1学期④
目の前にある両開きの扉は、そこが校長室だと主張するかのように重厚な造りとなっていた。材質は木製なのだろうが、磨き抜かれた黒い扉はまるで鉄製と言われても納得できてしまう。更に、扉の右には女神のように美しい天使が彫られており、反対の右側には口元を歪めた妖艶な悪魔が描かれている。
「センスないなぁ」
レイアの呟きに、思わず頷きそうになった。
「とりあえずノックしようか」
レイアは苦い笑みを浮かべたまま、扉に備え付けてある銀色のドアノッカーを掴み、2、3回コンコンと鳴らすと、直ぐにガチャリと鍵が開く音がなって、右側の扉がキィーと軽やかな音を立てて開いていった。
そして、中から出てきたのは、黒と白の布をふわりと揺らす1人の女の人。艶のある金色の髪はストレートボブで顔立ちは美人だ。
髪の下にある双眸は美しい青色の瞳なのもあって、まるで人形みたいな作り物めいた美しさすらある。しかし、鋭い目つきから放たれる眼光は刃物のように冷たかった。
そんな彼女が着ているのは黒と白のエプロンドレス。スカートはロングである。それから、頭の上には可愛らしく白いフリルがあしらわれたカチューシャをつけていた。
ここまでくれば、それがメイド服だというのは誰でも分かる。でも、なぜこんなところにメイド服を着た女の人が?
校長室から出てきた彼女にどう反応すればいいのか分からず、出しかけた言葉を舌の上でころがしていると。
彼女は腰を曲げて、綺麗な仕草でお辞儀をした。その動作の一つ一つが洗練されており、決して素人のメイドではない事を証明している。
「お待ちしておりました。レイア様、リア様。ハルク様がお待ちです、此方へどうぞ」
「「は、はい」」
綺麗な声色だったが、堅苦しい物言いにはどこか有無を言わせぬ迫力があり、リアとレイアは口答えする事なく返事をして彼女の後について行く。
校長室の内装は……まぁ、一言で言えば『博物館』である。
まず目に飛び込んできたのは、中央に鎮座する大きな地球儀だ。年代物なのか青色ではなく黄色い地球儀だが、小さな色とりどりの魔法陣が至る所に光っており、それが普通の地球儀ではない事を物語っていた。
それから、周囲にはテーブルやら戸棚が多く配備され、その上には長剣や槍などの武器から始まり、鎧や盾などが飾られている。また、銀色や金色のコップや皿などの小物もあり、其々が綺麗に展示されていた。
あと、最後に感嘆した物がある。それは、地球儀の丁度真横にある壁側に置いてあった少し大きめの船の模型だ。通る際に見たのだが、木製で作られた船の模型は帆やロープ、錨からタルまでも精巧に作られており、素人目でも芸術品だと確信できる出来であった。
だがしかし、そんな光景達も奥に進むに連れて変化した。というよりも1番奥はほぼ書類やらの紙が積まれたり散乱していてぐちゃぐちゃだ。さっきまでの整った光景が嘘のようである。
そして、そんな中にある大きなデスクの後ろ。魔王が座りそうな物々しい黒色の椅子に腰掛ける、金髪の少女がいた。
顔にはアイマスクがつけられており、どこかグッタリとしている。
そんな彼女の横にメイド服の少女が歩み寄り、耳打ちした。
「ハルク様。レイア様とリア様をお連れしました」
言い切ると、彼女は反応の無い金髪の少女……に見える、グレイダーツの耳に「ふぅー」っと息を吹きかけた。
そして、彼女の声と吐息にグレイダーツはピクリと体を揺らし、それから片手でアイマスクを外してジト目を向ける。
「耳に息を吹きかけるな、カルミア」
メイド服の少女、もといカルミアと呼ばれた少女は軽くペコリと頭を下げる。
「申し訳ございません」
「申し訳ございませんって……散々言ってもやめないし、お前ワザとやってるだろ?」
「滅相もありません。ただ、ご主人様のお姿が可愛らしいのがイケナイのです。だから、つい悪戯を」
あっけらかんと言ってのけた彼女の表情は涼しいままである。いや、その表情は眉毛に至るまでピクリとも動いていなかった。このメイドさんに表情筋はあるのだろうか?というか表情筋云々の前に、俺の彼女に対するイメージが早速崩れ始めている。言ってはなんだが、どことなくルナと同類な気がした……。
そんな彼女の態度と表情に、グレイダーツは短くため息を吐くと意識を切り替える。
