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夏休み『初日』

 テストの結果は良……とは言い難いものの、妥協点でクリア。実技は満点でクリアだったので赤点無し。やったぜ。そして、ようやく訪れた夏休みの初日ではあるが……。


「眠い、しんどい。お布団が恋しいぃ……」


 枕に顔を埋めてぐったり布団に沈み込む。最近、何故か目覚めが悪い。

 どうも、毎日寝ると変な夢を見ているようなのだ。みたいと曖昧にしか言えないのは、単に起きた瞬間、夢の内容が綺麗さっぱり頭から無くなるからである。残るのは、あぁ、しんどかったといった倦怠感のみ。不思議だが、夢なんてそんなものと思えば割り切れる。


 そして未だ布団の上から降りようとしないリアに、妹であるルナは一緒に寝たい気持ちをぐっと堪えて時計を見る。そろそろ準備をしないと間に合わない。

 今日は実家に帰る日だ。電車の時間が刻一刻と迫っている。田舎ゆえに一本の電車を逃せば次は夜まで待たなくてはいけないのだ。


 因みにリアは昨日デイルに「《門》で迎えに来てくれないか」と電話でお願いしたところ「貸し一つになるが、よいかのぅ?」と言われて諦めた。師匠ではあるが、彼に借りを作れば何をされるか分からないから。


 そんな訳で電車で帰らなくてはいけないのだが……無性にお布団が恋しい。そうしてダラダラと布団にしがみついていると、リビングの方からルナの呼び声が聞こえてきた。


「お姉様ー! そろそろ準備してください!」

「あと五分」

「起きないとお姉様の身体を隅々まで弄びますよー?」

「いよっし、起きるかー」


 ガバッと掛け布団を放り投げベッドから起き上がる。ルナに身体の隅々を調べられるのは勘弁だ。許可したら遠慮無しに、あんなところやこんなところまで弄ってきそうだし。恋しいが仕方ない。


 そんな訳で起き上がったのはいいが、前日に大凡の準備は終えてあり、キャリーバッグにも持ち帰るものは詰め込んである。あとは着替えるだけなのでそう時間はかからない。


 リアはクローゼットに手をかけて開けると、中の服を幾つか物色する。


 女になってから、結構な時間が過ぎたが、やはり自分的には可愛い衣服より男物の衣服の方が好みだ。スカートなんかを履く事に抵抗は無いが、普段からあのヒラヒラとした下着の見えそうな衣服を身につけるのは精神的に疲れる。


 そんな訳でいつも通り、下着はスポーツブラにスポーツパンツなので、その上から黒いタンクトップを着て、下は半ズボンサイズのジーパンを履く。

 黒いタンクトップは夏の太陽の下では物凄く暑苦しいだろうが、その代わりに汗で濡れても下着が透けにくいという利点がある。いちいち乾かすのは面倒だし実家に帰るだけなので、下手に着飾る必要はない。


 あとは荷造りだが、一応確認しとくかとキャリーケースを開く。中には何枚かの衣服と、それから幾つかの本と携帯ゲーム機を入れてある。あとは何があっただろうか……。


 そうして作業をしていたリアに、影が一つ忍び寄っていた。


 リアの背後に静かに立ち、細い腕を首に回しながら抱きついた。背中越しに人の重みと体温、そして柔らかさを感じる。


 朝の涼しい時間帯とは言え、抱きつかれればやはり暑苦しい。鬱陶しさに短く溜息を吐いた。


 どうせ、ルナがまた、何かと理由を付けて抱きついてきたのだろう。


 そう思い、文句を言おうと後ろに顔を向けようとしたその時だった。首に回された手が這いずるようにタンクトップの下に滑り込み、そして胸を下から持ち上げるように揉みしだいた。ひんやりとした手の感触が、妙に気持ち良く感じる。


