだろう。というより、マッサージは建前で、この入浴剤を作った理由を正直に言ってしまえば『リアとルナの身体を好き勝手に弄くり回す』のが目的だったのだ。


 セリアからすれば、これ以上ないくらい、最良の結果であった。


 ……一方で、純粋にマッサージを楽しんでいたリアとは違い、『姉と共に友人に陵辱されるというシチュエーション』を妄想しながらマッサージを受けていたルナは、未だ熱に浮かされたような表情で、目の焦点が空を彷徨っていた。


 ルナからすれば、姉と共に蹂躙され、痴態を晒して力なく喘いでいた……みたいな状況だったのだから、夢心地の世界から直ぐに戻れというのも無理な話だ。しかも、マッサージとしても普通に気持ち良かったのもある。

 まぁ、そんな建前を並べてみたが、結局の所大好きな姉の痴態を見れた事が1番の理由である。凛々しい雰囲気の人が快楽に落とされる姿を横から眺めながら自分も……という展開。その背徳感は凄まじいものであった。今もルナの頭の中では、女の顔を見せて喘ぐ姉の姿が浮かんでは消え身体の芯から熱が込み上げる。


 気がつけば、ルナの口は頼みの言葉を紡いでいた。


「セリアさん、私も今度、お姉様と一緒の時にスライムマッサージをお願いしても良いでしょうか?」


 言葉の裏に隠された意図に気がつき、ルナの願望を汲み取ったセリアは、口元を三日月のような形に歪めた。


「うふふっ、一緒にね。……勿論、良いわよ」


………………


 リアは寝間着に着替え風呂場から出てから、部屋に戻る前に冷たいお茶を飲もうとリビングへ向かった。その間際、忍び寄ってきたノルンから「お楽しみでしたね」と耳元で囁かれる。

 一瞬呆けてしまったリア。しかし言葉の意味を即座に理解すると、必死に誤解を解く……のだが、後の展開は語るまでもなく分かりきった事だ。


 誤解は解けたのだが、今後この事で揶揄われるのだった。

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