「……まぁいい」
机に肘を乗せ頬杖をつきながら口を開いた。
「よく来たな。レイア、そしてリア。さて、それでは早速で悪いんだが……話をしようか」
キメ顔で言ったグレイダーツに、レイアは呆れ返った顔をしながら
「師匠、その前にそこのメイドさんが誰なのか、説明してくれないかい?」
と、さっきから気になっていた謎のメイドさんについての説明を求めた。
「それでは、改めて自己紹介いたしましょう。私の名前はカルミア・ドレイク……以後、お見知り置きを」
そう言うと彼女はスカートの裾を両手で掴み、軽く持ち上げで頭を深く下げながら優雅に一礼した。
「えっと、カルミアさんでいいのかな?」
「お好きなようにお呼び下さい、レイア様、リア様」
「あー、うん。それで……カルミアさんは師匠とどういった関係で?」
名前は知られているようなので、リアとレイアは名前を名乗らず、代わりに疑問をぶつけた。
彼女はレイアの質問に口元を軽く片手で隠す。そんな仕草すら洗練されていたのだが、仕草とは裏腹に彼女の口から飛び出した言葉はとんでもないものであった。
「私とハルク様の関係は……そうですね、ハルク様がご主人様で私はメイド……といのは建前で、本当は性奴隷です」
「は?」
「ぐっふぅ!? くっ、けほっけほっ!!」
瞬間冷却されたのかと思うほどに、一瞬でピシリと凍った空気の中、グレイダーツの激しく咳き込む音が木霊する。そして、暫くしてから咳が治ったグレイダーツは机の上から身を乗り出して口を開いた。
「カルミアぁあ!! 変なこと言うのやめろ!! 誤解されるだろうが!!」
必死の形相で叫ぶグレイダーツに対しても、カルミアは涼しげな無表情を崩す事はなかった。それどころか。
「え、そんなぁ……ハルク様、なら……あの夜の事はどうなるのですか……? あんなにも私をめちゃくちゃにしておいて、なかった事にするのですか?」
彼女は意味深な事を無表情で言いつつ、軽く目を伏せ哀愁を漂わせる。
たぶん演技なのだろうが…….分かっていても尚、悲しげで痛ましい少女にしか見えず、リアとレイアは思わずグレイダーツへとジト目を向ける。話題の当人であるグレイダーツは、眉根を寄せ右手の親指と人差し指で顳顬を揉んだ。
「頭痛くなってきた」
「ハルク様、大丈夫ですか?」
「お前のせいだよ?」
「そうですか。では、私はお茶を淹れてきますので、失礼致します」
「え、いきなり? てかちょっと待て!! 出て行くならせめて誤解を解いてから……」
グレイダーツの制止を聞かずに、彼女は校長室からそそくさと出ていった。
彼女がいなくなった事で、居心地の悪い静寂が降りる。
「……分かった降参だ。説明するからそのジト目やめてくれないか?」
「分かったよ師匠。でも、幻滅しない説明をお願いね?」
……………
説明を簡潔に要約するとこうなる。
仕事で他国に遠出した時、森の中で一人暮らししている少女と出会う。
何故こんな町外れで生活しているのかを聞けば「居場所がない」の一点張り。しかし魔物の多い森の中にいるのを無視するのも寝覚めが悪いので、駄目元で「私の所で働くか?」と聞いた結果、なんでか自分のメイドさんになっていたのだとか。
因みに性奴隷ではない。大事な事なので二回も言われた。
「……話を聞く限り、あいつの両親は既に故人になっていて、引取先である親戚にも拒否されたんだと。詳しくはあまり聞けてないがな。まぁ、年はお前らより2つ上の18歳だし雇用条件は問題ないが……」
「できれば、この学校に通わせたいと?」
「拾った身としてはな。まぁそれに、私自身が今の所信用できる奴だと判断してるのもある。あと、亡くなった両親やら身の上やらは調べてあるからその辺も大丈夫だ。私の口からは言えないけど」
それを聞いてレイアはあまり詮索するべきでない話題だと思ったのか、開きかけた口を閉じた。
「その話は今は置いておいて。本題に入ろうぜ。構内にいたスライムの件についてだ。捕まえたんだろ?」
急な話の転換に、リアとレイアは同時に言葉を詰まらせる。
「それなんだけど……」
「実は逃げられまして……」
事細かに経緯を説明した。
大体どんな事があってスライムを逃してしまったのか説明し終えると、グレイダーツは椅子に深く腰掛けた。