「ひゃっ!?」


 こそばゆさと突然の事に、可愛らしく小さな悲鳴をあげたリアの耳元で「ふふっ、おはようリア」と囁く声が聞こえた。


 綺麗な鈴のような声。だが、ルナのものではなく……その聞き覚えのある声に、リアは振り返りながらある人物の名前を呟いた、


「セリアさん? なんでここに……?」


 後ろを向くと、やはりルナの友人であるセリアがいた。同い年なのに何故か「さん」付けしたくなる大人びた雰囲気の彼女に見つめられ、少し顔が熱くなる。

 リアの疑問を聞いたセリアは、亜麻色の髪を揺らしながら妖しく微笑んだ。


「そんな事はどうでもいいのよ。必要な事じゃないわ。今は……楽しみましょう?」

「……何を?」

「ナニを? って、そんなの決まってるじゃない」

「イントネーションがおかしく……ひゃんっ!?」

「あらあら、可愛らしい悲鳴ね」


 セリアはリアの首筋に唇を這わせ、胸を揉む。指に力が入る度に、柔らかなリアの胸はふにふにと形を変える。首筋のこそばゆさと、胸を揉まれる感触に思わず、喉から喘ぎが漏れ出る。


「……ひぅっ」

「ん? うふふふっ、ここがいいのかしら?」


 顔を赤くしながら悶える。良い反応をするリアに、調子に乗り始めたセリアはスポーツブラをタンクトップの下でズラし、更に奥へと手を入れていく。欲望が溢れ出し、セリアの鼻息は荒くなっていった。

 そうしてリアのすべすべな肌と柔らかな肉体を堪能していたセリアだったのだが、終わりは突然やってきた。


 ……背後から冷たい声が降りかかる。


「セリアさん、何をやっているんですか?」


 殺意という名の重圧を伴った問いかけに、セリアはビクンと体を震わせ硬直する。空気が凍りそうなくらい冷え込んだように錯覚した。

 そして、セリアはギギギと音が鳴りそうな程にゆっくりと首を背後に向ける。目の前に瞳からハイライトが消え失せながらも、天使と形容できるくらい可憐で可愛らしい微笑みを浮かべたルナが、仁王立ちしていた。

 例えるならば、まるで勇者を待ち受ける魔王のような風格だ。セリアの気分は、蛇に睨まれた蛙である。どちらにしても、ルナの浮かべる笑みが本気で怖くて、顔の汗腺から大量の冷や汗が流れ出る。この汗の量は暑さのせいではない。


 部屋の中を緊張感が張り詰める。そんな中、状況の理解が全く追いついていないリアは、わざと空気を読まずに口を開いた。


「とりあえずセリアさん、暑苦しいから離れてくれません?」

「そうね……」


 ルナに睨まれているせいか辿々しい口調で、しかし名残惜しそうに離れるセリア。ようやく自由になったリアは背後で静かに視線のやりとりをしている2人に一言「説明してくれー」と言葉を投げた。


……………


 さっきナチュラルにセクハラした事を「ごめんなさいね」と軽い口調で謝りながら、セリアは此処にいる理由を話す。……この時、此処数ヶ月で何故か他人に(女性限定だが)セクハラされる事が多いなと思いながら、リアは彼女の説明に耳を傾けた。


 セリアさんの目的は、スライムなどの魔物を捕まえる事と、幾つかの野草を採取が目的で、ちょうど田舎で近場に山のあるリアとルナの実家へと宿泊する事になったのだとか。

 別に友達が泊まりに来るだけだから断る理由がないと、ルナはセリアの願いを快く了承したようだ。そしてセリアが寝泊まりするのはルナの部屋になるらしい。折角なら宿泊してほしいところだが、学生なので金欠なのは変わらないのだろう。それに、友達からお金を取るというのも気が引ける話だ。

 まぁでも、どうせノルンの事だからのほほんとした口調で「いくらでも泊まっていきな〜」と言いそうだ。寧ろ、ルナの友達なら大歓迎だろう。


 こうしてセリアの同行の理由も分かり、スッキリとした気持ちで帰り支度を終えた。


 余談だが、ルナはセリアと隣の部屋に『お話』をしに行った。最近のルナの行動を鑑みて、セリアの安否が本気で心配になってきたが……火の粉を自分で被りに行くのは御免被るので、両手を合わせて無事を祈っておいた。


 まぁ、2人は割と早く戻ってきたが、セリアの表情はとても窶れて見えた。その後、セリアはソファでうつ伏せに寝転がりビクンビクンと身体を震わせる。


 何をされたのか非常に気になるところだが、触らぬ神に祟りなし。聞くのは……やめておこう。


……………


 ルナはソファでビクンビクンしているセリアを見て、しかしやり過ぎたと反省する気は毛程も起きなかった。


 ……セリアさんの自業自得です。私のお姉様の身体を散々弄ったのですから。

 そんな訳で軽い折檻を終えた私は、キャリーケースをリビングに移動させたり、出発前に水道や電気の確認と、窓の戸締りを確認したりしていたお姉様に問いかけます。


「ところでお姉様、そんな格好で行くつもりなのですか?」


 私、ルナはお姉様のラフな格好に物申しました。肩口から胸元まで肌を露出させたタンクトップに、太ももまで短いジーパン。

 そんな服装だからこそ、綺麗な鎖骨のラインと魅惑的な胸の谷間、それから長くすらりとした足が健康的なエロスを醸し出しています。また、タンクトップという薄着な服装は大きな胸をより強調させ、更には所々下着が見えてしまっています。


「変か?」


 自分の格好を確認しながら変かどうか聞いてくるお姉様。私は返答に少々困りつつ、思った事をそのまま口にします。


「変ではないのですが、少々肌を露出しすぎではないですか?」

「そんなに露出してる?」

「はい。ですので、上から夏用のカーディガンなどを羽織ってはどうでしょう。何なら、私の物をお貸ししましょうか?」

「……うーん、でもなぁ。やっぱり着ると暑苦しいし、どうせ家に帰るだけだからこれでいいよ」

「……む、そうですか」


 私は、タンクトップ1枚というレアな格好のお姉様を……他人に見せたくなかった。健康的な素肌と程よく引き締まった肉体は美しく一種の芸術のようですが、それ故に他の男どもに見られるのが何となく嫌なのです。

 私は我儘ですね……。

 でも、私はこの独占欲を否定せず、素直に肯定しますよ。私のお姉様は私の……いえ、なんでもないです。


 そんな思いからの意見だったのですが、やはりお姉様は自分の魅力に対して自覚が足りないようです。きっぱりと別にこれで良いと言われてしまいました。夏なので服装的には間違ってはいないので言い返す言葉を飲み込み、短い相槌を返しました。そんな私の態度に話はひと段落したと判断したのか、お姉様は手を叩いて口を開きます。


「じゃ、そろそろ行こうぜ。電車に遅れる。セリアさんもほら、そろそろ起きてください!」


 お姉様はソファで寝ていたセリアさんの顔をペシペシと叩いて覚醒を促し始めました。私は……無意識に膨らませていた頰を萎ませて、自分のキャリーケースを引きずり出発の準備を終えます。ついでにセリアさんのキャリーケースとバッグも同じ場所に固めておきました。