「成る程な。確かに、私の学校に魔物がいたという事実も、まるで知性があるように動いたスライムも、不思議な事だらけだな……」
頭を捻りながら腕を組んで考え込むグレイダーツ。しかし、暫く考えた後に、小さな声でボソリと呟く。その呟きは曖昧で、しかし確固たる自信があったように思う。
「やっぱり、生きているのか? あんだけ深く埋めたのに?」
グレイダーツは目を細め、部屋の中心部にある大きな地球儀を睨む。
呟きの中にあった「あいつ」とは誰なのか。リアみたいな学生ですら感じ取れる程の殺気を放つグレイダーツに、レイアも気になったらしく、お互いに目配せをした。
「グレイダーツ校長。誰の事ですか?」
「あー、どうしようか」
その問いにグレイダーツは言うべきかと悩み、不意に携帯端末を手に取った。そのまま、指をスライドしていき端末を耳に当てる。どうやら誰かに電話をかけているようだ。数回のコールの後、相手との通話が繋がった。
「今暇か? オーケー、なら校長室に来てくれ。……あん?まぁ、頼んだの私だけどお前も使えるだろうが。はぁ、分かった分かった、開けるから《門》」
魔法が発動し空気が歪み、そこから校長室の扉と同じデザインの扉が出現した。そして、グレイダーツが携帯端末の通話終了ボタンを押すと同時に、ガチャリと音を立てて《門》の扉は開いていく。
《門》の向こうから出てきたのは、黒いローブを着た、長い顎髭とオールバックの白髪が印象的である、知的そうな雰囲気の老人。
そしてリアは、その人物に対して思わず声をあげた。
「師匠!?」
「久しぶりじゃの、リアよ」
実家にいるはずの我が師である、デイル・アステイン・グロウが朗らかに笑みを浮かべて立っていた。
………
テーブルとソファがあるという事で、校長室の隣にある応接間に通される。そこには既にカルミアが待機しており、俺達が座るや人数分のティーカップを置き、紅茶を淹れて行った。華やかなダージリンの香りが応接間に広がり、気分が穏やかになってくる。
「ありがとう、カルミアさん」
最後に置かれたのがリアだったので礼を言うと、彼女は軽くお辞儀をした。
「お礼など結構ですよリア様。それに、私の事は名前などで呼ばずに雌豚とでもお呼びください。その方が私も興奮しますし」
「へ? あ、あはは……」
これは、どう反応するのが正解なんだろうか。なんて言葉を返せば良いのだろうか。
反応に困るという言葉は、まさにこの時の為にあるものだとリアは思った。
そんな彼女は尚も無表情のまま、レイアにも自身を罵倒する呼び方をしてくれとお願いし始める。当人のレイアはポカーンと口を開けていた。うん、気持ちは分かるよとリアは心の中で深く頷いた。彼女、外見だけだと瀟洒な人って印象が強いから余計に混乱する。
数秒間程口を開けていたレイアは頭を2、3度振ってから口を閉じ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「なんでそんなに自分を卑下したがるのさ?」
そして漸く頭が回転し始めたのか、レイアは咄嗟に質問を投げかける。リアも同じことを聞きたかったので彼女の返答に耳を傾けた。
「……? そんなの、私がドMだからに決まっているじゃないですか? リア様からは女王様としての素質を感じますし、レイア様の可愛らしい見た目から放たれる毒舌を想像するだけで……っん、濡れてしまいます。最高ですね。なんなら、私を貴方様方のペットにしてくださっても構いませんよ」
聞かなければよかったかなと思った。女王の素質ってなんだよ……いらねぇとリアは項垂れる。しかし……容姿端麗な彼女が首輪をしているという光景は、例え想像であっても背徳感が凄い。
……だが、ここで流されたら終わりだ。とりあえず、思考を別の事に割く事にした。
ふむ……レイアから放たれる毒舌か。リアはレイアがキツイ言葉を笑顔で吐いている光景を思い浮かべ……なんか、それは少し分かる気がした。
可愛い見た目のレイアに蔑まれたら、間違いなく心にダメージを受ける自信があるが、そのギャップは凄まじいものだろう。Mな人なら必ず需要がありそうだ。まぁ、自分はMではないので快感は感じないだろうし分からないけど。というより、リアはどちらかと言えばいじめたい方でS寄り……。
「さぁ、リア様。これを私の首に」
リアの考えを読み取ったかのようなベストタイミングで、カルミアは目の前に赤い革製の首輪を差し出してきた。首輪には『雌奴隷』とタグが掛けられ、完全にそっち系のプレイをする為のアダルトグッズであると直感で分かった。
「い、いやいや。それは……」
頭の中の辞書を全力で捲る。最も、最適な台詞はなんだろうかと。
「その首輪は、グレイダーツ校長に着けてもらってください」
避けられないなら、誰かに擦り付ければいい。我ながらアレな考え方をしているが、グレイダーツ校長が彼女を雇ったのだから自分は悪くない。
そして、リアの提案を聞いたカルミアは悩む素振りをした後、グレイダーツの方へと方向転換した。
「……そうですね。では、ご主人様、これを。そして私を性奴隷に」
「え?」
優雅に紅茶を飲み傍観に徹していたグレイダーツは、急に標的にされた事に驚き、ティーカップを落としそうになっていた。
「しないから。というかジリジリにじり寄って来んじゃねぇよ」
「はぁ、はぁ……」
無表情ではあるが、カルミアの頰はほんのりと赤みが増していて、心なしか息遣いが荒い。
そんな彼女の行動を本気で嫌そうにしながら、グレイダーツは引っ手繰るようにカルミアの手から首輪を掴んだ。そして一瞬だけ手から炎を吹き上がらせ、持っていた首輪を灰に変える。
「あ……その首輪ちょっと高かったのですが……」
「給料何に使ってんだよお前……」
グレイダーツは呆れた顔で「もういいから黙っててくれ」と命令口調で言うと、カルミアは「はい、ご主人様」と軽く頭を下げて半歩引き下がった。
そして、やっと静かになった……と誰もが思ったその時。
「面白い娘じゃの。そうじゃ、これをあげよう」
今まで黙っていたデイルが口開き、それから紙袋をカルミアに手渡した。手渡された紙袋をまじまじと眺めながら、カルミアは首を傾げた。
「デイル様、これは……?」
「メイド服じゃよ」
「そうですか、ありがたく受け取ります」
「うむ」
「では着替えてまいりますので、失礼します」
スタスタとカルミアは部屋から退出していった。
そんなやり取りを聞いていたリアは思わず立ち上がり、デイルの元まで近づいていく。確認したい事があったから。
「なんでメイド服なんか持ってきてるんですか?」
肩に手を置いて問いかける。デイルはリアの威圧の篭った敬語口調に内心汗を流しつつ、笑顔は崩さない。
「それはのぅ……本当はリアに渡すつもりだったからじゃ」
「やっぱりな、そんな気はしてたよ」
「ま、待て待て!! ここで魔法ぶっ放すのはやめるのじゃ!!」
手に魔力を込め始めたリアを宥めながら、デイルは元より用意していた台詞を言った。
「リアは何と言っても着ないという事くらい、わしだって分かっておる。だからそこのメイドさんに渡したのじゃよ」
「……本当は?」
「ノルンさんに「胸囲を小さくしたまま直すの忘れてたから、たぶんリアちゃんは着れないだろうし、可愛い子がいたらその子に渡してね」と言われていて」
「……で?」
「エロいメイド服だから似合うかと思って渡したのじゃ」
「ギルティ」
「ちょ、待つのじゃリア。ちゃんとお主のもあるぞ? ほれマイクロビキニが」
「往ね!!」
こいつ、揺るぎねぇと思った。もう師匠って呼ぶのやめようかなと本気で考える。
そして、このどこにぶつければいいのか分からない、苛立ちに似た複雑な気持ちを元に軽く殴っておこうと思った。
「《結界殴……」
リアはデイルを取り囲むように座標を指定し魔法を発動しようとした、その時「prrrr……」とスカートのポケットから着信音が響いた事で仕方なく中断する。
若干、苛々しながら携帯端末を取り出して宛名を見て、少し落ち着いた。
「……母さん?」
宛名には『母』と表示されている。その宛名にリアは意気揚々と通話ボタンを押すと、携帯端末を耳に当てる。
そうして通話を始めたリアにデイルは心底ホッとしながら、隠蔽に隠蔽を重ねて張っていた《結界魔法》を解除していった。殴られるのは慣れているが、ドMではないので痛いものは痛いのだ。
耳に携帯端末のスピーカー部分を押し当てると母のゆったりとした声が聞こえてくる。
『おひさーリアちゃん。たぶん今くらいにちょうどデイル様ぶん殴ろうとしている頃だと思うけどあってる〜?』