 こうして、紆余曲折はありつつも、私達は3ヶ月ぶりに実家へ帰省します。


……………


 玄関の扉を開けて直ぐに、リアの身体は硬直した。1人の、あまり出会いたくない人物がいたからだ。

 目の前には夏だというのに暑苦しそうな黒いローブを纏った、見た目だけはとても紳士そうな老人の……ドラゴン、ギルグリア(人間形態)が腕を組んで待ち構えていた。


「なんでお前、ここにいるの?」

「我もリアの実家に行く為、ここで待っていたのだ」


 当たり前のようにそんな事をのたまうギルグリアにリアは嫌な顔を隠す事なくお断りする。


「ストーカーかよ……嫌です来んな。今直ぐ回れ右して帰ってくれ」

「カルミアが言っていたが……これがツンデレという奴か」

「お前にデレるなんて事、未来永劫無いから。ほんと帰れよお前。ってか誰がツンデレだ」

「照れずともよい。それにお主の母にも挨拶をせねばならんからな」

「話聞こうぜ? なぁ。というか挨拶云々の前にてめぇと婚約した覚えはねぇぞ」

「ほぅ? 我は婚約などと一言も言ってはいないのだが?」

「〜〜っち!!」


 うぜぇ!! と、内心でちょっと苛々し始めたリアは大きく舌打ちをする。

 いや、やっぱり、ちょっとなんてレベルを越えて「取り敢えず殴るか」と暴力的な思考になるくらい苛々していた。気がつけば腕に魔力を流し、拳を結界で固めて振りかぶっていた。


 それすらもツンデレだと思い込んでいるギルグリアは、リアの言葉を軽々しく受け流し戯言を垂れ流した。


「……そろそろデレても良いのではないのか? ほれほれ、我に抱きついてくるといい。優しく抱きしめてやろう」

「《身体強化》」


 魔法で筋力を強化して、そのまま拳を振り抜いた。風をきって轟音を響かせる一撃は、ギルグリアの横頰を的確に捉えて打ち抜く。

 俺に対して『魔法は使えない』と制約で拘束されていたギルグリア。ただ、慢心……というよりは本気でリアの言葉や苛立った態度が、ツンデレの「ツン」の部分だと思い込んでいたらしく、全く防御しなかった。

 その結果…….。


「ぐべらっ!?」


 回転しながら綺麗に吹っ飛んで行き、ベランダから下へと落下していった。下を覗くと大の字で伸びているギルグリアが見える。まぁ、普通の人なら大怪我な高さだけど、ドラゴンだしどうせ無傷だろう。あと、落ちた先に人がいなくて良かった。下手をすれば大事故になり兼ねなかったから。今度からは殴り飛ばす先を考えないといけない。


 そうしてリアはスカッとした爽やかな気持ちで、青く澄んだ夏の空を見上げながら呟いた。


「まったく、今日は気持ちの良い朝だな」


 何事も無かったかのように魔法を解いて、腕を大きく広げる。

 それから深く深呼吸をして、朝の爽やかな空気を堪能した。


……………


 ルナが大きな物音を聞きつけ、何事かと玄関から飛び出してきたので事の顛末を軽く説明したら……コンクリートにギルグリアをめり込ませに行った。リアは《念力魔法》による打ち付けでここまで人体はめり込むのかと戦慄する。


 だが、流石ドラゴン。普通ならコンクリートにめり込むレベルで叩きつけられたらトマトのように潰れて血と言う名の赤い花弁を咲かせる筈なのだが、……原型を保っている。


 どうせ無事だろうと、ピクリとも動かないギルグリアを見なかった事にした。


 一方でセリアは「素材……」と呟き、動かないギルグリアから髪の毛と血を勝手に抜いていく。というか、なんでギルグリアから素材を? と疑問に思ったのだが、あれだけぶっ叩かれて死なない生き物なら人間でも興味が湧くのだろう。彼女はギルグリアがドラゴンだとは知らない筈だし。


 そんな訳でギルグリアは放置して、3人は駅に向かう。


 街中で事件など起きる事もなく無事に駅についた。ちょうど乗る予定の新快速の電車が停車していたが、出発までにもう少し時間の余裕がありそうだ。


 電車に乗るとまずは席の確保をしなければ……と思ったが、方面がど田舎なのもあってか殆ど人がいなかった。まぁ、こちらとしてはありがたい。適当な席を陣取りつつ、荷物を置いて一息ついた。


 出発してからは談話しながら時間を潰した。そうしてだいたい1時間は過ぎただろうか? 朝早くから起きていたらしいルナがウトウトと船を漕ぎ始めたので、俺の太ももを枕にさせて寝かしつけた後、暇つぶしに持って来ていた本を1冊、取り出した。