エスパーかと思いたくなる程ベストタイミングである。
「久しぶり母さん。うん、あってるよ今殴ろうとしてた」
『はは〜まぁ、渡してって頼んだのは私だから許してあげてね。それで突然なんだけど、リアちゃんとルナちゃんにお願いがあるんだ〜』
「お願い?」
急な話の方向転換に戸惑っていると、電話の向こうから「あぁ〜」と間延びした声が聞こえた。
『えっとね、色々と洋服作ったから、リアちゃんとルナちゃんにモデルをして欲しいのよ。報酬として来月のお小遣いと生活費上げるからさ〜』
なんとも魅力的な提案だ。
正直、夏に発売するゲームソフトの為にバイトでも探そうかと思っていたから。しかし、さっきデイルが「マイクロビキニ」と言ったせいもあって、速攻でうんとは頷けずにいた。
だが、リアが黙っているのを『嫌がっている』と思ったノルンは追撃を開始する。元より、母親だからこそリアの性格は熟知しているのだ。
『着るのは試作品の夏用ワンピースとキャミソールでいいよ。たぶんリアちゃんにも似合うと思うし……露出も肩くらいだから安心して』
「やるよ」
気がつけば、リアは即了承していた。それくらいなら構わない。もう女物の服を着る事に抵抗など全くないから。なにより、お小遣いアップの魅力には逆らえなかった。
『おー、ありがとね〜。あー、あと、マイクロビキニは余った素材で適当に作っただけだから、いらないならデイル様にでも着せておいて』
「それは流石に気持ち悪い」
『確かに。でもあの人変態だから嬉々として着そうな気もするけど〜。まぁ、とりあえず、そういう訳で話を終わるね。あ、服は着たところを一応写真撮って送ってね!! あと、寂しかったらいつでも電話してきてよ〜』
「うん」
『じゃーね、リアちゃん』
「またね、母さん」
その言葉を最後に通話は終わった。リアは携帯端末をポケットに突っ込みながら軽くため息を吐き出し、デイルの方へと片手を差し出す。
「という訳で不承不承だけど、母さんからの服受け取るから、さっさとよこせ」
「ほぉっほぉっ、わし、師匠の筈なのに全く敬意がないのぅ。まぁ良いじゃろう……ほれ。……にしても親子揃ってわしを変態扱いとは……びくんとするの」
阿呆な事を言っているデイルを無視しながら、片手で手渡された紙袋を胸に抱いた。そして、疲れたようにどっぷりとソファへ着席する。
「……んじゃ、そろそろ本題に戻ろうや」
リアが座ったのと同時に、グレイダーツは脱線に脱線を重ねていた話を、本来する予定だったものに修正する事にした。これ以上脱線すれば、ただのお茶会にしかならないからだ。
デイルも雰囲気を戻す為に、さっきから喪失していた威厳を取り戻そうと必死に顔つきを変えて顎髭を撫でる。威厳に関しては手遅れ感があるが気にしたら負けだ。
「デイル、一応聞くが、してもいいよな? あいつの話を」
真面目なトーンで言うが、雰囲気はとても軽かった。デイル自身も「まぁ、いいんじゃないかの」と適当に返していた。そんな2人に対し、それ程重要な話ではないのか?と考え始めていたのだが。
「じゃあ言うからよく聞けよ。実はな、過去にあった魔物との大戦……人魔戦争には主犯格、所謂『魔王』と呼ばれた魔法使いが居たんだよ。それで、そいつはおそらく復活している。親友……クラウが倒した事になってるが、あくまでも封印されているだけで……。もし解放されたのなら、ちょっかいをかけられている事になる」
「ついでに付け加えると、その『魔王』はわし達、もっと言えば大戦時に前線に立っていた者しか知らない存在なんじゃよ」
「そんでもって、そいつは私とデイルの同級生だ。名前はヴァルディア・ソロディス」
「当時は美人で有名じゃったのぅ。まぁ、わしは告って手酷く振られたからあんまりいい記憶はないんじゃが」
「お前がヴァルっちとか変なあだ名付けて馴れ馴れしくするからだろう。自業自得だ。私でもキモいと思ったし」
「え?」
そのまま、過去の話に花を咲かし始めた英雄2人。そのテンションは完全に、修学旅行中の学生である。
そんな、とてもとても軽い雰囲気で話された内容は、正直とんでもないものだったのではないだろうか?
というか、スケールが大きすぎて脳の処理が追いつかず、リアとレイアは揃ってぽかんと口を半開きにしながら阿保面を晒すのだった。