 本のカバーには青い布を生地に、上から黄色の糸で花の刺繍がされている。何の花かは分からないが、中々に趣向が凝らされたカバーだ。


 そして、対面でノートに思いついた『化学と魔法の反応予想』を書き込んでいたセリアは、リアが開いて熟読を始めた本が気になって問いかける。


「何の本を読んでいるの?」

「あぁ、これは……」


 ペラペラとページが高速で捲られ、パタンと本が閉じられた。


 本の表紙には、英字でタイトルが記載されている。


「冒険譚みたいな物です。幼馴染を救う為に、小さな青年が魔王に立ち向かっていく内容かな。まだ半分も読んでないんで、話の行き着く先がどうなるかは分かりませんけど。あと、タイトルは『剣の折れた勇者の英雄譚』です」

「ふぅん? 知らないタイトル。それに、結構綺麗なブックカバーね。布地のカバーなんて今時珍しいし。その本は、どこで見つけたの?」

「学校の帰りに偶々見つけた古本屋です」


 リアはセリアに本の購入した場所を丁寧に説明した。セリアは頷いてリアの話を聞いていたが、ふと(そんなところに古本屋なんてあったかしら?)と疑問に思う。だが、自分が知らなかっただけであったのだろうと思い、リアの話に相槌を打った。


 リア曰くその古本屋は、落ち着いた雰囲気で客も少なく、またレアな古本が数多くあり、更に古本独特の匂いで心が安らぐ良い店なのだとか。独特の匂いというのは決して悪臭という意味ではなく、紙本来のずっと嗅いでいたくなるような匂いという意味だ。

 それから、店主も狐の面を付けた怪しさ満点の人物ではあったが、話してみると以外と良い人だったとの事。本も割引きしてくれたらしく、安くで購入できたのだとか。


「成る程、中々に良さそうなお店ね。穴場ってところかしら? 今度、私も探してみるわ」

「新学期が始まったら俺が案内しますよ?」

「そう? なら遠慮無くお願いするわね」


 それっきり会話が途切れ、また2人は其々の作業に戻って行った。ルナの寝息と、「ガタンゴトン」と揺れる電車の音をBGMにしながら。


 穏やかな時間は、目的の駅に着くまで続いた。



 しかし……これはまだ先の話になるが、リアの話に出た古本屋はセリアの考え通り存在しなかった。まるで元から存在していなかったかのように、又は忽然と消え失せたかのように。




 けれど、リアがそれを知るのは夏休みが終わってからの事である。


……………


 本を読んでいる内に、不思議と物語に引き込まれる。王道で文学的な文章や物語に惹かれているのだろうか? いつもライトノベルばかり読んでいるせいかもしれないが、凄く場面を想像しやすい。


 頭の中で構築された空想の世界が、想像のキャラクター達が、鮮明に頭に浮かんで、文字を追うごとに動いて話している。まるで、頭の中でアニメを見ているような気分だ。声もキャラの顔も想像の産物なのに、きっとこうだろうという確信を持って読めている。


 ……そんな中で、脇役に当たる騎士のようなキャラが、勇者を魔王の元に送る為に前線で魔物を抑える場面に入った。物語の局面で、1人の生死をかけた戦いが描かれる。この時俺が想像したのは、身体中傷だらけで、鎧のひしゃげた死にかけの騎士。そんな騎士が、死にかけながらも目だけは活気と力強さに溢れさせて、剣を振るう。


 立ち止まらない、振り返らず、前の敵だけをなぎ倒していく。それは、ひとえに勇者を信じているからだろう。きっと、魔王を討ち取ってくれると。だからこそ、前を向いていられる。


 いいな、こういうキャラ。


 このキャラは魔法使いではない。だが、ある意味でリアの理想とする『英雄像』だった。


 どうか、最後まで死なないでほしいと願い、次のページを捲って読み進めた。

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